7話 新たな出会い
ベッドでしばらく横になっていると、部屋の外に人の気配がした。どうやらこちらの様子を伺っているようだった。
「誰…?」
ゼルが恐る恐る声をかけると、ビクッとしたようだった。
「すっげーなんで居るって分かったのー?
隠れてたのにー!」
そう言ってその子は姿を現した。
ゼルよりは年下っぽくて、元気そうな男の子だった。
「こらっファル!
まだ疲れてるんだから、起こしちゃダメでしょ!」
後ろからもう1人現れてファルという子に軽くチョップする。この子はゼルよりも年上そうな女の子だ。
「えーでもルミ姉だって気になってたじゃん!」
「それはそうだけど…でも、迷惑かけちゃダメだよ!」
ゼルのことはそっちのけで、2人で口ゲンカを始めてしまった。いや、見た感じファルという子が一方的に文句を言ってるようだった。
別に迷惑じゃないからって言おうとしたら、
「じゃあ、元気になったらまたね。」
っと言ってルミ姉って人がファルという子を連れてどこか行ってしまった。
子供達の雰囲気はとても良いように思った。
3日経って普通に歩けるぐらいにはケガが回復したので、サラさんはゼルをみんなに紹介してくれるそうだ。
「本当にもう大丈夫なの? ひどいケガだったよ?」
「流石に触ったりしたら痛いですけど、歩く分には大丈夫です。」
「そうなんだぁ。すごい丈夫だね。」
サラさんはまだ心配してくれている。本当に優しい人だなと思った。
「みんなで何人くらい居るんですか?」
「4人いるよ。ここはね、私の両親が魔獣のせいで両親を亡くした子供達のために建てた所なんだ。だから魔獣が急に現れ始めた30年前とかはたくさん子供達がいたんだけど、今は魔獣にも慣れてきた頃だからすっかり減っちゃった。まあ良いことなんだけどね。」
人とあまり関わったことがなかったゼルにとっては、その方がありがたかった。
「ゼル君と同い年の子も1人いるし、みんな良い子達だからすぐに馴染めるよ。」
人と関わることにまだ少し抵抗はあり、緊張もしていたが、それでもゼルは少し楽しみにしていた。
廊下を抜け、みんながいるという広間への扉をサラさんがゆっくりと開く。
するとみんな一斉にこっちを見た。こういうのは初めてで全身に緊張が走ってきた。
「さあ、ゼル君。自己紹介して。」
サラさんがゼルの耳元でそう言う。
「ゼ、ゼルです! 11歳です!
よろしくお願いします!!」
そう言って深々と一礼をした。
ゼルは自己紹介というものが初めてだったので、上手く出来たか不安だったが、みんなの反応的には別に大きな失敗をしたわけではなさそうだ。
「うん! よろしくねゼル君!
じゃあみんなも自己紹介していって!」
「ファルです! 9歳でーす!
よろしくー!」
1番初めに自己紹介したのは、さっき医療室のところでみた男の子だった。やっぱり元気な子で、みんなから愛されていそうなのが分かる。
「えっと、マーフィです。 5歳です。
よろしくお願いします。」
今度は見たことない男の子だ。まだ5歳なのにしっかりとしていて、ゼルのように深々と礼をする。
「ライカです! 11歳です!
よろしくお願いします!!」
今度も見たことない女の子だった。さっきサラさんが言ってた同い年の子というのはこの子だろう。ファルほどではないが、明るくて元気そうな子だ。
「ルミネータです。 14歳です。
よろしくお願いします。」
さっきファルにルミ姉と呼ばれていた人だ。最年長ということもあって、一番落ち着いていてしっかりとしている。
すぐに何かして遊ぼうということになった。
まだ体は痛むのだが、激しく動きさえしなければ大丈夫だ。
まずはボールでも使って遊ぶことになり、ボールを探す。しかし中々見つからない。
「あれ〜、確かにこの辺に置いておいたと思ったんだけどな〜」
とファルが呟く。なんとなく勘づいてはいたが、犯人はファルだったらしい。
1分と少しぐらい探し続けても見つからなかったので、ゼルは
「もうボール創っちゃえば?」
と最初から思っていたことを口にしてみた。
するとみんなが一斉にゼルの方を見た。
「えっ? 創れるの?」
「えっ? うん。」
もしかして白人って”破壊”の方だったっけ、と一瞬思ったぐらいに驚かれた。
ゼルが色や大きさはどのくらいがいいかを聞き終わると、すぐに右手にボールを創った。
「すげーーマジで本物みたいだ!」
「大人しかやってる人見たことなかったのに!」
「もしかして訓練とかしてたの?」
と口々に驚かれた。
「えっ…まあ訓練してたのかな…覚えてないけど…
なんか体が覚えてる感じ。」
忘れかけてた記憶喪失設定がまた思い出された。
結局、もっと色んなもの創ってみて、と言われたりしてボール遊びどころではなく、そのまま日が暮れた。
まだ1日も経っていないのに、みんなゼルと仲良くなった。
初めて親以外の人と遊んだゼルは、確かに楽しさを感じていた。
だが、この関係も正体を明かせば全て無くなるんだろうという不安と、常に嘘をつき続ける罪悪感がゼルを襲う。
ゼルは1人暗闇の中で眠った。