64話 分断(1)
ノアの作戦はこうだ。
まずは、自身の魔術を使って魔獣細胞を創り、元ダブルスター以上の魔人を自分に変装させる。元ダブルスター以上の魔人を使ったのは、雑魚兵士に強さの判別をつけさせないようにするためである。実際に、一般兵士からしてみれば、元ダブルスターの魔人の身体能力と魔王の身体能力を比べても、どちらも高すぎて判別がつかない。
そして全員を変装させると、まずは初めの囮に任命した元ダブルスターの魔人を北側で敢えて兵士に見つけさせ、レッドスターを呼ぶ。そして、その魔人が死んだのを感じると、魔獣や魔人特有の電気信号で、自分に扮しさせた他の魔人6人に合図を送る。
その命令内容とは、魔術を使わないで各方面へと逃げること、それだけだ。これにより、本物の魔王が逃げていても、それが本物であるとは分からない。魔術を封じたのは、魔術を使ってしまうと、魔王ではないと吐露するようなものだからである。
そして、魔王の目論見通り、ドルタ達はどの信号弾が本物の魔王のものか判別できずにいる。
「思ったより早くバレたな。もう少し時間を稼いでもらうつもりだったが…」
ノアは、南へと走りながらそう呟く。
ちなみに、他の魔人達には、それぞれ北西・西・南西・南東・東・北東方向へと逃げてもらっている。
「まあいい、もうすぐで俺はこの森から脱出できる。」
ノアは、マゾン大森林から大きくジャンプして、対岸へと降り立つ。
「ま、魔王だああ!!」
待機していた兵士に見つかり、信号弾を打たれてしまう。だが何も問題はない。ほぼ同じタイミングで、南西方向と北東方向でも同様の信号弾が上がった。他の方角でももうじき打たれることだろう。
「見つからないのが最善だったが…まあこれは仕方がないな。」
ノアは、兵士を無視して南へと突っ切る。ここで、魔人化させるなどという愚かな真似はしない。魔術を使わずに殺すこともできたが、今は少しでも時間が欲しかった。
「しかし…もう少し持続させるように創るべきだったな…まだ時間は稼げただろう。」
ノアがマゾン大森林から脱出して、約1分が過ぎた。
ノアがこう言ったのは、変装の持続時間の話だ。
というのも、誰かの顔そっくりに創るというのは、かなり繊細な作業であり、相応の練度が必要である。それゆえに体力を大きく消耗することになる。
それを嫌ったノアは、体力を少しでも温存するために、持続時間を削った。
まもなく、その時間が終了してしまう。
「まあいい、かなりの距離を逃げることが出来た。
それに変装が解除されてプラスになることもある。」
変装が解除されると同時に、魔術の使用が許可される。
ノアは、自分が創った魔獣細胞が崩壊するのを感じた。その直後、かなり距離が離れているだろうにもかかわらず、悲鳴が聞こえる。
これで自分が魔王だとバレたわけだが、他の魔人を無視も出来ないだろう。このまま各方面へと逃げた魔人を放置していたら、市街地で重大な被害を受けることになる。それは流石に許容できないはずだ。
今のところ、ノアには何も問題はない。
ノアの予定では、このまま南へ進んでいくとリッキー平野がある。そこで何人かを魔人に変え混乱させ、また前回と同様にリッキー平野内で内乱を起こさせ、その騒動の間に身を潜めるつもりだ。
〜マゾン大森林 北側 数分前〜
ドルタ達3人は、打ち上がった複数の信号弾にどう対処するかを話し合っていた。
「信号弾の上がり方からみて、魔王本人含めておそらく7人いる。マゾン大森林の中心から見て北西・西・南西・南・南東・東・北東に1人ずつ。全員外側へと移動している。」
冷静なドルタが現状を正確に伝える。
「どれが魔王か…単純に考えるなら俺たちを北側に集めていることから南が魔王、ということになるか?」
「確かにそうですね、では全員で南へ向かいますか?」
ザキが発案し、ソニアがそれに同意する。
「いや…今回の場合はどれが魔王なのかは最優先事項ではない。魔人が全員そのままの方向で逃げ続けるなら、全員が市街地へと侵入することになる。仮に南が魔王だったとして、俺達3人が南に向かって魔王を倒せたとしても、民間人から大量の死傷者を出してしまっては意味がない。
さらに最悪の場合は、魔王が南でなかったり、逃げられたりすることだな。」
「しかし…」
「分かっている。逃げているとはいえ相手は魔王。
最低でも我々が2人はいないと厳しいだろう。」
魔王を逃せまいと3人が固まって行動すれば大量の民間人が被害に遭う。かと言ってバラけさせればドルタ達が危ぶまれるだけでなく魔王を取り逃がすことになる。
「俺に考えがある。ザキは北西・西・南西の順に、ソニアは北東・東・南東の順に魔人を狩っていってくれ。俺は最も魔王がいる確率が高い南に向かう。」
「しかしそれじゃあドルタさんは…?」
「大丈夫だ、言っただろう?俺に考えがあると。」
ドルタはザキの方を向いて答えた。
「俺の考えを言う前に、ザキの意見を少し訂正しておく必要がある。魔王が南にいる根拠はもう一つある。
このマゾン大森林の南には何がある?」
「…あ、リッキー平野!」
「そう。おそらく魔王はまたリッキー平野を襲い、混乱を招く気だ。そして自分の身を隠す。
だが魔王は知らない、リッキー平野には今レッドスターがいることを。」
「あ、もしかしてあの混血の…?」
「そうだ。俺はリッキー平野で、ゼルと共に魔王を討つ。現状を打開するにはこれしかない。」
「なるほど。 確かにそれが良いかもですね。」
「しかしあの少年は本当に大丈夫なんですか?
功績は大したものですけど、その実力はまだ見たことがない。」
ザキが、ゼルの働きは認めつつも、その実力を心配する。
「大丈夫だ、”創造”の魔術だけでもトリプルスター級はあった男だぞ。それにモンスから何やら新しい技をもらったそうだ。
そして何より———」
ドルタは演説前のゼルの言葉を思い出す。
「———あいつは心の強い奴だ。きっとお前達の想像を超えるぞ。」




