4話 別れ
ロサーノとアウロラは決心が固まった。
せめてゼルだけは…どうにかして…
アウロラはゼルのそばに寄り、ゼルと同じ目線までしゃがみ、ゼルの肩に手を置く。
「ゼル…ごめんなさい…
私達もう…一緒にはいられない…」
「………えっ?」
ゼルは、あまりに急なことに何が言われたのか分からなかった。
「すまない…人に見つかった。
だが、お前はまだ見つかっていない。
お前だけなら…まだ生き残れる。」
ロサーノが肩を見せて説明する。
しかし、ゼルにはまだどういうことか分からなかった。いや、見当はついているのかもしれないが、それを受け入れるということが出来なかった。
「どういうこと…?
…前に言ってた、白人と紅人のケンカってやつ…?」
「そうだ。油断していた…すまない。」
「ゼル…よく聞いて。
あなたはこれから白人として生きていかなくてはいけない。
“創造”で右目と髪を白に染めて。
そうすれば、みんなあなたを純粋な白人だと思う。
それなら———」
「でも…1人じゃ生きていけないよ。」
段々と状況を理解してきたゼル。目には涙を浮かべている。
アウロラがゼルを抱きしめる。
「ゼル…よく聞いて。
私も昔は1人だったの。親が魔獣に殺されて、それで山にずっと1人だった。だから今のゼルの気持ちもとても分かる。
でも生きて!
私は何の目的もなく生き続けた。正直毎日が退屈で辛かった。でもお父さんに出会ってからすべてが変わったの。
あなたもきっとそんな日が来るはず。
きっと…だから生きて!」
ロサーノもゼルの近くにしゃがみ込む。
「ゼル…酷なことを言っているのは分かってる。
だが、お前なら必ず生き残れると信じている。
そして出来るならば、お父さんとお母さんの分まで長生きしてほしい。これが俺からの最後の願いだ。」
ゼルはさらに泣き出した。
「ゼル…分かってくれたか?」
「……うん。」
「流石は俺の子だ。」
ロサーノは笑顔になり、思いっきりゼルの頭を撫でた。
「きっとあなたなら大丈夫。ゼルなら必ず生き残れる。」
アウロラも笑顔になり、ゼルの頬にキスをした。
ゼルは右目と髪を白に染めて、両親を見上げた。
まだ目には涙を浮かべているが、必死に涙を堪えようとしている。ゼルなりに両親を安心させようとしたのだ。
「じゃあ、行ってきます!」
「ああ、頑張れ! 応援しているぞ。」
「ゼル…必ず生きてね!きっと幸せな日が来るから!」
ゼルは行った。
離れていく後ろ姿を見て、アウロラは目に手を当てて泣き出した。アウロラもゼルを不安にさせまいと必死に涙を堪えていたのだ。そんなアウロラの肩にロサーノが手を当てる。
アウロラとロサーノは家に戻ってきていた。
ゼルが居た証拠を全て消すためだ。
ゼルが使っていた子供用のものなどを、ロサーノの”破壊”で消していく。
「さあ、この写真で最後だ。」
ロサーノはゼルと3人で撮った写真を手に取って、まだ破壊せずに見つめている。
「これで…ゼルは安全に生きれるのね。」
アウロラはロサーノの近くに寄って、一緒に写真を見ている。
「そのはずだ。あらゆる証拠を消した…」
写真を見ているうちに、ゼルとの思い出が思い出されてきて、この最後の写真だけは中々破壊出来なかった。
すると、外に人の気配がした。しかも何十人もいるようだ。
おそらく兵隊だろう。
「時間切れだな…」
最後の最後まで写真を見ていたかったが、万が一にも見られるわけにはいかないので、惜しそうに写真を破壊してしまう。
「ゼルならきっと大丈夫よ。」
アウロラはロサーノに手を当てる。
そしてロサーノに近くに置いてあった銃とナイフを渡す。これは”創造”の魔術で創ったものではなく実物だ。再構築によって物が崩れれば白人、つまりアウロラの協力があったとバレる。
「ああ、もちろん俺も信じてるさ。
ただやはり心配だ。ゼルはこれからとても辛い思いをしていくだろう。」
「…そうね。複雑な家庭に生んでしまったことは本当に申し訳ないわね…」
外からドアを叩く音が聞こえ、男の声が聞こえる。
「本当に時間切れだな…
お前と会えて本当に良かった。」
「私もよ。」
「……じゃあな。またすぐに会おう。」
「……ええ。」
ロサーノはアウロラの胸にナイフを刺した。
アウロラの胸からは血が飛び散り、その場に倒れ込む。
それと同時に白人の兵士が扉を破り入ってきて、ロサーノに銃を構える。
兵士が目にしたのは、胸を刺されおそらくは絶命している白人のアウロラと、そのアウロラを刺したであろう血に塗れたナイフを握っている紅人のロサーノだった。
「紅め!! その人から離れろ!!
なんの目的でカルティアに入った!?
その銃とナイフを捨てろ!!」
「うるせぇ〜な〜入ってきて早々。」
ロサーノがアウロラから視線を切ると、鬱陶しそうに白人を睨む。
「いいから答えろ! 殺すぞ!」
白人が銃の引き金に指をかける。
それに対して、ロサーノは不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ お前ら白の言いなりになるくらいなら死んだ方がマシだよ!」
そしてその笑みを浮かべたまま、持っていた銃を頭に向けて発泡した。