3話 遭遇
あれから毎日魔術の練習をしていたゼルは、11才になると”破壊”も”創造”も並の大人以上に使えるようになっていた。そのため、今日は魔獣相手に実戦練習をしようということになった。魔獣については未だにあまり解明が進んでいないが、普通の動物が突然変異したもの、と今のところはなっている。つまり動物がたくさんいる山奥へ行けば必然的に魔獣の出現率も上がる。
実は今までも何度か魔獣が家に襲いにきたことがあったのだが、その時はロサーノが退治していたので、ゼルにとってはこれが初めての魔獣退治である。
魔獣の中にはロサーノが1人では倒すことができないようなものもいるので、今回はアウロラも一緒だ。
「初めは何がいいかな?」
ロサーノがアウロラに、何の魔獣が狩るのにいいか聞く。
「いきなり肉食獣は流石に早すぎると思うから、最初は小さい草食獣にしましょう。」
「俺はゼルなら肉食獣でも難なく倒せると思うがな、まあ初めだしそうしようか。」
そうしてしばらく歩いていると、都合良く羊の魔獣が現れた。魔獣は肉食草食関係なく基本的に人を襲う習性があるので、こちらに向かって走ってくる。
「ゼル、じゃああの魔獣を狩ってみようか。
いいか、前にも言ったが魔獣はどんなに傷付けても再生する。だが心臓の部分、コアと呼ばれるところを壊せばその魔獣は死ぬ。俺から言えることはそのくらいだ。
お前なら大丈夫だと思うが、一応頭は守ってな。」
ゼルは早く戦いたくて仕方なかったが、ロサーノの話をしっかりと聞いていた。そしてヘルメットを頭に創造するとゼルは少し前に出て、羊の魔獣を鋭く見つめる。
羊の魔獣は、勢いよくゼルに飛びかかる。
ゼルはそれを予期していたように盾を創造し、羊の魔獣はそれに勢いよくぶつかる。するとゼルは創ったばかりの盾ごと羊の頭部を破壊した。羊の頭部は完全に破壊され、それゆえ羊は暴れるが、ゼルはその隙をついて心臓部分を掴み、破壊した。羊は頭を失ったままそばに倒れ、腐敗臭を出し始める。
「ハハッ 凄い!! 完全にどっちの魔術も使いこなしてる。」
「…本当に凄い! 教えたことをすぐに実戦でも使えるなんて…」
ロサーノはゼルの戦いに喜びが強かったが、アウロラは驚きの方が勝ってる。
しばらくするとゼルがアウロラとロサーノの元までやってきた。
「どうだったー?」
ゼルが褒められるのを分かっているかのように尋ねる。
「完璧だったぞ! アドバイスするつもりだったのに少しも思いつかないぐらいだ。
これなら今度はもうちょっと強い魔獣にしても良さそうだな。」
ゼルはとびきりの笑顔になり、すごく嬉しそうだ。
そして今度はもっと強い魔獣を探そうと、さらに山を歩いた。
すると、今度は猪の魔獣が現れた。
しかも平均的なサイズよりも大きく、体長は2mほどあった。魔獣化すると、通常よりも大きくなるとはいえ、かなり大きいサイズだ。明らかにさっきの羊よりは強いだろう。
「流石にあれはまだ早いんじゃ…」
「ゼルなら大丈夫だって!
でもゼル、一応頭は守っておけよ。」
「うん。」
ゼルはそう言うと、ヘルメットを頭に創造し、猪の方へ走っていった。
猪の大きさを見て、心配するアウロラとは対照的にロサーノはまだまだいけるといった感じだ。だが心配は心配なのか、ゼルと猪の様子を遠くから集中して見ていた。
すると、ロサーノの背後から人影が…
バンッと銃声が鳴り、直後銃弾がロサーノの肩を貫いた。
驚愕するアウロラとロサーノ。何が起こったのか分からなかった。
すると、バタバタと足音を立てて白人が近づいてきた。
「紅め!!? ここで何をしている!!?」
白人が銃を構えてロサーノに叫ぶ。
「…なんでこんなところに人が、」
魔獣に会うためにかなり山奥へ入っていたため、人がいるのを不思議に思ったロサーノがそう呟いた。
「おい! 早く答えろ!
どうしてこんなところに紅がいるんだ!?
なんのつもりだ!?」
白人が今にも発砲しそうな構えを見せる。
「待ってください! 一旦落ち着いて!」
アウロラが手を大の字に開いて、ロサーノを庇うように前に立った。
「そう言えばお前もなんなんだ?
何故紅と一緒にいる? まさかその紅の仲間なのか?」
銃を構え続けたまま、アウロラに問う。
「彼は敵ではありません!」
「そんなわけがあるか! お前も紅の仲間だな!?」
「彼は味方です!
本当です! 信じてく———」
「———黙れ! 紅が味方なわけがない!」
白人はアウロラに向けて銃を発砲した。
その銃弾をロサーノが”破壊”を纏った手で受け止める。
「クッ “破壊”の魔術か!」
白人は銃をもう一丁創造し、ロサーノとアウロラの2人に向けて発砲する。ロサーノはまた、その銃弾2つを破壊した。
「クソが! 必ず殺してやるからな!」
白人は銃を捨て、走り去っていった。
白人がいなくなったのを見計らい、アウロラは包帯を創って急いでロサーノの手当をした。
「大丈夫!? まさかこんなことになってしまうなんて…」
「…すまない…俺のせいでお前まで……」
さっきの白人はおそらく軍隊を呼びに行ったのだ。
その矛先はおそらくロサーノだけでなく、ロサーノを庇ったアウロラにまで向けられる。
ロサーノは目に手を当てながら謝罪をする。
「何を言ってるの。死ぬ時まで一緒にいようって言ったのはあなたじゃない。」
アウロラは治療をしながらそう答える。
そしてそこに、猪の狩りを終えたゼルが戻ってきていた。
「お父さんどうしたの? そのケガ…
大丈夫…?」