2話 魔術
アウロラとロサーノが出会って2年後、2人の間に子供が出来た。名を、ゼルという。
ゼルは白人と紅人の混血で髪は紅と白が混じった、と言ってもピンク色見たいになったのではなくて、白と紅ははっきりしているのだが、大体半分半分くらいに比率が分かれている。そして、目は白と紅のオッドアイ。右目が紅で左目が白だ。そしてゼルは、”創造”と”破壊”の魔術の両方が使えた。
ゼルはすくすくと育ち5歳になった頃、魔術に興味を持ち始めた。
幸いここには、どちらの魔術も教えられる2人が揃っている。ロサーノは元軍人ということで言うまでもないが、アウロラは長年1人で山に暮らしていたということもあり、たまに熊などを狩るほどには強く、その分魔術にも精通していた。
〜ロサーノの場合〜
「いいかゼル、”破壊”の魔術は基本的に自分の体に触れているものしか破壊できない。だから例えば手袋をした状態で、手で掴んでいるものだけを破壊することはできない。だがこの場合、手袋もろとも破壊することはできる。」
そう言ってロサーノは実演してみる。
実際に手袋などを使うのは勿体無いので、今回は葉っぱと石で代用することにした。
まず、ロサーノの手のひらの上に葉っぱを乗せる。さらにその上に石を乗せる。
「この場合は、石だけを破壊することはできないが、葉っぱだけを、もしくは葉っぱと石もろともなら破壊することができる。」
そう言ってロサーノは、まずは葉っぱだけを破壊してみせた。
そしてもう一度仕切り直して、今度は葉っぱと石を同時に破壊した。
「ああそれと、今俺は完全に石と葉を破壊、消滅させたが、これはある程度練度が高まらないと無理だぞ。最初の方は少しヒビを入れれたり、バラバラにさせたりぐらいだ。
もちろんこれは破壊する対象の硬度や大きさにも関係する。例えば俺は石程度なら完全に破壊させることが出来るが、鉄レベルになるとバラバラにさせるのが限界だ。また、さっき大きさと言ったが、これは繋げて同時に破壊する場合にも当てはまる。例えば俺はさっき石と葉を同時に破壊したが、極端な話石と葉の組が1万個あって、それを全部紐で繋げて同時に破壊することは不可能だ。」
ゼルはロサーノの話をずっと真剣に聞いていた。
そして自分もやってみたくてたまらなくなっていた。
「やってみたいか? じゃあまずは近くの葉をとってみようか。」
「石と葉っぱをいっしょに破壊しないの?」
「それはお前にはまだ早いよ。まずは1つ1つ練習していくのが肝だ。」
「多分できるよ! みてて!」
そう言ってゼルは近くの石と葉っぱをロサーノと同じように自分の手のひらの上に乗せた。
ロサーノは可愛いなぁというぐらいの気持ちで、ゼルを見守っていたが、次の瞬間驚愕に襲われた。
ゼルは石と葉の両方に”破壊”を伝播させたのだ。
葉は4つに破れ、石は割れこそしなかったがヒビが入っていた。
ゼルは石が割れなかったので、「失敗しちゃった」と言ってロサーノの方を見た。
「とんでもない! 大成功だ!
流石は俺の息子だ!!」
ロサーノはそう言ってゼルを抱きかかえた。
〜アウロラの場合〜
「いい?ゼル。”創造”の魔術っていうのはね、基本的には自分の手元からしか創造できないの。でも例外はある。例えば身につける物の場合、手を経由せずに身についた状態で創造できる。」
アウロラはそう言って、ヘルメットを頭に創った。
「あと”創造”って言ってもなんでも創造できるわけじゃない。”創造”にはイメージ力が大切なの。このイメージ力によって”創造”の魔術の練度が異なる。イメージ力が上がれば上がるほど、創造するものの正確さや持続力などが上がる。正確さって言うのは、例えばよく切れる名刀を創造しようとするとしたら、練度の高い人はその名刀に近い性能の刀を作れる。それに、さらに練度が上がればアレンジを加えて創造することも出来るらしいよ。例えば、炎を纏う剣とかね。
らしいって言うのは、実際に私は見たことがないからね。
でも、練度の低い人は全然何も切れない刀しか作れない。
持続力ってのはそのままの意味なんだけど…創造したものってのは、ある程度時間が経てば自然消滅してしまうの。その時間が、練度が上がれば上がるほど長くなる。もちろん短く創ることもできる。」
ここで、ゼルが手をあげた。
「どうしたの?」
「じゃあなんで紅断壁はずっと建ってるの?」
紅断壁というのは、800年前に白人が作った壁だ。
いかに優秀な魔術師でも、流石に800年もの間ずっと持続させておけるとは考えにくい。
「いい質問ね、ゼル。それはもう一度作り直しているからよ。と言っても、正確には少し違うけどね。
“創造”の魔術によって創られたものに、それが自然消滅する前にもう一度”創造”の魔術をかけるの。こうすることで、消滅するまでの時間を延ばせる。これを再構築って言うの。この再構築は、別に創った本人じゃなくても、その人にその媒体のイメージができればできるの。だから紅断壁がずっと残ってるのは、日々再構築し続けてるってわけ。この再構築ってのは日常の色んなところで使われてるのよ。例えば、私やゼルが着ている服も、実は私の”創造”によって創られたものよ。私の持続時間は服の場合、大体30時間くらいだから、一日中着ていられて、気に入った服はそのまま再構築したりしているわ。服の場合ってのは、物によっても持続力は変わってくるからね。」
「僕もやってみたい!」
ゼルが少し興奮気味に言う。
「じゃあまずは私が創ってみるからそれを持続させてみようか。」
そう言ってアウロラは持続時間を1分に調節して、本を創って、それをゼルに渡した。
「一から本を創ってみる気でいてみて。家にある本をイメージして。」
アドバイスしつつも、再構築がいきなり出来るようになるとは思っていなかった。
だが、ゼルに渡った本は、1分経っても消滅する気配はない。
おかしいなと思い、集中して目を閉じているゼルに声をかける。
「ゼル?」
しかし反応がない。
今度はゼルの体をさすってみる。
すると、ゼルの持っていた本は消滅した。
「あーもう! 集中してたのに!!」
「ウソッ…本当に成功していたの!?」
アウロラは驚きのあまり数秒声を失っていたが、すぐにゼルを抱きしめた。
「すごい!! 流石私の息子だわ!!」
ゼルは才能に溢れていたが、それに溺れることなく毎日魔術の訓練をしていた。それに伴い、ゼルの魔術は”破壊”も”創造”もどちらも上達していった。