1話 出会い
大陸には2種の人類がいた。
“破壊”の魔術を操る紅色の髪と目を持った紅人
“創造”の魔術を操る白色の髪と目を持った白人
紅人と白人は非常に仲が悪く、約500年前に大陸を2つに分け東側を紅人の国アルステーデ、西側を白人の国カルティアとし、白人はその国境に紅断壁という長い壁を作った。
そして現在に至るまでずっと紛争が続いている。
それは約30年前、急に魔獣という人類にとって共通の脅威が現れても終わることは無かった。
今日も紅人と白人の紛争は行われていた。
白人からは大きな大砲が放たれ、紅人の前に落ちた。そこで大きな爆発が起き、紅人の1人が近くの川に落ちて、下流へと流されてしまった…
ここは白人の国カルティア。カルティア南部の山、ミトラ山に1人の女性が暮らしていた。名は、アウロラという。
アウロラが川へ魚を取りに行こうとすると、川岸に1人の男性が倒れているのが見えた。アウロラは急いで確認しに行った。その男性は、目は閉じられていて分からなかったが、髪が紅く、明らかに紅人だった。その紅人は全身傷だらけで、おそらく紛争で迷い込んだのだろうとアウロラは思った。
すると、その紅人が水を吐くように咳をゴホゴホとした。
まだ息がある、と思ったアウロラは自分の家に連れて行き、急いで治療をした。
1日後、男は目覚めた。男には川に流されていた記憶があり、目覚めた時に天井が見えたので、誰かが助けてくれたんだろうと思った。すると、誰かが部屋に入ってくるのを感じた。男は起き上がり、ありがとうございますと言おうとしたが、目の前の白人の女性に驚きそれどころではなかった。
すぐに男はアウロラに敵意を見せて、”破壊”の魔術で攻撃しよう腕をアウロラに向けようとしたが、傷により腕が動かなかった。
「ダメですよ、まだ無茶しちゃ。」
アウロラは男を諌めながら、近くに飲み物を置いた。
「私はアウロラと言います。よろしくお願いします。」
アウロラは腰に手を当てながら自己紹介した。
「あなたは?」
アウロラが続けて質問した。だが男は答えない。
ただ睨むだけだ。飲み物にも手をつけない。
「何故俺を助けた?」
ようやく口を開いたかと思えば、アウロラのことを完全に無視した自分勝手な質問だった。
それでもアウロラは何も気にした様子はなく淡々と答えた。
「何故って、人が倒れていたら普通は助けるでしょう?」
「そうじゃない。俺は紅人だ。そんなことは髪の色で明らかだろう。それなのに一体何故助けたんだ?何が目的なんだ?」
男はさらに睨みを強める。
それに怯む様子もなくアウロラは答える。
「私は白人と紅人の争いには否定派…というよりあまり興味がないので。紅人だとはすぐに気づきましたが、それが助けない理由にはならなかったですね。」
「信じられないな。俺が今まで見た白の奴らは皆、俺たち紅人を心底恨んでいた。それにより今俺はこうして傷を負っている。」
「あなたが見たのは白人の軍人だけでしょう?
わざわざ紅人と戦いたい人がなるものですし、そりゃあ恨んでる人しかいないんじゃないでしょうか?
実際にはかなり少数ですが、紅人を別に敵対視していない白人もいると思いますよ。
それに私が仮に何か目的があったとして、その目的っていうのが思いつかないんですが?」
「例えば、俺を生捕りにして、対紅人の人体実験をするとかな。」
アウロラはよくそんなことが思いつくな、という感じでため息を吐いた。
「じゃあせめて名前だけでも教えてくれませんか?
どんな理由があっても私一応命の恩人ですよ。」
男は少し悩んでいたが、渋々といった様子で答えた。
「……ロサーノ=スヴェート」
「ロサーノさんですね、よろしく。
じゃあ何か作ってきますから、」
そう言ってアウロラは部屋を出て台所へ向かった。
そして1人になったロサーノはこれからどうしようかを考えていた。
(良い奴そうには見えたが白は白だ。やはり殺しておいた方がいいか、それとも少し回復してからの方がいいのか、)
そんなことをずっと悩んでいたら、アウロラがご飯を作ってロサーノの近くに持ってきた。
「これだけしかありませんけど、」
持ってきたのは、白ご飯、それと野菜だけだった。
しかも量がかなり控えめだった。
お世辞にも豪華とは言えない。
「俺は何もいらない。」
「嘘、絶対お腹すいてるはずです。
丸1日寝てたんですから、」
「腹が減っているかいないかじゃない。
白の作ったものは喉を通らない。」
「じゃあここに置いておきますからね、
私ちょっと出かけないといけないんで、それじゃあ。」
アウロラはそう言って家から出ていった。
ご飯をただ見つめているだけのロサーノ、本当はお腹がすいていて食べたくてたまらないのだ。
だが白人が作ったものは喉を通らない。
考え抜いた末、食糧庫のものを勝手に盗んで食べることにした。白人の食糧は抵抗があったが、なんとか許容範囲内だろうと、空腹の限界だったロサーノは思った。
なんとかベッドから起き上がり、家の中を散策すると、食糧庫と思われるところを見つけた。
ロサーノは早速その扉を開けた。
しかし中には、1つの紙しか入っていなかった。
その紙はどうやら食糧の計画表みたいなやつらしい。日付の横にその日の詳細な計画が書かれていた。
すると、昨日の日付の欄だけ少しおかしかった。
魚と書いてあるところが線で消されていたのだ。
そして買い出しと書かれたところが昨日から今日へ矢印で引っ張られている。
どうやら買い出しの日は1週間おきにあって、昨日がその買い出しの日であった。そして今食糧庫には何もない。
(まさかあいつ、昨日から何も食べていないのか?)
するとそこに、おそらく買い出しにいったであろうアウロラが帰ってきた。
「あれ、もう動けるようになったんですか?」
アウロラを見ると大量の食糧を抱えていた。
1人の1週間分には多いような量だった。
「あ、やっぱりご飯足りなかったですか?」
「…お前はどうして俺にそこまでするんだ?」
「え、どうしたんですか急に?」
「いいから答えろ、俺は本当に分からない。
何か目的があるにしても、あまりにも手が込みすぎている。」
アウロラは少し困惑していたが、とりあえず会話が成り立ちそうだったので答えることにした。
「だから、さっきも言ったと思うんですけど、人が人を助けるのは当たり前ですよ。そこに紅も白も関係ありません。」
ロサーノはなんとなくそれが本音のように感じた。
完結まで頑張ります。
ブックマークといいねよろしくお願いします。