表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/114

第十八話 進軍準備と三馬鹿の悪巧み ~そしてやべー奴らが動き出す~

 朝焼けに照らされたラドック城の中庭に、武器を携えた一組の男女がいた。


 一人は聖武典を槍に変えて担ぎ、何事か考えるレイター。一人は手入れされた芝生の上で大の字で喘ぐように呼吸しているシャノンであった。


 三馬鹿の朝練は日課になっていて、いつもならこの場にジオグリフとマリアーネもいるのだが、昨日の悪巧みの結果、朝から慌ただしくすぐに動き出したので今日は休んでいた。その悪巧みの準備に関してレイターはあまり役に立てないので、こうして一人で日課を熟しているとシャノンが参加してきたのだ。そしてサクッと敗北した。


 実はラドックへの旅で、幾度かそういう事はあった。


 基本的に体を動かすのが好きなのであろう。暇を見つけては三馬鹿に勝負を挑んでは負けているが、特にレイターに執着していた。


(まぁ、同じ近接系ってことでプライドもあるんだろうけど、それじゃぁ勝てねぇんだよなぁ)


 彼が見るに、シャノンの身体能力は白銀等級中位から銀等級上位。在野最強に一歩届かない程度だ。だが、そうしたステータスは目安になっても戦闘能力の全てではない。


(サシでの対人戦に慣れすぎてんだ、コイツは。後は、アルバート流が身体に合ってないのと、魔槍への甘えが抜けきれてない。十五でこの身体スペックはかなり上等な部類だが、なんつーかギア比が根本的に噛み合ってねぇんだ)


 アルバート流は言うなら魔法剣士寄りの流派だ。だが、それとは似て非なるものであり、魔力を単純火力よりも補助火力に近い使い方をする。アルバート流セントール派を名乗るシャノンもリヒターのように『残光』を使える。また、魔槍の能力もあり、初見の相手ならば難なく下すことが出来るぐらいに彼女は強い。


 だが、あくまでそれは人を想定した兵士での感覚だ。


 魔法に近い術理を使い、そもそもの基礎スペックが圧倒的に人を上回る魔物を相手にする冒険者に取っては格上を相手にすることなど常である。勿論、基本的に複数人で対処に当たることや、逃げるという選択肢があるからこそそれは為せるのだが、故にこそ戦いに関する嗅覚が鋭い。


 レイターも戦士を名乗るが、基本的に猟師寄りだ。人間の五体、つまり可動範囲の関係で限られてくる攻撃法よりも、千差万別とも言える獣の攻撃法への対処の方が慣れている。人の攻撃は、獣のそれを想像の範疇から逸脱させないのだ。その上、彼女の手の内は既に知っている。戦闘様式(コンバットパターン)がバレているのに、彼女の引き出しがそれほど多くないとくれば、レイターが負ける道理も無い。


「あんま反転、使わないほうがいいぜ。来るのが分かってりゃ、反応できるし。やるなら初見時の不意打ちか意表を突くか、どっちにしろ常用するもんじゃねぇな」

「師匠と同じこと言う…………」

「師匠…………金等級冒険者だっけ?」

「元、ね。今は第一騎士団の団長。よく言われたよ。引き出しが少ないって」


 だろうな、とレイターは思う。


 正確に言うと、セントール派の皆伝まで来ているシャノン自身、覚えた技や型を含めれば手数は多い方だ。だが、そのほぼ全てが絶望的に噛み合っていない上に、戦闘の組み立て方が反転依存。初見の対人に特化しているので、歴戦格ゲーマーからしてみるとキャラパワーを振り回している素人に近い。落ち着いて対処をすれば、手強くあっても負けることはないだろう。


「勝てねぇってんなら、俺がやってやろうか?」

「それ、は…………」


 そして三日後、ここを出立して王都での決戦がある。その際に、間違いなく彼女の師が出てくるだろう。誰と相対するかは不明だが、もしも師弟対決となった場合、間違いなく────。


「ボクでは、勝てない…………かな?」

「さぁな。そのリヒターってのと、会ったことねぇしなんとも。ただ、俺の知ってる金等級と同じだったら、まず勝てねぇよ、お前さんじゃ」

「それは、どうして?」

「無差別級の戦場で、女の身体で男の術理使って立とうとしてるから。格下の兵卒相手ならともかく、経験も研鑽も先を行ってる格上相手に無策は死にに行くようなもんだぜ」


 ここで異世界で良かったわ、とレイターは苦笑する。元の世界だったら炎上モノだな、と。


「武術ってのはよ、合理的なんだぜ? 男が作った武術を、同じように女が使った所で追いつけるわけねぇだろ。単純に、違うんだから」


 そう。型としてはほぼ全ての技を習得してセントール派の皆伝に至ったシャノンが、その技の全てと相性が悪い理由がここにある。


「筋力が違う、柔軟性が違う、骨格が違う、技に必要とされる基礎体力が違う。男の体を基準で作られたもんを、無理矢理当て嵌めた所で、そりゃ無理が出て当然だろ。それを押し通した所で、自然とやってる男に勝てる道理がねぇ。物語じゃねぇんだ。格上殺しジャイアント・キリングなんか、そう毎度毎度都合よく起こるもんか。お気持ちで力量差が覆るほど、甘い世界じゃねぇんだ」


 武術の中で相手より身体が小さい、あるいは非力、ということはそれだけでハンデになる。その差を試行錯誤で埋めるのが武術であるが、恵体を持つ者もその術理を同様の練度で使うなら、もはや鬼に金棒だ。術理同士で極大の相性差でもなければ容易に覆せるものではない。


「じゃぁ…………」


 そしてそれは。


「じゃぁどうすればいいんだよ! ボクには! ボクだって…………!」


 シャノン自身、よく分かっていた。


 彼女は男と女を行き来する。昼は女でいられるが、夜には強制的に男になる。だから分かるのだ。朝に行う訓練よりも、夜に行う訓練での方が体のキレが良いのが。型の稽古が、技の馴染みが、夜の方が格段に良いのが。


 だが、彼女の性自認は女性だ。そのアイアンディティは生物が生きるために必要となる誇りであり、簡単に翻意できるものではない。


 それと同時に、こうも思ってしまうのだ。もしも、心から男になれていたのならば、昨日、肩を震わせていたルミリアを抱きしめることが出来たのだろうか、と。その迷いと後悔は彼女の振るう穂先にも現れ、今日の訓練などはいつも以上にあっさりとレイターにあしらわれてしまった。


 そのストレスを無意識に吐き出してしまうが、レイターは呆れたように肩を竦めた。


「おーおー、折角俺が優しく答え言ってやってんのにヒスりやがって。精神修養足りてねぇぞ」

「答、え…………?」

「言ったろ? 武術ってのは合理的だってよ」


 そう。全ての武術というのは、それぞれの思想体系に基づき、人体の合理性を突き詰めた術理の総称。


 故に五体があるのならば、女性にも使えるのが道理。ただ、その理論限界値は男の方が上。同じ土俵で競っても、それでは勝機は薄い。


 ならば、である。


「筋力が違う、骨格が違う、基礎体力が違う。男の体を基準で作られたもんを、無理矢理当て嵌めた所で、そりゃ無理が出て当然────なら、女の戦い方をすりゃ良いんだよ」

「女の、戦い方…………?」

「おう。コンパチキャラは性能差付けねぇとシリーズ続投は厳しいからな。派生亜流は必須よ」


 別の強みを見つけ出し、その土俵に引きずり込んで戦えばいいだけの話だ。


「本来なら男の俺より姫のが適任だが、今ちっと、先生と一緒に理不尽(シリアス)壊す仕込みで忙しいからよ────」


 そして、肩に担いだ槍をレイターは構えて、シャノンに告げる。


「構えろ。今から俺がそれを再現して教えてやる。────言っとくが、オカマ拳法じゃねぇからな?」




 ●




「はい、では衣装合わせのお時間ですわ!」

「え、えっと、その…………?」


 一方その頃、ラドック城の一室で百合豚が両手にヒラヒラした衣服を携えて非常に怪しい笑みを浮かべていた。その場に呼ばれたルミリアとジュリアは困惑の極みだ。


「おい子狸。どういうつもりだ?」

「どうもこうもないよ。王都制圧戦で使うんだ。勿論、()()もね」

「それとこのヒラヒラに一体何の関係がある?」

「当然、作戦さ。この僕に軍師を任せたのなら、素直に従いなよ」


 同じ部屋に居合わせたジオグリフにジュリアは水を向けるが、彼はふふん、と鼻を鳴らして笑みを浮かべている。その余裕に訝しげな視線を向けるジュリアだが、何のことはない。もはや馬鹿をやると決めた魔王に自重など有りはしないのだ。


 それにさ、とジオグリフは続ける。


「いいのかい? 普通にやれば死人は大勢出るよ。特に、僕が全面に出れば。多分、知っていると思うけど先々月、人造邪神がトライアードを襲撃したよね。アレ、倒したのは僕だ」

「…………」


 それに対しジュリアは無言。痛い所を突かれたのに顔に出さないのは、流石と言った所か。


「正直キツかったけど、アレぐらいなら全力を出せば倒せるんだ。全長百m超えの怪物を倒せる魔導士だよ? そんなのが持てる全攻撃力を人に向けたら────どうなるかは、同じ魔導士の貴女なら分かるよね」


 先の戦争で彼の家族がそうであったように、極地に至る魔導士はそれ単体で戦略兵器だ。地形すら操作してしまう極北がその全力を振るえば、一般兵など為すすべもない。尤も、それを運用可能な体制を整える必要は当然あるが。


「敵軍とは言え相手の大多数はただ貴族に従っているだけの国民だ。それを敵だからとただ殺して回れば、戦後どうなるか分からない貴方じゃぁないでしょ? 戦後を見据えるなら、死人は少ない方が良い」


 そして今回、相手は敵国人ではない。このアルベスタインに住まう民だ。内乱で崩れてしまった国家の建て直し、そしてその間の国防にも人手というのは必要になる。戦後、ジュリアがどの立場に立つかはまだ不明だが、ならばこそ人死は少ない方が良い。


「あ、あの、ジュリア様? その、妾も恥ずかしいですが、頑張ろうと思います」

「ルミリア様…………?」


 理屈の上では分かるが、何かを企んでいる子狸の謀には素直に頷けないと逡巡していると、ルミリアの方から声を掛けた。


 今朝から彼女の様子がいつもと違う、というのはジュリアも気づいていた。そもそも、ジオグリフやマリアーネを引き連れて自分の元を訪れたというのもおかしな話だと思ったのだ。これは何か吹き込まれたか? と勘ぐるが。


「座して得られるものは無い、ですよね? マリアーネ様」

「ええ。人類の最先端を行くのですわ。少しぐらいの無理無茶無謀ぐらい、軽く跳ね除けませんと」


 微笑み合う少女達に、ジュリアは躊躇う。何かしら吹っ切れることがあったようだが、それが悪い影響には見えない。だが、このまま野放しでいいのか、という迷いも同時に生まれる。


「ふぅ。やれやれ、仕える主が腹を括っているのに。随分と及び腰じゃないか」

「貴様…………」


 しかし、そんな彼女を見越して魔王が厭らしい笑みを浮かべて煽る。先日まではバチバチにやり合っていたのでノリノリだ。


「そんな貴女の為に、彼を呼んでおいたよ」

「べ、ベルトーニ…………?」


 挙句の果てに、部屋にジュリア特攻の秘密兵器まで召喚した。


「母様? 可愛い服を着ると聞きました。 ぼく、母様の可愛い姿、見てみたいです!」

「────さぁ、サイズを測れ。私の身体に、無様なところなど一つもない」


 彼女は先程までの政治的思考を全て放棄して親バカへと転身した。


「やれやれ。秘密兵器とはよく言ったものだ。さて、じゃぁ僕らは席を外そう。レディの着替えをまじまじと見るもんじゃないからね」

「何処へ行くの? 魔王」

「弱卒過ぎて戦力にならない連中を焚きつける準備さ。彼等には重要な任務があるのでね。────ふむ、君はいつかラドック伯を継ぐのだったな。ならば覚えてみるか? 魔王流の人心掌握の仕方を」


 含み笑いで息子を連れ去る魔王に、シューベルトの一節を思い出したマリアーネであったが、彼女は自らの欲望を優先して見て見ぬふりを決め込むことにした。


次回もまた来週。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
確かにここが中世仕様の異世界で良かったかもね。多様性が発達してないからこそこういう男女の違いの教え方も受け入れられやすいし やっぱりやる気なのかアイドルコンサート…あーもうどうにでもなってしまえー
>彼女は男と女を行き来する。昼は女でいられるが、夜には強制的に男になる。だから分かるのだ。朝に行う訓練よりも、夜に行う訓練での方が体のキレが良いのが。型の稽古が、技の馴染みが、夜の方が格段に良いのが。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ