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第十四話 悪役の矜持・上 ~子狸と女狐、あるいは古狸と子狐~

 さて、ジオグリフの敗北ということで一応の決着を見た戦いの後、彼はジュリアの書斎に話がある、と連行されていた。


「それで? 話とはなんでしょうか? ラドック伯」

「やめろやめろ。貴様に遜られると虫酸が走る。普段通り話せ」

「そうかい。じゃぁ、普通に話すけど」

「────私は、普通に話せと言ったぞ? 魔王」

「あ、いや、アレは演出というかですね…………!?」


 対面のソファに身を沈めたジュリアに睨まれて、ジオグリフは両手をわたわたと振った。


 どうやら威圧用に使っていた口調を本性だと思われたようだが、アレはただの魔王プレイである。ただ、見せる能力と噛み合いが良いので恥ずかしさに目を瞑って時折使っているのだ。


 尚、人はこれを趣味と実益ともいう。


「じゃぁ、普通に話すけど…………軍師の話かい?」

「それも含めて、と言ったところか」

「どうやら、込み入った話のようだね?」

「他家の貴族────それも他国の、となるとあまり話す機会もないのでな」


 そりゃそうだ、とジオグリフは頷く。


 辺境伯、というのはおおよその国において国家防衛の最前線だ。国内政治の中枢とは比較的縁遠くなるし、隣接する他国は仮想敵国だ。気を許せるはずもない。そして冒険者でありながら未だ家名の維持を許されている中途半端な立場のジオグリフは、かなり珍しい。


「率直に聞く。貴族の視点から見て────この国の現状をどう思う?」

「不敬罪で殺されそうだから言いたくないなぁ…………」

「構わん。話せ。ラドックの名に誓って、何を囀っても貴様を守ろう」


 どうしたものかね、と思いつつも分かりにくい迂遠な表現はこの女の好むところではないだろう、と直截な言葉を選ぶことにした。


「馬鹿の極みだね」

「それはどちらが?」

「どっちも」

「姫殿下をお守りする立場の私を前に、よく言う」

「家名に誓って、守ってくれるんでしょう? ────当然、()()()()()

「ラドックとしては誓ったが、フォルスマイヤー(旧姓)としては誓っていないぞ」

「なら話の後で殺しに来ると良いよ。────女狐一人、返り討ちにするのは造作もないとも」


 吐き出された言葉に、部屋の空気が凍った。だが、既に一戦交えた後だ。互いに頭は冷えているし、相手の本音も手管も読めている。


 ジュリアは手を抜いたジオグリフ一人ですら相手にできないのは、先の一戦で悟っている。本気でやれば、おそらくは軍団規模を引き連れないと勝機すら見いだせないであろうことも。


 無理強いをした所で、屈するタイプではない────どころか、執拗に逆撃してくる性格であることは既に察した。敵に回すとどうしようもなく七面倒臭い相手であるこの国の宰相(古狸)を幻視したほどだ。


 そしてジオグリフも、自分たちの立場の危うさに気づいている。感情のままに他の二人を引き連れて三人娘を救うべく王都へ突撃すれば、間違いなく大きな騒ぎになる。


 ただ諸外国に名前が売れるだけならば笑い話であるが、中途半端に貴族籍の自分がいる。となれば、何も対策をしないまま大暴れした場合、間違いなく帰郷した際に帝国側から政争の道具にされるだろう。


 何しろ帝国で今をときめくやべー冒険者パーティなのである。懐に入れたがる勢力や首輪を付けたがる勢力が多々いる。そんな中で政治的弱みを見せるわけにはいかない。それを取っ掛かりに自由がなくなるからだ。


 今回の件に関わるにしても、何かしらの隠れ蓑が必要で、ジュリア・ラドックという王権派は格好の盾であった。出奔した貴族の三男坊────早い話、平民の立場として彼女に従って動くのならば、帝国向けの言い訳が可能だからだ。


「どうせ、多角視点が欲しいだけでしょ? 遊ばないでちゃんと聞いてほしいなぁ」

「トライアードの三男坊とは聞いたが、随分と鍛えられたようだな?」

「まぁね」


 前世でだけど、とは伏せておく。


「さて、先に姫殿下側────王権側について話そうか」


 ジオグリフはソファの縁に肘を乗せ、頬杖をつきながら話を進める。


「僕は正直、姫殿下の人となりはシャノンからの人づて程度でよく知らないし、王権の維持システムもさらっとしか聞いていない。けれど、今回の件────どう甘く見ても小娘の我儘にしか見えないね」

「ほぅ」

「おそらく撃発となったのは件の公爵家との縁談なんだろうけど…………ただの政略結婚だよ? 相手が誰であろうと、尊き血が後代へ繋がるならば呑むべきだ。まして青き血の頂点(王族)は、その恩恵を最大限に受けているのだから」

「では、貴様は貴族として見知らぬ女と結婚しろと命じられたら呑むのか?」

「冗談よし子ちゃんだよ。呑むわけ無いじゃないか」

「よし子ちゃんとやらは知らんが、言っていることが矛盾しているようだが?」


 分からない訳じゃないでしょうに、とジオグリフは苦笑して。


「好きでもない相手と番になるのが嫌なら、そうならないように立ち回るべきだろう。少なくとも僕はそうするし、実際、だから実家を出ているんだから。今回の件で言うなら、儀式を失敗した────その事後処理の拙さが最大の要因だろうね」


 公人と私人は違う。


 だが、政治家とて生き物であることは違いない。刺されれば死ぬし、撃たれても死ぬ。当然、生きている以上は欲もあれば感情もある。故に、それが善意であれ悪意であれ、我を通したければ能力と結果を見せねばならないのだ。


 それは別に政治だけに限らず、人間社会で生きるには必要なことだ。口だけお気持ちだけで世の中が回るほど、優しくも甘くもなければ余裕もない。


「八年前、一度は成功した儀式が二回目の四年前に失敗した。それについて、原因は聞かされている?」

「いや」

「そうかい。じゃぁ、偶然にしろ故意にしろ、避けようがなかったと考えよう。で、その後どうしたのさ?」


 翻ってルミリアの場合、私人としての我儘の前に、公人としての責務を果たさねばならなかったのだ。


 彼女の役割が儀式であるならば、それの成功。よしんば失敗したとしても、それの反省、そして次回への対策を可及的速やかに周知せねばならなかった。


「この国の現状を見るに、殆ど放置したんだろう。まぁ、勿論、当時の王が身罷られたとか宰相派の台頭とか色々忙しい理由もあったんだろうけどさ」


 だが、様々な要因が積み重なったとは言え、この四年を振り返るに何もできていなかったのであろう。それがどんな理由であれ、公人────責任のある王族としての態度としては悪手極まりない。


「原因は分かりません。対策もありません。でも次は頑張りますのでよろしくお願いします────馬ッ鹿じゃないの? 通るわけ無いでしょ、そんなズボラなやり方。私人ならいざ知らず、公人だよ? 誰の金で今まで贅沢して生きてきたと思ってるのさ。努力評価が認められるのは責任を持たない人間だけだよ。王侯貴族はね、結果を出すから偉ぶれるんだ。結果を出せない権力者なんか、とっとと腹でも切って死ねばいい」


 ジオグリフは別に、悪徳という存在を嫌ってはいない。AIなどの機械ではないのだ。当然、人間である以上は我欲と切っては切り離せない。


 例えば偉人、聖人と名高いマハトマ・ガンジーは貧困の緩和、女性の権利拡大、宗教間・人種間の融和、不当なカースト制度の廃止などを提唱する全国的な運動を主導しながら、インドを植民地支配から解放するために非暴力・不服従の原則を徹底的に実行した。


 しかしその一方で、若い頃はかなりのヤンチャをしている。後年も実験と称して若い女と褥を共にしていたぐらいだ。そこで性行為があったかどうかは諸説あるようだが。


 だが、そこまで悪く言われることはない。その理由は、彼の行動がインドという枠組みを超えて世界にまで影響を及ぼしたからだ。つまり、結果を出したのだ。


 では結果を出したから何しても許されるのか、という訳では無いが、結果も出せないのに甘い汁を吸う連中よりはずっとマシである。そんなのは益虫にすらなれない寄生虫だ、とジオグリフは吐き捨てる。


「ましてこの国の王家は、その儀式一つで成り立っている随分と危うい存在だ。一本足が折れれば、後は瓦解するだけ。むしろ、よく四年も保って、まだ貴女みたいな王権派がいるものだと思っているよ。僕ならとっくに見限ってる」

「言いたい放題だな、貴様」

「言えと言ったのは貴女だろうに。まぁ、心情としてではなく、理論的に考えれば宰相派の方がまだ理解が出来る。やり方はアレだけれど、彼等は姫殿下(今代)を見限って次の世代に託そうとしているんでしょ?」

「そうだ。四年前と言えば姫殿下は十一歳。子を成すにはまだ幼いが、婚約自体は王族ならばしていても不思議ではないからな」

「儀式を何歳からやれるのかは知らないけれど、八年前に姫殿下がやっていることを考えると、七歳ぐらいから出来るはずだ。だとすれば向こう十年は魔石鉱脈に頼らない国家運営をする必要がある。────そう考えると、宰相派もまた馬鹿だね」


 相対する宰相派を考えるに、こちらもこちらで問題が多い。


「僕達はこのラドック辺境領に来るまで、南回りのルートで旅をしてきたわけだけれど…………道中、なかなかに酷いものだったよ。まぁ中央集権化すると、地方がお座なりになるのは必定だけれど、それにしたってあまりにもお粗末だ。国を纏めたいのか分断したいのか、判断に迷うよ」


 王都を抑えたのは、まぁいい。だが、そこに派閥貴族を呼び寄せ、役職を与えて拘束した。派閥貴族達は自領は部下に任せて、ここ二年ほど王都で遊び呆けているらしい。


 貴族の領地運営というのは、必ずしもその貴族がいなければ成り立たないというものではない。優秀な部下がいればある程度は回るし、組織運営としては回ってもらわねばならない。ただ、それはそれとして責任を取ったり大きな決裁にはどうしてもトップの承認がいる。そのトップが外遊したまま帰らないのでは決裁が滞るのだ。


 大体の貴族は王都に書類を送って貰い決裁を行う手法を取っているようだが、それでは時間が掛かるし、そのラグが積み重なれば色々と不備が出てくる。そして主がいない内に己が物のように権勢を振るう不届き者も出てくる。


 それがこの国の経済不調を加速させている要因の一つだ。今まで国を支えてきた一国の宰相が、それに気づかないはずがない。なのに、それを認めるどころか自ら推し進めている。


「加えて小娘二人を取り逃すとかいう特大の失敗。これが本当にありえない。姫殿下が自分のお膝元から逃げ出すぐらいだから、本当に詰めの詰めまで来ていたはずだ。だと言うのに、ここに来て全てがご破産になりかねない大失敗だ」


 そして、あの逃亡劇だ。


 力を落としたとは言え王権。言うならば国家の象徴。その旗頭であるルミリアを、そうみすみすと逃すはずがない。仮に何某かの策略で手落ちがあったとしても、中央のほぼ全軍が宰相の手の内にあるのだ。即座に人海戦術で虱潰しにすれば、捕縛、回収はそこまで難しくもない。


 まして、あの三人娘が勝てないような相手(リヒター)まで駆り出している。如何な妖精姫とて、戦闘力があるわけでもない小娘一人にこうまで手こずるはずもない。


「シャノン一人ならまだ分かる。あの魔槍もあるし、確かに彼女自身は世間知らずだけれど、戦闘能力だけならば一級品だ。苦労はしても不可能じゃない。けれど、姫殿下抱えては無理だろう。逃避行の物語じゃないんだ。これから国政を握ろうとしている人間が、自分の庭でそんな詰めに甘い手を打つものか。工作員とかのネズミじゃない。これからの鍵を握る主要人物(メインキャスト)だぞ? 見逃すはずがないだろうが」


 となると、考えられる結論はただ一つ。


「────茶番だよ。この内戦は」


 わざと逃がしたのだ。




 ●




 アルベスタイン王国の王都、その貴族街の一角にその邸宅はあった。


 国家の中心地にもかかわらず、広大な敷地を持つその邸宅の持ち主はバーテックス侯爵家。アルベスタイン四大貴族の一角であり、今代の宰相でもある彼の邸宅は、その権勢を誇示するかのように豪華であり、そこに迎え入れられた三人娘が圧倒されたほどだ。


「初めまして。聖女リリティア様。私はガーデル・バーテックス侯爵と申しまして、この国の宰相を拝命しておるものです」


 そしてその客室にて、彼女達は主であるガーデル・バーテックスに対面していた。


 彼は、そのでっぷりと肥えた見苦しい身体を揺さぶると、すっと黙礼して。


「この度は誠に────」


 静かに膝を突き、両手を揃えて────。


「────申し訳ございませんでしたぁぁあぁぁぁあっ!!」


 土下座を敢行した。


 土下座である。日本が誇る、最大の謝罪態勢であるそれは、おそらくは過去の転生者が伝えたものではあるだろうが、彼はしきたりに正確に従い、正座した状態から両手を地につき、額を擦り付けている。


 それはそれは、見事な土下座であった。三馬鹿がこの場にいたのなら、「ナイス土下座」と拍手したことだろう。


「えっと、あの」

「この流れは予想外ね…………」


 戸惑ったのは三人娘だ。


 あの後────リヒターに捕らえられた三人娘は、丁重な扱いのまま王都のこの邸宅へと連れてこられた。


 特に拘束されることはなかったのは聖女の威光が効いていたのだろうが、それにしても一国の宰相にまで効くとは思わなかったので、特にラティアとカズハは面を喰らっていた。


「あー、と、取り敢えず頭を上げてくださいませ、バーテックス卿。そのままではお話ができませんわ」


 その中で唯一、自分のステータスをある程度把握していたリリティアが猫を被った言葉で告げる。


(改めて他所行きのリリティア見ると違和感がすごいわね、カズハ)

(ラティア様ラティア様。リリティア様は一応貴族としての淑女教育は受けてますから。…………普段はアレですけど)


 よしこの二人、後でシメる、とリリティアは思った。


(でももう一人のリリティア様として見れば意外と違和感は無いかもしれません)

(もう一人の自分…………! ずるいわ。ジオみたいじゃない。わたしも別人格を作るべきかしら…………?)


 あんな変人と一緒にするな、と叫びたくなるリリティアだが、ここはぐっと堪えて話を進めることにした。


「それで、バーテックス卿。私達の処遇はどうなりますか?」

「そうですね…………その前に、質問を質問で返すようで恐縮でございますが、聖女様方が何故我が国にお出でになられたかお教え頂けますか? いえ、今代の聖女様が冒険者活動をなされているのは承知しておりますが、他国へ渡る際はリフィール教会から事前通告あるのが通例なはず」


 その指摘に、リリティアはうっと言葉を詰めた。


 この大陸全土に根を張るリフィール教会、その旗頭は二つある。


 即ち教皇と聖女だ。言うならば、リフィール教会における王と女王に近い立ち位置なので、政治的に当然VIP待遇なのである。


 まぁ色々と煩雑な力関係があるのだが、その辺りは長くなるので割愛するとして、VIP待遇なので基本的に事前通告が必要なのだ。それを無視した場合、他国でどのような目にあっても責任取れませんよ、というスタンスになる。


 聖女自体が実力主義で選ばれるので、結構あちこち大陸中を飛び回るものだが、それでも国境を跨ぐ場合は一報入れるのが通常だ。


 今回はそれを外しており、例えリリティアがこのアルベスタインでどのような目にあっても、実はアルベスタイン側に責任は発生しない。発生はしないが、そうした国家間での政治的な部分と聖女を慕う多くの庶民感情はまた別だ。


 国家としての責任追及はなくとも、民間────正確には貿易には間違いなく影響が出る。国家の将来を見据えるのならば、悪戯に手を出していい存在ではないのだ。聖女という存在は。


「それはですね…………えー、と、魔道具! 仲間の魔道具実験の暴走で強制転移されまして、それでこの国の東の方に飛ばされてしまったのです」

「ほぅ、魔道具の」

「え、えぇ、実はもう三人ほど仲間がいるのですが、おそらく彼らも飛ばされているはずです。ですので、取り敢えずはこの国を捜索しながら帝国へと向かっていたんですね」


 ごめんなさいお姉様のせいにしてしまいました、と心の中で謝罪しつつリリティアはそんなカバーストーリーを口にする。


「ふむ。聖女様はルミリア姫殿下とご一緒だったようですが…………?」

「はい。旅の途中で拾、もとい、知り合いまして。見捨てるのも忍びなく道々しておりました」

「左様ですか。我が国の騎士団と、不幸なすれ違いがあった、という認識でよろしいですかな?」

「バーテックス卿。それについて私が説明してもよろしいですか?」


 なかなかに込み入った話になってきたので、ここでカズハが挙手をして話に入ってきた。ある程度は弁えているとは言え、専門家ではないリリティアにとっては、ありがたい助け舟であった。


「君は?」

「失礼しました。私はカズハ。レオネスタ帝国自治区、獣人の里は里長、聖獣クレハの養女で、今は聖女様と冒険者活動をしている者です」

「ほほぅ、聖獣様の縁者ですか。となると、そちらのエルフの方も…………」

「ええ、フェレスク大森林のフェルディナ、その村長の娘、ラティア・ファ・スウィンよ」

「なるほどなるほど…………流石に聖女様のお仲間となると、一廉の方々なのですな」


 時々忘れがちだけど結構アレな集まりだなあたし達、とリリティアが思っているとカズハが続ける。


「それで、先程の質問ですが、私達は緊急避難的にルミリア殿下を逃がしただけでして、それ以上の他意はありません」

「ふむ。緊急避難と」

「ええ。何しろ完全武装の騎士団を前に、立場を除けば無力な少女が何を出来ましょうか。私達はルミリア姫殿下のお立場は合流した際に聞かされてはいましたが、だからこそ、この国の現状と現場の状況を見て、ルミリア姫殿下を逃がす、という選択を取ったに過ぎません」

「では、これ以上は関わらないと?」

「関わりようがないというのが正解でしょうか。実際、アルベスタイン内の政はアルベスタインの問題ですし。眼の前で非人道的な行為があれば、姫殿下の時のように緊急避難として手を出すことをするかもしれませんが、そうでなければ内政干渉と取られかねません。それはいずれ故国の不利となりますので」

「なるほどなるほど…………いやはや、お三方が理知的な方々で助かりました。カズハ様の仰るとおり、アルベスタイン王国の問題はアルベスタイン王国が片付けるもの。姫殿下とは不幸な行き違いがあっただけですので、ご心配なきよう。無論、お三方が無事に故国の地を踏めるよう我々も尽力しましょうとも」


 これはつまり? とリリティアがラティアに視線を向けると。


(こっちは自衛のために仕方なく動きました、姫様との関わりはいきずりで、手を出してこない限りもう何もしません。あっちはこっちの問題だからもう関わるな、大人しくしていれば帝国にちゃんと帰すってところね)


 成程、とリリティアが思っているとガーデルが背後の使用人に声を掛けた。


「────おい、これから込み入った話をする。席を外せ。護衛もいらぬ」

「しかし…………」


 立場が立場だ。旗頭は公爵であるが、ガーデルは自派閥の最大手であり指し手。護衛もつけずに他国の者と密会するのはよろしくない、と思ったのだろう。背後の使用人は一旦渋るが。


「いらぬ、と儂は言ったぞ」

「は、はっ!!」


 短いその言葉に、使用人は震え上がって武装した護衛たちを纏めて引き上げていった。


(こっちが本性か)


 ガーデルの態度に、リリティアはははぁ、と感心する。


 流石に一国を仕切るだけある。こちらに初手土下座をかました時には意外と腰の低い相手かと思ったが、締めるところは締めている。そして見栄よりも実利を取るタイプだ。


(けど、だったら何で…………?)


 見るからに不明な相手ではない。見た目はちょっとアレだが、言動はどちらかと言えば有能そうで、実際そうなのだろう。だが、この国の現状を考えればあまりそうとも言えない。


 何故、こうまで国が荒れている状態を良しとしているのか。


「さて、言質は取ったので、少し気楽な話をしよう。ああ、聖女様も楽にしてもらって構わない。────お互い、肩肘を張るのは疲れるな?」

「あんた…………」


 ガーデルがソファに深く腰掛けて、リリティアを見る。どうやら、こちらの猫かぶりはお見通しのようだ。


「正直、他国の者に話すのは気が引けるが、言ってしまえば君たちは異分子だ。好きにさせると儂の計画に歪みができかねんのでな。引き込んでおくほうが吉と見た」

「わたし達が、貴方の計画に加担すると?」


 ラティアの言葉にいや、とガーデルは首を横に振る。


「能動的な動きは望んでいない。むしろ、このまま大人しく軟禁されて静観してくれることを望んでいる。()()()()()()()()()()()()()。後は事をなすだけなのだ。先程も言ったが、事が済めば君達を無事に帝国へ送り届けようとも」


 その言葉に、何かが繋がったのかカズハが顔を上げた。


「成程、茶番ですか。────この騒動の全てが」


 そして子狐の言葉に、古狸が口の端を歪めた。

続きは来週。

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― 新着の感想 ―
この手の展開でありがちな「運良く逃げ切れた」みたいなご都合展開でなく、逃げられることも含めて計画のうち、と……やっぱりこういう意外性ある話の展開が人気を呼ぶんだよねー しかしそれでいうとマジで三馬鹿&…
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