第一話 ある日の三馬鹿 ~そして誰もいなくなった~
最後に、この召喚術を読める諸君に忠告を残しておく。
この本に刻むことが出来なかった存在がある。七十二の古神に連ねているはずなのに何故か記録に残せなかったその存在の名を、私は知らない。知っているのに知らないのだ。出会っているのに、覚えていないのだ。書いたはずなのに、消されているのだ。
まるで記憶の音飛びだ。コマ落ちだ。あったはずの記憶がツギハギにされ、しかし違和感なく修正されている。
まさに欠番。あってはならないエクストラナンバー。零番目にして七十三番目の影のケモノ────いや、悪魔そのもの。
ただ、それを呼び出した時の感情は覚えている。
果たしてそれを形容する時、何と呼べばいいのか私にはついぞ分からなかった。
黄金の蜘蛛、記憶の悪魔、地獄の大総統。成程、確かに口伝に残っているそれの肩書は多くあるのだろう。
だがいまいち要領を得なかった。それを言い表すのにそれらの言葉は酷く抽象的で、いっそ散文的でもあった。どうにも相応しくないように思えたのだ。
生き物であるかどうかすら分からないそれは、明らかに世界のシステムから逸脱している。
人の目には神のように見える理外。
人の目には魔のように見える埒外。
それは認識から欠落していく圏外。
ただ、それに出会って私は認識ではなく、感覚ではなく、本能で理解した。
そして感情に刻み込んだ。
それは始まりにして終わりなる者。
それを御そうとしてはならない。
いや、どれだけ魔力があっても調伏することは出来ないだろう。
それは最早世界のシステムの一部だ。世界というシステムを動かすために、あるいは自動保護するための回避回路。故に逸脱した権能が与えられているのだ。
諸君、私はそれに接触こそ出来たが、記憶を残すことも、記録に残すことも、まして御すことも出来なかった。
だが、感情に刻んだ結果、パスを通じてそれの感情が逆流してきた。
その感情に言葉という記号をつけるのならば、断絶の祈りと冠するべきだろう。
諸君、もしもそれに何かの間違いで行き合った時、私の言葉を思い出してほしい。
それが諸君を前にしてどんな行動を起こすかは不明だが、きっとこの言葉が突破口になるはずだ。
諸君、それは────『飽き』の感情を抱いている。
異界の悪魔大全 著:アルベルト・A・ノリンリヒカイト
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「んみゅ…………?」
夢を見た。
そう認識したのは、目覚めた先に見覚えのある天蓋を見つけたからだ。
柔らかいベッドから身を起こしたのは、長い銀髪の少女だった。白の寝間着を身に着けた彼女は、緑の瞳をしばらくベッドの天蓋へほけーっと向けた後でくぁ、と小さく欠伸をしつつ体を伸ばす。
少女の名は、マリアーネ・ロマネット。この屋敷の主であり、同時にこの屋敷を拠点とする冒険者パーティ『シリアスブレイカーズ』のメンバーであった。
「随分と懐かしい夢を見ましたわね…………」
くしくしと手の甲で目をこすりつつ、彼女は夢の内容を思い出す。珍しくはっきりと覚えている明晰夢。その内容は、かつて読んだ古文書の内容とそれに関連付けられた影の獣達との過去であった。
あれは確か、七歳の頃。馴染みの魔導書店の店主から誕生日プレゼント代わりに譲られた古文書が発端だった。
当時、マリアーネは既に家中での地位を確立していた。四歳の頃に石鹸を開発し、それを筆頭にシャンプーやリンス、化粧品から服飾、更には上下水道まで次々に提案してロマネット家に貢献していたからだ。
とは言え、だ。今でこそ量産は自らが全出資して職人を集めた技能集団アトリエ『フォミュラ』に一任しているが、当時は発明から量産までマリアーネ一人でやらねばならずこれが中々難儀した。
何しろ著作権が無い時代であり、技能も見て盗めな時代だ。先駆者の恩恵を維持するためにも、また、それをロマネット家に供与し続けるためにも信用できない他人を安易に噛ませられない。最初は家の者に手伝ってもらうか、奴隷でも購入しようかと考えたが、何しろこの世界の知識基準が中世である。
日本の義務教育ですらこの世界では王侯貴族に匹敵する教養となる。倫理観や情報管理など言わずもがなだ。ただの使用人や奴隷にそれを望むべくもなく、やるとすれば一から育てねばならないのだ。手先だけならばそれでも良いのだが、薬品関係となると事故が怖いので、やはりマリアーネがそこから離れられず、人手とそれを育てる時間が足りないと頭を悩ませていた時期になる。
どうにかこうにか自力で召喚術を習得し、作業にゴーレムを使うようになり多少は業務改善された頃、マリアーネは七歳を数えてその古文書────いや、魔導書に出会った。
異界の悪魔大全、と銘打たれたその魔導書は、誰にも読めない言語で書かれていた。父も母も、この世界の住人は誰一人として読めなかった。
さもありなん。その書の言語は、まさかの英語であった。
マリアーネが他の馬鹿二人と一緒にリフィール神と邂逅した折、かの女神は『時々異世界人をこの世界に投げ込んで撹拌している』と言っていた。ならばおそらくは、これはかつてこの世界に転生した日本人以外の異世界人が記したものだろうと当たりをつけた。
設定厨の趣味なのか、それとも前世の記憶の整理なのか────いまいち判断に迷う内容ではあった。書かれていたのはソロモン七十二柱に関するものだ。まさかそれそのものを呼び出せるのかと期待したのも束の間、召喚の儀式は尽く失敗した。
都合七十二通りの失敗の果てに、ヤケクソになったマリアーネがそれら全てを混ぜた魔法陣を形成し、術式を走らせると────それが現れた。
魔力と言うには神々しく、神気と言うには禍々しい。
歪と異質と理外を纏った────黄金の蜘蛛。
そこでの詳細なやり取りは、実はもう忘れてしまっている。黄金の蜘蛛の真名も、覚えた直後に忘却した。
ただ、圧倒的なまでの存在感を放つ黄金の蜘蛛を前に、『あっ。第二の人生ここでおしまいですわ』という諦観と『ふざけんじゃねぇーですわ! 百合の園を作るまで死んでたまるかですわ!!』という二律背反にも似た激情が混ざり合い、彼女の脳裏に異界の悪魔大全の後書きに記されていた言葉が駆け巡った。
曰く────それは、『飽き』の感情を抱いている、と。
思い出した瞬間、仮初のパスから感情が逆流してきて、あの忠告が真実だと察した。
そして口を突いて出た言葉は、以下のようなものだった。
『そうやって静観して腐っているぐらいなら、私に従いなさい。つまらない世を面白くしたいのならばそうなるように動くべきですし、それが出来ないのならば出来る他人に付き従うがいいですわ。貴方が何を望んでいるかは知りませんが、私はゲラゲラ笑って生きたいので、例えつまらない世でも面白おかしく享楽的に生きますわよ。────これまでも、そしてこれからも、ね』
その時、黄金の蜘蛛が何を思ったかはマリアーネは知らない。だが、本来格上であるはずの黄金の蜘蛛が頭を垂れて契約が成った。以降はドミノ式に古文書に記されていた影の獣達と次々契約が成され、最終的にそれは七十二体に登った。
あれが何だったのか、マリアーネには分からない。黄金の蜘蛛、という言葉と微かな残影だけ脳に刻まれ、本当にそれが蜘蛛であったのかすら最早思い出せない。何しろあれ以降、呼び出せたことなど一度も無いのだから。
「なんで今更になって、あんな夢を見たんですの…………?」
ここ数年はそんなことがあったことすら忘れていた。何だか寝苦しいな、と思ったらふとあの魔導書の一文を思い出したのだ。そこから繋がって、あの黄金の蜘蛛との邂逅も思い出したのだろう。
さて何故そんな寝苦しかったのか、と自分の寝台に目をやって毛布をめくれば。
「夢見が悪かった原因はこの娘ですか…………全く…………」
「ぐへへ…………おねえさまぁ…………」
マリアーネの腰に抱き枕扱いして引っ付く青髪の少女────リリティアがいた。むにゃむにゃと人の名前を呼びながらだらしない表情で爆睡している。
冒険者パーティ『シリアスブレイカーズ』として活動を始めて早二ヶ月強。帝都の居を構えた三馬鹿に合流する形で、三人娘も転がり込んできた。まぁ、それは良い。マリアーネとしてもむくつけき男共よりは女の子達がきゃいきゃいしている方が目に優しい。
とは言え、である。
「防犯魔術は────全部、破られてますわね…………」
侵入者を拒むため部屋中に仕掛けた魔術は軒並み破られていた。これが初めてのことではない。この屋敷────登記上はロマネット大商会所有の別宅────に住むようになってから、これが毎朝の事である。
最初は絶句したり貞操の危機を感じたマリアーネではあるが、『朝に弱いマリアーネお姉様を起こすために』、という名目で来ていることを知ると少しばかり安堵した。何と言うか、毎朝ベッドに忍び込んでくる飼い猫のようなものだと認識したのだ。
今のところ何をされているわけでもないので、そう考えると可愛いものだ、とは思う。思うのだが。
「うーむ、ですわ…………」
現状を省みて、マリアーネは唸る。
彼女は元男であり百合豚である。係るジャンルは所謂TSではあるが、望んでなったというちょっと曰く付き。故に女の子同士がいちゃついているのを眺めるのが好きであるし、自分がその登場人物になって俯瞰してみるのもまた一興。主人公になってもいいし、脇役のお助けキャラもまた美味しい。
なので現状、リリティアに特大の矢印を向けられているのはやぶさかではない。最近ではサイコな部分も徐々にではあるが矯正されてきたし、ルックスも嫌いではない。嫌いではないのだが、何かこう、求めているものが違うのだ。
方向性と言うよりは色違いだろうか。エンジョイ&エキサイティングな極彩色ではなく、プラトニックな単色を求めているのだ。時折性愛に傾きはするが、下地にそれがないとどうにもノリ切れないのである。特に自分に関しては。
ただ、暴走しているリリティアは常にバイオレンスなのである。狩人であり捕食者なのである。せめて三分の一で良いから純情な感情を伝えてほしいと願うが、これまでの行動を見るに当面は難しいだろう。
よって、マリアーネは決断するのだ。
「よし。まずは────逃げましょう」
愛しのお姉様の残り香に包まれてすぴょすぴょ寝息を立てるリリティアを放置して、マリアーネはいそいそと身支度を整えるとそろっと自室を出た。
人はこれを、現実逃避とも言う。
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起きてきみれば昼前だったので、シリアスブレイカーズの面子は既に各々行動していた。何をしているのか、とマリアーネが屋敷を散策してみると、庭先を占領する形で資材の山が積まれているのを発見した。
その前にいたのは、黒の外套を纏った金髪の少年と、金髪碧眼のエルフ────ジオグリフ・トライアードとラティア・ファ・スウィンだ。
「ふぃー…………悪いね、ラティ。手を借りて」
「大丈夫よ。それにしても随分と溜め込んだものねぇ…………」
「収納魔術覚えてから十年近くずっとだからねぇ…………」
何やら収納魔術の整理でもしているらしい。資材なのか食料なのかガラクタなのか判然としないものが木箱だったり裸だったりで庭先に積まれている。
「実際、どうなのかしら? 少しは楽になったの?」
「んー、リソースが空いた感はあるよ。まぁ、無いよりマシ程度かな。とは言えそろそろ弾倉詠唱作りにも本腰入れないと、いよいよ不安だからね。今更戦闘中に一々魔術の詠唱なんかしてられないし」
そのやり取りを聞いて、マリアーネは思い出した。
先の邪神討伐戦の折、ジオグリフが十年ストックし続けた魔術を軒並み放出したことを。それらの術式を紐解いて、全て魔力へと変換し、束ねて始祖魔法と呼ばれる神代の魔術へと昇華し、行使した。
望む全てを叶えるという極めて馬鹿げたその第零魔術式は、歴史上を見渡しても類を見ないほど出鱈目な魔力量を誇るジオグリフをして制御だけで魔力欠乏症へと追いやる程の消耗を強いた。
あの戦い以降、彼が暇を見てはちょくちょく詠唱してせっせと魔術を溜め込んでいるのは知っている。とは言え十年分を取り戻すには幾つかテクニックを用いても半年から一年ぐらい掛かるらしい。それもまた異常ではあるのだが。
(そう言えば昨日、リソース増やしたいから場所貸してと言ってましたっけ。確かにメモリ空き領域作りたいなら一旦整理した方が良いですわね)
マリアーネはジオグリフからある程度魔術指南を受けている。その影響で彼女も多少の収納魔術を使えるので分かるのだが、収納魔術とは電算的な見方をすると常駐型のアプリのようなものだ。
収納しているだけで作業メモリを圧迫し、その容量が増えるほどにメモリ容量を食っていく。ジオグリフは幼い頃から魔力を鍛え続けたお陰か魔力量や魔力出力、術式処理能力はちょっと頭のおかしいレベルに達しているが、それでも有限だ。なるべく早く十年分のストックを取り戻そうと考えるならば、収納魔術に圧迫されているメモリ領域を一旦開放し、空いたリソースをフル活用しようとするのも道理だろう。
どうやら、今日はその整理に一日費やすらしい。
「魔導銃も作って貰ったお礼もまだだし、わたしも付き合うわ」
「ありがとう。取り敢えずは倉庫に仕舞ったり色々片付けようか」
「うん!」
とは言え、である。
「ぐぬぬ…………」
荷物の整理に託つけていちゃついているようにしか見えず、それを物陰で見つめるマリアーネは臍を噛んだ。
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ジオグリフとラティアのやりとりにモヤモヤしたものを思いつつも、昼前に起きたものだから空腹を覚えたマリアーネは屋敷の厨房へと足を向けた。
そこには残りのメンバーが先んじていた。体格の良い赤毛の少年と、巫女服の狐獣人の少女だ。
「さぁて、今日の昼飯は何にすっかな…………」
レイターとカズハである。調理場の準備をしつつ、貯蔵されている食材を前に献立を考えているらしい。
「お稲荷さんはどうでしょうか? レイター様」
「お前さん、あれ本当に気に入ったんだな」
「えと、その…………はい…………」
カズハが恥ずかしそうに頷き、分かった分かったとレイターが苦笑しながら頷く。
「いなり寿司に合わせると蕎麦かうどんだなぁ…………。なら、きつねうどんでも作るか」
「きつねうどん! 何だかとても素敵な響きがします…………!」
どうやら今日の昼食はうどんといなり寿司になるようである。この二人、ちょくちょく一緒に厨房に立っており、シリアスブレイカーズ全員分を用意してくれているのでマリアーネとしても助かっているのだが────。
「ぐぬぬ…………」
それはそれとして、やっぱり調理に託つけていちゃついているようにしか見えないので上手くやりやがって、と嫉妬の炎を燃やしていた。
●
マリアーネは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の馬鹿二人に制裁を加えねばと決意した。
「解せぬ…………ですわ」
断っておくが、あの馬鹿二人に対してマリアーネは恋慕の情など微塵も抱いていない。前世が男ということもあるし、あの悪友共をパートナーとするなどぞっとする。それは向こうも同じであろう。そもそも彼女の趣味嗜好は女性に向けられているのだから、あの二人など掠りもしない。
故に、この怒りの感情の大本は────。
「私はリリティアに日々追いかけられているというのに、いちゃいちゃいちゃいちゃとあの馬鹿共…………!」
羨ましさから来る酷く浅ましい嫉妬であった。実に醜い。美学を愛する普段の彼女など見る影もなかった。
「そうだ」
そして彼女は、ニマニマと悪辣な笑みを浮かべて、ぽんと手を打った。どうやらまたしょーもない事を思いついたらしい。
「逃げましょう。────あの馬鹿共巻き込んで…………!!」
尚、このようなけったいな行動を小難しい心理学で『さかうらみ』とか『やつあたり』とも言う。
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帝都の裏路地をマリアーネと影の獣が歩く。しかしマリアーネのその歩みは堂々としたものではなく、こそこそとしたもので、背後に従う二つ首を持つ巨大なライオンの影の獣も呆れた表情をしていた。
その体高三メートルは超える影の獣の口に首根っこ咥えられた馬鹿二人が、先を歩くマリアーネに抗議の声を上げる。
「で、一体何なんだよ。俺、昼飯のうどん打ってたんだが」
「そうだよ。僕もやっと荷物の整理始めたところなのに」
ぷらん、と親猫に運ばれる子猫のように吊るされたジオグリフとレイターの手には、それぞれいつもの大杖とめん棒が握られていた。
そう、それぞれ自分の作業中にいきなりこのウァレフォルによって拐かされ、マリアーネの元へ連れてこられたのである。一体何故こんな訳の分からないことをするのか、と二人が説明を求めると、馬鹿は大きく胸を張って。
「逃げますわよ」
『なんで? っていうか何処へ?』
「ここではない何処かへと…………!」
『無邪気さの欠片も無いヤツが言う台詞じゃないよなぁ…………』
むしろ邪気の塊である。
「やかましいですわ! あっちでいちゃいちゃこっちでいちゃいちゃ…………それを見せられる身にもなって欲しいですわ!!」
「別にいちゃついてなんかいないけど」
「これアレか。かまってちゃんか」
「違いますわ! 私はただ────二人ばかりずるいから邪魔してやろうと思って…………!!」
『尚悪いわっ!!』
そんな風にぎゃぁぎゃぁと言い争いをしていたせいだろうか。
「あっ! ジオ!」
「レイター様!?」
急に攫われたジオグリフとレイターを追いかけて捜索をしていたラティアとカズハが追いついてきた。その上。
「お姉様ぁっ!!」
「げぇっ! リリティア!?」
微睡みから目を覚ましたリリティアまでも参戦したことによって、マリアーネは表情を引きつらせ、背を向けて逃亡を開始した。少し遅れるようにして影の獣もその後を追い、三人娘も追撃を始めた。
『あー…………』
それで大凡の事情を察した馬鹿二人は、ぷらんぷらんと揺らされながら一旦遠い目をした後で、マリアーネに抗議する。
「つーか俺等を巻き込むなよ。姫だけ昼飯抜きにすっぞ」
「今日のお昼、うどんだっけ? いいね。余裕があったら僕のは牛肉とごぼ天付けて。たまに食べたくなるんだ」
「ああ、アレか。長距離であっち行った時食ったけど、美味いよなアレ。最初は何でうどんにごぼう? って首傾げたもんだが」
「和々してんじゃねーですわ! 逃げますわよ!!」
「いや、俺等逃げる必要ねーし」
「君の都合に巻き込まないでよ」
「くっ! この悪友共こんな時に限ってノリが悪い! 少しは人の気持になって考えてくださいな!!」
『鏡見ろ!!』
そう言われたのでマリアーネは収納魔術から手鏡を取り出し、器用にも走りながら正面、横、斜めのポーズと自身の顔をチェックした後で。
「私、今日も可愛いですわ!!」
『駄目だコイツ、早くなんとかしないと…………』
物理的な意味じゃねーよ! とジオグリフとレイターが突っ込みを入れた時であった。
「お姉様ァ────!!」
やはり最初に追いついてきたのはフィジカルにおいてレイターに迫ると思われる暴走聖女、リリティアであった。彼女は宙を舞い────と言うよりは泳ぐようにしてマリアーネへとダイブしてくる。
「ひにゃぁっ!? だ、誰かお助けぇぇえぇぇえっ!!」
このままでは貞操の危機が! とマリアーネがそう叫んだ時であった。彼女の背後から見慣れぬ魔法陣が出現し、それが現れた。
『え?』
マリアーネを除くシリアスブレイカーズ一行全員が目撃したそれを、彼女も確認すべく振り返ったが────。
「はぇ?」
認識するよりも早く、光に包まれて意識を失った。
やがてその光が収まる頃には、裏路地には元の静寂が戻っていた。
そこにはもう誰もいない。
ジオグリフも、レイターも、ラティアも、カズハも、リリティアも、そして────マリアーネも。
そして誰もいなくなったのだ。
次回更新は来週。




