第五十話 そして、今日も三馬鹿が行く
これにて第一部、完です。
それと、KADOKAWA様から書籍化決定しました。
マジです。
後の歴史でハーヴェスタ決戦と呼ばれるデルガミリデ討伐戦から、二週間ほど経過した。
トライアード軍は当然のこと、シリアスブレイカーズもほぼ全員がダウンした。元気だったのは最後の砲手を担ったラティアぐらいで、他の面子は疲労困憊だった。特にカズハ、リリティアの消耗は尋常ではなく、丸四日寝込むことになったのだ。
何しろ三馬鹿はそれぞれ己の力の限界まで引っ張っただけであるが、彼女達は限界を超えて『未来の自分』を無理やり現代に呼び込んだようなもの。その反動は凄まじく、暫くの間は立つことすらままならなかった。
尤も条件としてはトライアード軍もそうなのだが、こちらは職業軍人だからか、翌日には「今日は筋肉痛酷いわ」程度で済んでいたという。
そんな訳で養生がてら休暇と称して一週間ほどトライアードに逗留したシリアスブレイカーズ一行は、行きとは違って帰りはゆるゆると物見遊山がてら追加で三週間かけて帝都へと帰ってきた。
「んーっ………!やっと帰ってきたわねー。流石に疲れたわ………」
「あはは………帰りの道中でも色々ありましたからね」
「いや色々ありすぎだろ。デルガミリデ教団の残党とか賭場競馬に参加とか伯爵令嬢の輿入れとかどう考えても冒険者の領分超える事態に首突っ込みすぎだし」
馬車を拠点に着けて、銘々にそこから降りてくる三人娘は旅疲れを隠せなかった。
リリティアが口にしたように、この帰るまでの道中でも色々とあったのだ。それもほぼ自分達―――というより、三馬鹿が首を突っ込んだが故に起こるトラブルなので非常にたちが悪い。もうシリアスブレイカーズというよりはトラブルメーカーズと改名したほうが良いかもしれないぐらいには、道草が珍道中になっていた。
一方で大体寄り道の原因になっていた三馬鹿はピンピンしていた。
「いやぁ、しかし一時はどうなることかと思ったけど、実家の救援に間に合って良かったよ」
「まさか大怪獣を相手にするとは思わなかったけどな」
「ジオの家族の顔も見れましたし、案外面白い弾丸旅行になりましたわ」
ゲラゲラ笑いながら馬車から降りてくるのだが―――。
「―――ほぉ、それは良かったな?」
『ぴぃっ………!』
地獄の底から這い上がってきたかのような重低音を背後から投げられ、三馬鹿は鳴いた。
油差しを忘れたブリキの機械が如く、三者がギリギリと不快な音を立てて背後を振り返ると、筋骨隆々な大男が抜き身の剣を肩に担いでこめかみに青筋を浮かべながら立っていた。
ダスクである。
出で立ちが既に完全武装で、いつでも三馬鹿を処す準備は万全であった。今回も例によって例のごとく、帝都の入口に手の者を配し、三馬鹿帰還の知らせを受け取ると現役時の装備を引っ張り出して装着。鬼の形相で突撃してきたのである。
「ギ、ギルマス………これは、ですね………」
「明日皇帝陛下に謁見だから何処にも出かけるなよ」と釘まで刺されての出奔。しかもまたぞろ三週間の音信不通。言葉を濁すジオグリフも「やだなぁ、もう逃げませんよ」とケラケラ笑った次の日の内にである。その上、今のこの瞬間までその事をすっぱりと忘れていたのである。
脂汗を滲ませジオグリフはレイターに視線をやると、彼も何かを察したようで、二人は揃って頷き―――。
「ギルマスギルマス!僕は悪くない!戦争仕掛けて来たケッセルと足を用意しちゃったマリーが悪いんです!」
「そーだそーだ!俺は知らねぇ!姫が勝手に!」
「あ、こいつら今度は私を囮に………!―――わ、私は知りませんわよ!?」
ぎゃあぎゃあと醜い仲違いを始める三馬鹿に、ダスクは大きく息を吸って尋ねる。
「―――言いたいことはそれだけか………?」
瞳のハイライトを消す鬼に、三馬鹿は視線を泳がせて。
『す、済んだことですし………?』
血管の切れる音が、三人娘にも届くぐらいには響く。
「そこへ直れ三馬鹿―――!!」
『うわ―――ん!ごめんなさ―――い!!』
晴れ渡る空を突き抜けるような怒号と悲鳴が、帝都に響き渡る。
例え窮地の人々を救おうと、邪教の野望を知らずに打ち砕こうと、英雄的に邪神を倒そうと、根っこの部分はただのはっちゃけた馬鹿故に、三人はいつも通りやかましい日常へと帰っていく。
『ギルマス許してくださ―――い!!』
「許すかバカモノォ―――!!」
そして今日も、三馬鹿が行く。
次回はちょっと未定。
ですが、短編で時間を稼ぐことは確定していますので、多分、二週間か三週間ぐらい空きます。




