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第四十六話 三馬鹿の本気 ~特撮テレビ系格ゲー少年~

色々格ゲーは触ってきましたけど、一番やり込んだ格ゲーはメルブラです。

メインは暴走アルク。時々さっちん。

「あいよ」


 ご指名を受けて、今度はレイターが前へ出る。


 右腕にした聖武典(リグ・ヴェーダ)をわざわざ左腕に入れ替えて、雪崩か洪水の如き大量の銀貨に押し潰された巨獣を見上げる。質量攻撃だっとは言え、それを維持していたマリアーネがヘバッたことによって消失。重しが無くなったデルガミリデは、今まさに立ち上がろうとしていた。


 それを眺めてレイターは獰猛な笑みを浮かべ、改めて思う。


 ケモナーを自覚して走り始めるのは社会人をやっていく内に鬱気味になって癒やしを求めてからだが、元々子供の頃から動物は好きであった。その頃の彼と言えば、特に捻くれた癖も無く、極普通の少年として日々を過ごしていた。なので一般的なサブカル分野にも触れてきたし、最初は多分、アンパンな英雄だったと思う。そして男の子が次に大体ハマるものと言えば、戦隊モノかライダーなバッタか銀色の巨大宇宙人である。ご多分に漏れず、男の子であったレイターは特撮作品を見て幼少期を過ごした。


 そう、故に大抵の男の子は好きなのだ。デカくて、厳つくて、禍々しくも何処か憎みきれない未確認巨大生物。


 即ち―――怪獣が。


(デカァァァァァいッ説明不要!!―――くぅぅううぅう!未確認巨大生物とかロマン溢れるじゃねぇかよ!転生して良かったぁっ!!)


 こんな状況でも、いや、むしろだからこそケモナーが胸中でテンションを爆上げしていた。


「二番手、レイター。推して参るぜ………!」


 やっぱり宴会芸のノリで、レイターは肩幅に足を開き、左腕を立てる。持ち得る全魔力を聖武典へと集中させる。マリアーネもそうだったが、ジオグリフの考察を聞き、彼も思いついたことがあったのだ。


 質量保存則を無視し、想像を現実へと持ってくる―――その鍵となる魔力。ジオグリフの仮説の通りならば出来ると判断したレイターは一度こっそりと夜中に試して、出来てしまった。その上、魔力を注げば注ぐほど巨大化することも分かった。


 つまり。


「ケモナァ―――フラッシュ………!」


 右手を左腕にした聖武典に叩きつけると、彼は光に包まれた。


 ぴしゃん、と落雷のような音を伴って、その光の中から右腕を突き出してそれは巨大化しながら出てくる。聖武典と同じ、鈍色の鎧巨人。その衣装はどちらかと言えば武者寄りで、おそらくレイターの趣味であった。デルガミリデに比べれば一回り小さいが、それでも70mを超えており、胸には黄色のクリスタル。


 そのクリスタルの中にレイターはいた。


 脳波コントロールしそうな直接操縦式ではなく、またSFオタが好みそうなリアルに沿った操縦系でもない。座椅子に座ったレイターが手にしているのは、一つのレバーと8つのボタンで構成されたコントローラー。眼の前の画面は、FPSのような主観視点ではなく、わざわざドローン型の聖武典が横から撮影している俯瞰視点。


 親しみ慣れた2D格ゲーのそれである。


 そしてレイターはレバーをワイン持ちして→→入力。それに連動して巨人がデルガミリデへ向かって全力ダッシュ。


「ぐんぐんカットかーらーのぉ………!」


 どしんどしんと重量感のある振動をものともせずに叩き込むコマンドは↑↓強K。そう、特撮にて主人公参戦シーンでありがちな―――。


開幕ドロップ(選手)キッ―――ク(入場)!!」


 直後、ダッシュ慣性を維持したまま巨人が宙を飛び、両足を揃えてデルガミリデの胸にドロップキックを見舞った。


「行くぜ邪神。今日の俺は―――赤いアイツのサイクロン!!通り魔も辞さぬインテリマッチョだ………!!」


 超重量級のドロップキックを食らって、しかしたたらを踏みながらも持ちこたえたデルガミリデに対し、巨人は腰を落とし、両手を広げファイティングポーズを取る。


 かくしてハーヴェスタ平原をリングに、どったんばったんと大迷惑なプロレスが始まった。




 ●




「うーん。この特撮感。重量感あるよな、ですの」

「君が言えたことじゃないよ、マリー。何だい、あの魔法少女と変身ヒロインを足したというよりは混ぜちゃったノリは」


 ずどん、どすん、と100m近い両雄の大激突はこの世あらざるもののようで、その一撃一撃による振動や衝撃によって身体が揺らされながらも馬鹿二人はそんな事を宣った。


 ちなみに、デルガミリデの近くでぶっ倒れたマリアーネではあるが、その直後にミドグリフの計らいでアルヴァレスタ弓騎隊に回収されていた。今はぐってりした様子で平原に座り込んで、収納魔法から出した紅茶で体力回復に努めている。


「まだやってみたい変身は多々ありますのよ。魔獣達に私の魔力が追い付かないから出来ませんけども」

「いや本当に、どうなっているんだ君の魔獣………」


 本来、魔法学的にはありえないことなのだ。格下の召喚者に、上位である魔獣が付き従うなど。実はこいつ、寿命とかデメリットありまくりな契約でどうにかしているだけじゃないだろうな………とジオグリフが案じていると、マリアーネは周囲を見回した。


「それにしても………大盛りあがりですわね」

「まぁ、派手だしね。君の時もそうだったけど」


 周囲―――トライアード軍はこの神話のようなタイトルマッチに手に汗握り、巨人と巨獣が殴ったり殴られたりするだけで一喜一憂し、最早興行の観戦客のノリであった。ちなみに、一番盛り上がっているのはカズハで、尻尾をブンブンさせながら「そこです!頑張ってレイター様!」とか「危ない!避けて!」とか目をキラキラさせて応援していた。


「そう言えばアレを見て意外と興奮しませんわね?SFオタなのに」

「いやしてるけど!羨ましいけど!何ならレイから聖武典借りて僕がアレやりたいけども………!今ちょっと忙しくて………!!」


 魔獣のタゲを取られぬようにと裏でコソコソ作業をしているジオグリフは、ぐぬぬ、と悔しそうにしていた。それを情緒が忙しいですわねー、と呆れながら紅茶をしばくマリアーネであった。




 ●




 一方、マリアーネと同じように魔力の都合でタイムリミットが決められているレイターであるが、小技の打撃をしたりがっぷり四つに組んだりと意外と悠長であった。その理由は勿論。


「くっそやっぱりモフモフしてない………!?最近の学説だといい感じで羽毛あったろ恐竜!」


 わざわざ巨人と感覚共有するという魔力の無駄遣いをしながらデルガミリデの手触りを確かめて嘆―――。


「これはこれでひんやりしていて気持ちいいけども!」


 もとい、歓ぶ。ケモナーは業が深い。


 とは言え、終極は近かった。


 マリアーネよりは魔力はあるレイターであるが、この使用法はどちらかと言えば外部放出に近い使用法だ。魔力を内気功のように内側や身体に働きかけるのを得意とする彼にとっては、外法に近い。それをいつかこの異世界で出会う巨大生物をモフる、という夢を叶えるためだけに習得したのだ。


 デルガミリデが尻尾を振るう。字面だけならば牧歌的だが、相手は100m近い大質量の尻尾だ。鉄塔を振り回されているようなもので、如何なレイターと言えど無傷では済まない。


 横薙ぎで迫ったそれを垂直跳びで回避。ずどん、と巨人の着地と同時に周辺の大地が僅かに浮かぶ。着地の慣性を逃がすように→→で前ダッシュ。慣性を残したまま→弱P+中Pで頭突き(パチキ)、ヒット確認と同時に中P三連でチョップ連打、↓↙←↖弱Kで追撃の胴回し踵落し(クラックシュート)


 お手軽コンボで火力を稼ぎ、それを嫌ってデルガミリデはバックステップで距離を取る。


 だが。


「はんっ!そんな中途半端な間合いで良いのか!?そこはまだコイツの間合いだぜ………!?」


 動物の本能を知っているケモナーにとって、それは読みやすかった。獣は迫れば退く。単純な計算だ。故にこそ、攻撃入力はノックバックが最も少ない弱ボタンで終わらせている。


 叩き込むコマンドは→↘↓↙←↑+強P。コマンド表記は一回転。最速入力ならば→↓←↑で済むが、アケコンでワイン持ち勢のレイターに取ってはこれが一番入力しやすい。


 風が発生する。


 謎の吸引力でデルガミリデは巨人の腕に引き寄せられると、ガッチリ胴体を掴まれる。そのまま垂直跳び。両者固まって上空300mへと大ジャンプ。それと同時に巨人はデルガミリデの位置を入れ替える。即ち、巨獣の足を掴み、頭を大地へ向けて固定したのだ。


 そしてそのまま両者ぐるぐると、まるでドライバーのように回転しながら―――。


「夢とロマンと火事場のクソ力―――!!」


 まるで隕石のように、大地へと落着。デルガミリデは頭から大地に突き刺さり、それを見届けるようにして巨人は消失。


「くっそ、決めポーズする前にタイムオーバーとか空気読めよ俺の魔力!まだ月面宙返りとか炎のコマとかやりたいネタがいっぱいあったのに………!」


 平原にへたり込んだレイターはそんな事を悔いながら、大きく息を吸って。


「ちきしょー。先生―――!俺はここで看板だぁ!!後始末は任せたぞぉ―――!!」


 やはりマリアーネと同じようにぱたり、と倒れ込んだ。




 ●




「よくやった」


 それを見届けて、最後にジオグリフが前へと出る。


 頭を大地に叩きつけられたデルガミリデは、しかし未だ健在。一体どんな耐久力をしているのか、両手を踏ん張ってめり込んだ頭部を抜こうとバタバタもがいている。だが、その身体をよく見れば、再生しきれていない傷やヘコんだり破損した装甲板の確認ができる。


 ダメージは確実に蓄積している。そして時間も予定通りに稼いだ。後もう一押しは、この地の守護者に頑張ってもらう。


 ばさぁ、と蒼のマントを風に靡かせてジオグリフは右手を翳す。


「三番手、ジオグリフ・トライアード。―――さぁ、偽りの邪神よ。人の紡ぐ意思を以て、貴様に絶望をくれてやろう」


 魔王っぽいセリフ付きではあるが、やっぱり最後まで宴会芸のノリであった。


「全魔法展開完了。全魔法式開放。―――変換(エンコード)


 ジオグリフが十年の間唱え続け、貯め続けた魔法が―――今、解かれてただの魔力へと還る。

次回もまた来週。

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