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第四十五話 三馬鹿の本気 ~変身系魔法少女~

キューティーハニーのOPはFが一番好き。

 地鳴りのような駆動音を響かせ再起動した巨獣を前に、息を呑みながら戦闘態勢を取るトライアード軍の中で、それよりもミドグリフは弟の動きが気になった。


 笑っているのだ。あの、この世の終わりに出てきそうな獣相手に。


 この馬鹿が何かをやらかす時はいつだってそうだ。何か面白い悪戯でも思いついたかのような、そんな年相応かそれ以下の笑みを浮かべ、こちらの予想の真上を突き抜けていく。


 今日はどういう訳か、その笑みが3つあった。


「ジオ、どうする気だ?」

「アレを片付けます。兄様たちにも手伝ってもらいますから、ちょっと待っててください」


 だから尋ねてみれば、返ってくるのは頼もしいを通り越して呆れるような言葉だった。相手が今まで散々やらかしてくれた弟でなければ、鼻で笑ったかそれともこんな状況で、と激怒していたことだろう。


「やっぱり、お前が領主やる?」

「冗談よし子ちゃんです」


 半ば本気の尋ねに、しかし晴れやかな笑顔で返したジオグリフは振り返って仲間を見た。


「ラティア、リリティア、二人はロータス愚連隊って言っても分からないか………ほら、あの死にかけの癖に、まだ目をギラギラさせてる連中を中心に回復してあげて。―――望み通り、すぐに使ってやるから」


 親指でボロボロになりながらも未だ士気が挫けていない指してやれば、ロータス愚連隊が片膝を付いてジオグリフに向かって祈りを捧げていた。その妙に様になった所作が軍人は軍人でも宗教系軍人のようで、それが二千人近く同じポーズを取っているのだ。筋骨隆々の大男達が。最早荘厳を通り越して異様、いや、一種ホラーの領域である。


「分かった。………けどさ」

「だ、大丈夫なの?ジオ。なんか崇められているんだけれど………」


 その雰囲気に二人が気圧されていると、彼等から漏れ出る声が聞こえてくる。


 曰く、「救いの主だ。救いの主が再び我らの前に………」とか「すぐ使ってくださると仰られたぞ………」とか「我らを救った神の命とならば、知恵を捨て、肝を捨て、悪神百鬼を討つ鏃とならねば………!」とか物騒なことをブツブツ呟いていた。


「だ、大丈夫大丈夫………ちょっとやりすぎた結果、何故か僕が教祖みたいになってるだけだから、取って食われることは、多分、ない、よ………?」


 なんで異世界風海兵隊を目指したのに、すぐに命を捨てたがる薩摩武士みたいになってしまったんだろう………と、ジオグリフは胸中で頭を抱えているが、今はそれどころではない。


 気を取り直して、カズハへと向き直る。


「カズハは悪いけれど、本陣の守りを」

「で、ですが、あの邪神を相手に私の結界術では………」

「大丈夫。それを含めて計算しているから、いつものようにやれば問題ないよ。一発ぐらいなら防げるはずだ」


 そして最後に、馬鹿二人へと視線を向けた。


「さぁ、て。レイ、マリー。悪いんだけど、一番キッツイ役割だ。―――ちょっとだけ時間を稼いでくれる?」

「アレ相手に時間稼ぎねぇ………。どうよ姫?」

「んー。あんなのが相手でしたら持って3分、と言ったところですわね。流石にまだ練習不足ですわ」


 三人揃って立ち上がろうとしている邪神を眺める。所感として相手できなくはないが難儀する、と言うのが彼等の見解だ。


「チートもねぇしなぁ………。あんなデカブツ相手じゃぁ、俺もやれてそんぐらいだ。都合、6分。―――そんで足りるかよ?先生」

「十分だ。―――流石にアレを相手に出し惜しみは出来ないから、私の十年分を使ってとどめを刺す」

「へぇ………そりゃ剛毅なこって。まぁ、大物殺しは先生の役目だから、期待してるぜ」

「アテはあるってことですわね。それにしても十年分のバカ魔力ですか。因みにどんな魔術を?」

「それはね―――」


 その内容を聞いて、二人はコイツやっぱりSFオタだとゲラゲラ笑った。




 ●




 重々しくも遂に立ち上がった巨獣を前に、一人の少女が進み出る。


 並み居るトライアード軍人達を差し置いて、まるで無人の荒野を行くが如く。手にした扇子を口元に当て、キャットウォークを歩く女優のように威風堂々とした立ち振舞いは、ここが戦場であるということを見ている者が忘れてしまうほどに場違いであった。


 銀の長い髪を靡かせ、緑眼を輝かせて彼女は口を開く。


 その姿は、絵画のように気品あふれるものであったが―――。


「では一番手、マリアーネ・ロマネット―――いっきますわよー!」


 ―――ノリは最早宴会芸のそれであった。


「百鬼夜行―――カムヒアですわ!私の奏楽隊!!」


 扇子を掲げて詠唱すれば、彼女の背後にいつもの魔獣―――ではなく、その魔獣を擬人化した獣人モドキが出現する。その総数72。しかもそれぞれにドレスやらスーツやらに身を包み、更に手には多種多様な楽器を携えていた。


 まるで魔獣人の奏楽隊。―――背後でそのケモ度の深さにぶっ刺さった某ケモナーが『かんわえぇ………!』大興奮してカズハに首根っこを掴まれている。


 そしてマリアーネはその透き通る声で口ずさむ。


「花は気高く美しい。いかなる転生の運命に翻弄されようと、決して気高さを失わない一輪の花。奇跡の乙女が今、華麗に咲くのですわ………!」


 何だあの詠唱は、と皆が疑問に思うが、転生元を知っている馬鹿二人はこう思った。


『とうとう自分でナレーション入れ始めたぞあの馬鹿………』


 詠唱ではなく、往年のアニメにあったオープニングナレーションである。この女、元々形から入るタイプなので完全に悪ノリしている。


 そして叫ぶのは―――。


「マリィー―――………フラッシュ!」


 直後、マリアーネは魔力の光に包まれ、背後の魔獣人奏楽隊が演奏を始めた。ギターを掻き鳴らし、ドラムが踊り狂い、管楽器が高らかに吼える。歌こそ付いていないものの、元ネタを知っている馬鹿二人が『あぁ、変身系ヒロイン好きそうだもんな、アイツ………』と納得していた。


 一方のマリアーネは、身につけていたワンピースがお開け(キャストオフ)、しかし謎の光で局部を隠しつつも衣装を魔力で形成。レオタード系の色っぽさではなく、フリルがゴテゴテ付いた可愛い系魔法少女が好みなのか、白とピンクを貴重としたバトルドレスを身につけていた。選んだ理由は奇跡は無いが魔法はある世界だからだろうか。おそらく一瞬で変身も可能なのだろうが、バンク(見栄え)を重視してたっぷり十五秒ほど使って変身完了した。


 謎の力で空に浮かんだ彼女と巨獣の視線が交錯する。どうやらデルガミリデの方も唐突に膨れ上がった魔力を見て、マリアーネを敵と認識したようだ。


 マリアーネはにやりと笑って、魔力を伴い突貫。そして。


「ダウンロード!私inベレト!」


 追加詠唱―――と言うよりは、呼び出した魔獣人への命令。


 ベレトと呼ばれ、サックスを一心不乱に吹いていた猫の魔獣人が光の玉へと代わり、マリアーネに吸い込まれて合体。燐光を吹き散らして現れたのは。


「うー!にゃ―――!」


 猫耳を生やしたマリアーネであった。それだけではなく、尻尾付属、手足まで猫のそれになった彼女はわざわざ衣装までスパイスーツのような体のラインが出るものに変化させていた。何処かのケモナーが『中身はおっさん中身はおっさん中身はおっさん………!』と胸中で念仏を唱え始め、やはり何処かの狐耳少女が抑えるタイミングを伺っているが割愛。


 猫娘になったマリアーネが空中に魔力の足場を形成、それを蹴って大跳躍。巨獣の頭を取るが、デルガミリデも竜の鉤爪を伸ばして叩き落としに掛かる。


 しかし。


「フカ―――ッ!!」


 尻尾と毛並みを逆立てたマリアーネはまさに猫の柔軟性を以て空中で高速猫捻り。それはすぐに大回転となって、迫る鈎爪に対し、踵落しで迎撃した。


『はぁっ!?』


 トライアード軍は当然、迎撃された方のデルガミリデも心做しか驚愕に龍眼を見開いている気がした。『え?この質量差で何で跳ね返されてんの?』と。


 しかしマリアーネはそれに答えることなく。


「ダウンロード!私inアスモデウス!」


 命令を下せば、ベースを弾いていた蛇の顔をした魔獣人がマリアーネへと吸い込まれていく。光を伴って現れたのは、悪魔の翼に尻尾を装備したハイレグ姿のマリアーネ。早い話、サキュバスコスである。


 何処かの亜人萌えが「サキュバス………!そういうのもありか………!」と身を乗り出して後ろのエルフさんにマントの裾を引っ張られていたが割愛。


 そしてマリアーネが右手を掲げると、緑色の、ちょっと程よく反り返った御柱が出現。巨獣の尻尾ぐらいはある大きさの御立派様を。


「必っ殺!ラブ注入棒!そいや―――!!」


 未だ驚愕から立ち直っていないデルガミリデの鼻っ面に叩き込んだ。




 ●




「うーん………。このカオス」

「なぁ先生。姫のヤツ、やっぱりソロモン72柱と契約してるんじゃねぇか?」


 元の世界で悪魔の名前を冠した魔獣を呼び出しては次々にコスプレして、それに因んだ攻撃をデルガミリデに叩き込んでいくマリアーネを見て、馬鹿二人は呆れていた。


 いや、あの馬鹿が真面目に戦うとは欠片も思っていなかったし、奥の手として召喚した魔獣の力を身に宿すことは知っていた。だが、てっきりオタク年齢的にリリカルでマジカルな魔砲を使うのか、はたまた魔法少女なマギカで時間戻ったりマミったり神になったりするのかと思ったら、キューティーでハニーで物理系なのだ。


 やっぱりアイツが一番何しでかすか分からんよなぁ流石ウチの核弾頭、と二人は自分を棚上げにしてそんなことを思う。きっとトライアード軍もドン引きしていることだろう、と後ろを振り返れば。


「う、美しい………」

「流石坊っちゃんのお仲間だ………」

「アレが帝都でこの頃流行りの女の子か………」

「お姉様………素敵!」


 割と好評であった。


『えぇ………』




 ●




 ある種一方的、見方によっては無双しているようなマリアーネだが、しかしタイムリミットはすぐそこまで迫っていた。


 実の所マリアーネ自身、契約した魔獣の素性を完全に把握しているわけではない。錬金術を習得する際、たまたま手に入れた古文書に既存のとは違った形式の召喚術を発見。そこに並んだ名前に見覚えがあったから興味本位で使ってみた結果、何となくで出来ちゃったに過ぎないのだ。


 流石に世界が違うのだからまさか本当のソロモン72柱ではなかろう、とは思っている。思ってはいるが、魔獣達が個々に持つ魔力量はその全てがマリアーネを凌駕している。召喚術における契約が、彼我の魔力をベースにした交渉に左右されることを考えると、本来マリアーネは彼等を従えることは出来ない。やれて一匹が精々だ。


 そう。ジオグリフには及ばないものの、そこらの英雄級の魔力量を誇っているマリアーネですら呼び出す魔獣の一匹にすら敵わないのだ。


 ぶっちゃけた話―――何で制御できているのか、やってる本人ですらまるで分からないのである。


 そんな彼等の能力を現状最大限に引き出せる憑依合一(ダウンロード)魔法だが、言うならばマリアーネと合一した魔獣が同時に一個の身体を操作するもの。その出力、制御、特殊能力に至るまでほぼ魔力に依存するため、入れ代わり立ち代わりになる魔獣側と違って、マリアーネは一方的にガリガリと削られていく。


 現段階におけるその最長時間が3分―――それを今、迎えようとしていた。


「ダウンロード!私in―――バアル!!」


 最後っ屁、とばかりに憑依合一(ダウンロード)したのは、カエルの魔獣。指揮棒を放りだしたカエルの魔獣は平原に着地したマリアーネに合一し、彼女はカエルスーツに身を包む。


 そして右手を翳せば一つの箱が出現した。その箱には上側にドット液晶があり、下にパネルがあり、メダル投入口があり、1つのレバーがあり、3つのボタンがあり、中央には様々な絵柄が描かれたドラムリールがあった。


 その箱―――いや、筐体(スロットマシーン)に向かってマリアーネは懐から銀貨3枚をすちゃっと取り出し投入。気合とともにレバーオン。スタート音と共にドット液晶に7匹のカエルが出現。


「昔はボナ揃いでも15枚払い出しでしたのよ―――!!」


 叫びながら順押しでスライド高速目押し。テンパイ音すら置き去りにして777が揃ってファンファーレ。何故か空から大量の銀貨がじゃらじゃら降ってきて、デルガミリデの巨体を押し潰した。


「私もうオケラですわ!レ―――イ!後は任せましたわよ―――!」


 しかしそこで限界を迎えたようで、マリアーネはその場でパタンと倒れ伏した。


次回も来週の水曜日。

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