第四十二話 石ころの意地、蟻の一牙
シリアスさん「ふふふ、私を阻むものはもういない・・・!」
かつて、悪魔族と呼ばれる種族がいた。
神の御使いである天使族に対を成すように、魔神の下僕として存在していた彼等は、3000年程前に起こった世界大戦を境にこの世界から姿を消した。
神魔大戦。
神族と魔神族達との最終戦争―――というのがこの世界の認識だ。実際にはリフィール神のような管理神でも何でも無く、単に高度に成長した魔導士を後世の人間が神と誤認したのがきっかけだが、その辺りのあれこれは長くなるので割愛する。
重要なのは魔神と後世で呼ばれる一派が同じく後世で悪魔族と呼称される種族―――否、生体兵器を生み出したこと。
同じように神族が生み出した天使と呼称される生体兵器と戦うための雑兵だったものだが、段々と制御が効かなくなり、最終的には魔法を用いて無幻牢獄へと追いやったこと。
そして―――カリーナが習得した禁忌の中に、その無幻牢獄を開くための鍵となる死霊術があったこと。
膨大な魔力に寿命という対価を重ねて差し出し、ようやっと為し得る悪魔の召喚。出てくる悪魔達は、なるほど確かに伝承にあるようなグロテスクな見た目と体躯を持ち、その強さも一匹一匹が地竜に匹敵するとされる。
人型ではあるが、鬼のような角や牙を持ち、身体の主だった部分は白い外殻に覆われており生半可な武器や魔法ではまともにダメージが通らない。
それが千体。
視認した瞬間にラドグリフは詠唱を始めていた。相手が相手だ。出し惜しみできない。選んだのは初手から最終手段。
「天破光爆!」
炎の剣の群れが出現した悪魔達の上空に出現し、降り注ぐと同時に爆発を引き起こす。連鎖的に爆破していく光景は、さながら星星の瞬きのようであった。緒戦でやった一部閉所である塹壕に叩き込んで総合威力を引き上げる、という手法こそ取れなかったが、それでも大魔法に類する第二魔術式だ。
個体能力が地竜種に匹敵する程度ならば十分に通用するはず―――とラドグリフは思っていた。
「やったか………?」
立ち昇った爆煙を見据え、ラドグリフは我知れず呟く。それが晴れた頃に、見えた光景にラドグリフは絶句する。
確かにダメージは通っている。外殻が剥がれた者、倒れ伏す者、一部位を欠損し立つことすらままならぬ者―――だが、その全てが既に回復を始めていて、更には瞳に怨嗟の色を灯しラドグリフを睨んでいたのだ。
そして即座に動ける者から咆哮し、次々とラドグリフへと殺到する。
●
出現した悪魔達は、カリーナを支点に四方八方へと散らばり、敵味方―――それこそ、本来同族であるはずのケッセル軍の魔物すら躊躇わずに襲い掛かった。
ケッセル軍は半狂乱となり、トライアード軍や魔物達は半ば本能的に反撃を開始するが、武器の類は容易く外殻に弾かれ、魔法ですら効きにくい。何より厄介なのは再生能力だ。外殻の隙間を縫って生身に槍を突き刺しても、硬い筋肉に阻まれ、その僅かな傷すらすぐさま再生していく。
僅か1000の寡兵でありながら、その十倍近い両軍勢を見境なく虐殺していく様は、まさしく悪魔そのものと言えた。
「何だありゃ………」
その様子を、ようやっと右翼へ辿り着いたルドグリフは目の当たりにして絶句した。状況は読めない。だが、何か異常なことが起こっていることは理解できる。更にその悪魔達の中心地に近いところに、未だ戦意を失わず荒れ狂う炎を見つけた。
「親父………!」
ラドグリフだ。
悪魔達に囲まれ、全身から血を流し、尚も笑みすら浮かべて炎を振りまき、死の剣舞を刻み続ける父親の姿は正しく火炎魔人そのものであった。
(間に合うか………?)
ルドグリフは馬の手綱を握りしめ、戸惑う。知れず思考が加速する。救い出すデメリット、得る損害、見捨てるメリット、その後の決戦の趨勢―――様々な計算が彼の脳裏を駆け巡る。親子の情などそこに挟まない。情だけで動けば部下を失う。この先、トライアードが生きていくための守り人を失う。そんな選択をすれば、それこそ父から叱責が飛ぶだろう。
ここがおそらくは分水嶺だ。その重圧に、自らの手に委ねられた選択肢の厳しさに僅かに臆した。
それを自覚して、ルドグリフは奥歯を噛み締めチラリと後方を見る。
(あぁ………)
熱気がそこにはあった。
ロータス愚連隊500人、アルヴァレスタ弓騎隊1500人―――都合2000人の己の部下が、じっと命令を待っていた。
単純な戦力差ならば2倍の数。だが、一体一体が地竜級の悪魔を相手に戦えるのか―――そんな疑問など、誰も持っていなかった。恐怖は感じている。だが御している。設定した目標に対し、明確なルートマップの構築を行うことは、今のトライアードにとって至極普通のことだからだ。
あの弟は、愚連隊相手によく語っていた。
『引かれなば、悪しき道にも入りぬべし、心の駒に手綱を許すな―――って格言が《《むかーし》》の言葉にありましてね。臆病であったり、ビビって戸惑っても良いんです。ちゃんと手綱を握って制御できていればね。それを時々で忘れられたり、元から知らないようなイカれた人にしか英雄にはなれないのですから』
君達は不世出の英雄ですか?と尋ねられて皆が一様に首を横に振って苦笑した。
英雄がこんなに泥に塗れたりしないだろうと。彼等のように眩しくはなれないし、高くも飛べない。地を這い、泥を啜り、それでも前へと進むことしか出来ぬ愚か者であると。
(ああ、そうか………そうだよな………)
ルドグリフは父のようには成れない。―――彼のように豊富な経験は無い。
ルドグリフは兄のようには成れない。―――彼のように輝かしい才能も無い。
ルドグリフは弟のようには成れない。―――あんなイカれた馬鹿に成りたく無い。
所詮ルドグリフは―――いいや、愚連隊は世間の敗北者。ただの凡愚、凡骨、それでいい。それがいい。そうでなければ。
(だったら―――)
何故ならば。
(―――間に合わせてやらぁっ!!)
《《だからこそ》》得たものが、確かにあったのだから。
故に今、最後の切り札を使う時が来た。
「―――野郎共!俺達に出来ることは何だ!?」
魔力を込めてルドグリフは声を張り上げる。まるで拡声器を通したかのように、その声は戦場に拡散する。
『殺せ!殺せ!殺せ!』
その魔力と声を受けて、応えるのは彼の部下達だ。同じように魔力を込めて、武器を掲げ高々に吼える。
「手にした剣で出来ることは何だ!?」
『殺せ!殺せ!殺せ!』
声と魔力の渦は混ざり合い、大きな奔流となって彼等を包み込む。
「俺達はトライアードを愛しているか!?ロータス愚連隊を愛しているか!?」
『ガンホー!ガンホー!ガンホー!!』
それを並の魔導士が見たのならば、絶句したことだろう。こんな詠唱を聞いたことはないと。それもそのはずだ。元々これは、ロータス愚連隊の隊規に過ぎないのだから。だが幾度も口にし、唱え続けた結果―――それはやがて《《祝詞のような意味を持った》》。
「よろしい!ならば戦争だ!これより我ら、修羅に入る!神に会っては神を斬り、悪魔に会っては悪魔を斬る!情けを捨てよ!我ら才無き石ころが、才人を超える栄光を掴まんとするならば不屈の意地を掲げよ!!」
『トライアード万歳!トライアード万歳!トライアード万歳!!』
今では領民ですら唱えられるほどに浸透したその警句は、魔力を込めることによって、いつしか合奏魔法用の詠唱に昇華した。
そう、合奏魔法だ。ジオグリフが一人で行っている重複変異―――その大元となった詠唱技法。本来は、双子や長年連れ添った者達が阿吽の呼吸で寸分違わず詠唱、発動するからこそ成し得るおよそ現実的ではない技術―――であるのだが、愚連隊は訓練や実践を通じてそれを成した。
同じ飯を食い、同じ訓練を行い、同じ敵を相手にし、同じ地獄を駆け抜け、そして同じ隊規を口にする。
幾度も幾度も、やがて飽きるという言葉を忘れて身体に染み付くまで。
「ロータス愚連隊隊規斉唱―――!!」
それを十年、愚かしくも続けた凡人達の集大成―――即ち、愚連隊式合奏強化魔術。
恐れを知る者しか、恐怖を御せる者しか扱えぬ勇気の魔法。
その名を―――。
『ぶっ倒れるまでインファイト!!』
魔力の渦を伴って、黄金に輝く神兵が戦場に出現する。
世の中に蹴り飛ばされた石ころが、今こそ金剛石に変わる時が来た。
●
黄金の燐光を伴って乱入したロータス愚連隊500人はアルヴァレスタ弓騎隊の援護射撃を受けながら、さながら鋏のように悪魔達へと突撃してその陣容を切り裂いていく。
元々、ルドグリフが扱う補助魔術はそれほど強固なものではない。彼自身が補助魔術に特化したとは言え、対象は自分ではなく自分も含めた軍だから、効力そのものよりも効率性や持続性に重きを置いたのだ。勿論、ジオグリフから直接教わった故に一般的な補助魔術の性能よりは大分おかしいことになっている。しかし凡才を自負するルドグリフが扱い切れるようにダウングレードした結果、やはりオリジナルよりはかなり劣るのだ。
それを補うために辿り着いたのが合奏だ。
束ねた魔力や行使こそルドグリフが手動して調律する必要性はあるものの、500人分の魔力と詠唱によって大魔法に相当する第二魔術式に到達し、一人一人にジオグリフが超魔力で施す補助魔術に匹敵する効力を得る。実行数値的にはルドグリフの普段使う補助魔術のおよそ10倍。
これがロータス愚連隊が持ち得る最後の切り札。彼等がトライアードで特記戦力と目されている最大の理由だ。
だが、言うほど圧倒的な快進撃では無かった。
何しろ相手は悪魔族だ。
驚異度で言えば地竜クラス。一体ですら軍を動かす必要が出てくるような化物を相手に、たった2倍の数で挑む方がどうかしている。幾ら強化しているとは言え、ただの軍では蹴散らされていただろう。怯え、竦んで、逃げ出していたかもしれない。
だが。
『ぶっ倒れるまでインファイト!』
彼等は違う。
恐れはする。怯えもする。だが彼等はその警句で己を奮い立たせ、槍を掲げて突撃していく。
前述した通り合奏魔法による強化は彼等の身体能力を10倍にまで高めている。槍を振るえば悪魔の頭をぶち抜き、盾で押し込めば巨人のような体躯の悪魔が出来の悪い冗談のように吹き飛んでいく。ただの武器や防具では彼等の膂力に耐えられなかっただろう。救いの主がもたらした地竜装備だからこそ強化された彼等の力に付いていく。
しかし相手は悪魔達だ。その巨躯を用いた暴虐は地竜装備ですら貫通し、魔法による迎撃は合奏魔法の自動回復ですら追い付かないほどの傷を愚連隊に刻む。
そして最後の切り札だけあって、この超強化は長くは続かない。10倍という高負荷を、凡人である彼等が何のリスクを負わずに使えるはずがないのだ。動くだけ、槍を振るうだけで筋肉は至る所で断裂を引き起こし、攻撃を当てたり踏み込んだだけで骨折すらする。それを強制的に補助魔術による自動回復で修復して辛うじて戦っているだけに過ぎないのだ。当たり前ではあるが、当然その際に激痛が身体を駆け巡っている。それをただの気合一つでねじ伏せているだけだ。
徐々にではあるが道が出来ていく。己達と悪魔達で作る血道だ。目指す先はただ一つ、門を維持するカリーナ。ラドグリフは未だ健在。ならば首魁を潰せば、あの門を閉じさせれば悪魔族の増援はなくなると踏んだのである。
(恐ろしいわね………トライアード)
そしてじわりじわりと悪魔達を押しのけて進撃して、そろそろカリーナに取り付こうかと迫りくる愚連隊に、地獄門を維持しているカリーナはここ数十年覚えたことのない恐怖を感じた。
(とは言え、ただ死ぬだけは面白くないのよ。可能なら、邪神様が世界を滅ぼす様を見たいのだから………!)
だが、彼女も禁忌の魔女と称される英傑だ。即座に気持ちを切り替え、無詠唱で障壁を張る。更に右手で門の制御をしたまま左手の錫杖を愚連隊に向け、魔術を放つべく意識を集中した。
●
魔女のその一連の動きを、愚連隊の後方で具に観察していた者がいた。
「―――見つけたぜぇ、オイ」
元ラファル隊副隊長、ジェイクである。
血走った目が見据えるのは、アドラ砦陥落時に地竜の群れを率いていたあの女―――カリーナの姿だ。
あの時―――アドラ砦が攻められた時、ラファルは伝令を走らせると地竜の群れを迎え撃った。アドラ砦は前線を前提に建造された砦であるため、地竜だけならばいい勝負はできた。事実、初撃はどうにか耐えたのだ。だが、あの魔女が乗り込んできて全てが終わった。
無詠唱による速射で次々に兵士を討ち取り、更には門を開いて味方を呼び込み制圧したのだ。
あの魔女が乗り込んできた時点で趨勢は決していて、ジェイクも最初は決死隊に志願していた。だが、ラファルが情報を持って逃げるように命令したのだ。最初は拒否したジェイクだが、ラファルに『仇討ちする奴が必要だろうが。ウチで一番有望なのはお前なんだから、後は任せたぞ』と言われ、後ろ髪を引かれながら撤退した。
魔女は、あの時の討ち漏らしがこの場にいることなどまるで気にしていない。いや、そもそも知りすらしないのだろう。あれ程の実力を持つ魔導士だ。ただの一兵卒など歯牙に掛けたこともなく、あの戦いとて相手にとっては戦いですら無く―――きっと我が道を横切っている蟻を踏み潰した、そんな感覚だったに違いない。
そこに感嘆はなく、あるとすれば足裏が汚れた不快感ぐらいだろう。
見下されている。いいや、眼中にすら無い。それもそうだ。凡人のジェイクがどれほど努力を重ねたところで、あの魔女の足元にすら及ばない。熟達した魔導士と一兵卒では、そもそも土俵が違う。争える次元にないのだ。
分かっている。ジェイクは自分の分を弁えている。弓の腕に多少覚えがあるだけの、凡百に過ぎないのは理解している。一人だけの恨みだったら、きっと目を背けていたことだろう。噛みつきすらせず、尻尾を巻いて逃げていたはずだ。
だが彼の双肩には、全滅したラファル隊全員の恨みが乗っていた。
「意地があるんだよ………!負け犬にだってさぁ!!」
駆る馬の手綱を手放し、鐙から足を外して身体のバネだけで鞍の上に屈んだジェイクは腰の矢筒から矢を引き抜き、番え、そこから更に飛び上がる。常ならば単なる落馬だ。だが、今はルドグリフの補助魔術の影響もあって、ジェイク自前の身体能力強化に更にブーストが掛かって、ただの垂直跳びで8mは上空へと上がった。
視界が確保される。仇がよく見える。それは相手からしても同じなのに、しかし相手はこちらに気づきもしない。いや、その必要性すら無いと思っているのかも知れない。
それは正しい。実力差から見ても、せいぜい矢が届くかどうかといった所だ。あの障壁を貫けるかどうかすら分からない。
そんなことは他ならぬジェイク自身が一番良く分かっている。
倒せなくていい。殺せなくていい。そんな実力など自分にありはしない。ただ、相手の一番《《いいところ》》を邪魔さえできればそれでいい。それさえ叶えば、後はあの金色の英雄達が殺しに行くのだから。
弓を引き絞り、ありったけの魔力を込める。
跳躍の限界点に達する。
一瞬の浮遊感。
ジェイクの視界で、あらゆる世界が停滞する―――その一瞬に。
「味わってみろよ、蟻の一撃を………!」
蟻の牙が解き放たれ、戦場を翔ける。
仲間達を殺した怨敵に、文字通り一矢報いよと嚆矢となって。
●
蟻の一穴、という言葉がある。
どれほど強固に築いた堤でも、蟻が掘って開けた小さな穴が原因で崩落することがある事を示す言葉だ。
結果から見ると、ジェイクの放った一矢はまさしく蟻の一穴となった。
「な―――!?」
たった一本の矢。
カリーナにとって何でも無いはずだった矢。例え魔力が篭っていようが、障壁に弾かれるだけだったはずの矢。そのたった一本の蟻の牙が、彼女の明暗を分けた。
防ぎはした。貫通などしなかったし、させなかった。だが、予想外が一点。その矢は弾かれること無く障壁に《《突き刺さった》》のだ。まさに凡骨の意地。負け犬の報復。蟻の一牙。しかしそれこそが勝利への呼び水と成る。
齎されたのは障壁に僅かに入った亀裂。僅か数センチにも満たないそれを、カリーナも―――そしてロータス愚連隊も見逃さなかった。
突き刺さった矢に真っ先に気づいたルドグリフが、カリーナの反応よりも早く動く。鞍と言わず、馬を蹴り飛ばすように弾け飛び、大槍を手放し、拳を握る。狙うべきは矢筈一点。
時間がない。ルドグリフにしても愚連隊にしても既に魔力も身体も限界だ。この出鱈目なほどの超強化は、使えば身体に明確な反動が来る。後1分もすれば身体が殆ど言うことを利かなくなるだろう。その先にあるのは、魔女と悪魔による虐殺だ。
決着を付けるならば、今を於いて他にない。
「疾ぃっ………!」
「しまっ………!」
だから砕けても構わないとまるで弾丸のように飛び込んだ。そのまま全力で矢筈に右拳を突き入れると、魔女を守っていた障壁はその僅かな亀裂からガラスを割るようにして弾け飛ぶ。
勇気の風が吹く。
これが最後の勝機。
負け犬が中指立てて呼び込み、自分達の頭目が切り開いた勝利への道。
だから彼等はいつもの警句を叫ぶ。
こんな踏み外せない正念場だからこそ―――いつものことを、いつものように。
『―――ぶっ倒れるまでインファイト!!』
そして愚か者共が大槍を掲げて魔女へと雪崩のように殺到した。カリーナは迎撃すべく幾つかの無詠唱の展開を行うが、もう遅い。魔術で数人討ち取ったが、その勢いは最早止まるものではなかった。
(―――ま、いっか………これで邪神様は復活なさるのだから)
正面から飛んでくる槍衾に全身を串刺しにされながら、禁忌の魔女はどこか満足気な顔をして息絶えた。
●
「―――達した………!」
大深度地下の祭壇にて、中央に鎮座した水晶が真っ黒に染まった。
「デルガミリデ様!今こそ復活なされよ!」
バスラの言葉に呼応するように水晶から瘴気とも呼べるような黒い靄が渦を巻いて吹き荒れ、周囲の―――バスラと信者達の命を吸っていく。そう、吸っていくのだ。座禅を組み、詠唱していた信者達は瞬く間に即身仏となり、禁忌の魔女に匹敵する魔力総量を有すバスラですら長くは持たなかった。
血も、魔力も、魂すら捧げる中で、死にゆくバスラが掠れていく声で最後に願ったのはただ一つ。
「この世界に、終焉を………!!」
そして彼等の命と引換えに、遂に邪神召喚の儀式は成った。
続きは来週、多分水曜日。




