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第四十一話 決戦、魔人VS魔女

シリアスさん「我が世の春が来ている!!」

「報告します!左翼瓦解!魔物が増殖!本陣方向へと侵攻開始!」

「何?」


 本陣にて構えていたラドグリフはその報告を聞き眉を顰めた。


 左翼戦線を任せていたのは第二騎士団だ。最精鋭の第一騎士団、魔法部隊を主力とする第三騎士団、工作や特攻を得意とする特技戦力をまとめた第四騎士団に比べて第二騎士団は突出した戦力を持たない。


 だが数は最も多く、汎用性はどの騎士団よりも高く、まさしく主力と呼べる騎士団だ。そこを抜いて進軍してきた。それ即ち―――。


「撤退してきた兵が言うには、禁忌の魔女が現れたと」


 数の力を覆してくる特記戦力が出現したということだ。


「ジェイクの報告にあったカリーナ・レンブラントか。………面倒なことだ」


 その名を聞き、ラドグリフは胸中で舌打ちした。


(大方………此度のらしくない戦争は、奴が―――いや、デルガミリデ教団が関わっているのであろうな)


 あらゆる禁忌に触れたと呼ばれる魔女にして、デルガミリデ教団の筆頭魔導士と目されるこの女には数々の逸話がある。


 その中で最も有名なのは70年前、大陸西部においてオルデリンド王国の内乱時に反乱側に加担し、これを成功に導いたことだ。


 曰く、無詠唱の使い手であり、その速射性だけで一軍を圧倒した。


 曰く、魔物を使役し、軍人民間人問わず虐殺した。


 曰く、無詠唱と同じく禁忌とされている死霊術を用いて虐殺した人間の魂を魔法の贄にした。


 尚、新生したオルデリンド共和国は後に諸外国からその部分を追求されて凋落、経済不安から内戦が勃発。見る影もなく力を落とし、10年後には周辺国に併呑されている。その際にも禁忌の魔女の影が見え隠れしていたそうだ。


 能力の是非はさておいて、非常に悪名高い魔術士―――それが禁忌の魔女、カリーナ・レンブラントだ。それが今回の戦争に関わっている。いや、魔物軍の様子を見るに主導してある可能性すらある。

 

「父上、ここは僕が―――」

「いや、私が行く」


 ミドグリフの言葉を遮って、ラドグリフは宣言した。その信じられない決断に、諸将が騒然とする。


「しかし、父上は総大将ですよ!?」

「噂通りならあの魔女を相手に生半可な戦力をぶつけた所で被害が拡大するだけだ。―――ここに宣言しておく。以後は私ではなくミドの指揮に従え。今からミドが総指揮官だ」


 諸将の意見を代弁するように声を上げる長男の肩を叩き、ラドグリフは皆に宣言する。


「元々数年後には隠居するつもりだったのだ。それが少し早まるだけのこと。―――何、心配するな。すぐに帰ってくるさ」




 ●




「何だと?禁忌の魔女?もう出てきたのか?」

「はい。閣下が直接出向かれたそうですが………」


 ラドグリフが出陣してやや時間を置いて、右翼側で第四騎士団の先鋒として最前線に立っていたルドグリフはその報告を聞いた。


(嫌な予感がする………。だが、ここで持ち場を離れるわけには………)


 右翼の最前線はロータス愚連隊という特記戦力を投入しているおかげで、非常にトライアード軍が優勢であった。無論、彼等自身が優秀であるのは言うまでもない。だが、ルドグリフの補助魔術による強化と自己回復による尋常ではないタフネスで持っている面も忘れてはならないのだ。


 ここでルドグリフが抜ければ、強化と自己回復によるゴリ押しができなくなる。無論、他の軍から見ればいっそ狂気的なまでに鍛えたロータス愚連隊はそう簡単には落ちまい。だが、二千人程しかいない愚連隊が徐々に押し込まれていくのは想像に難くない。


 どうする、と顔に掛かった血糊を拭ってルドグリフは逡巡する。


「団長、ここは我らにおまかせを」

「リードリヒ………」


 その迷いを感じ取って声を掛けたのは副長のリードリヒであった。


「よもや閣下がやられるとは思いませんが、まさかは戦場では常に付きまとうもの。ここで閣下がただ負けても士気は下がりませんが、死ぬようなことがあれば一時的ではあるでしょうが全軍が挫けます。ならば補助魔術に特化した団長が加勢し、最低限本陣へと逃げる必要が出てくるはずです」


 周囲を警戒しながらリードリヒは語る。


 総指揮官が負けた程度では今のトライアードの士気は落ちない。十年前からの軍事改革の一環で一兵卒に至るまで局地戦に拘らず、時には捨てることさえ意識しているからだ。


 だが、流石にラドグリフが死ぬようなことになれば、再起までの時間―――仇討ちを臨むまでの僅かな時間、士気は下がるだろう。流動性のある戦場ではその僅かな隙が命取りに成りかねない。


 その保険として、ルドグリフを向かわせておけば最悪の展開は避けられるだろうと考えたのだ。神官や神官戦士のような回復術までは使えないが、それでもある程度の応急は使え、更に補助魔術に特化したルドグリフが救援すれば優位に立てるはずだと。


「しかし、ここで俺が抜けたら補助魔術が………」

「それに―――我々は《《ロータス愚連隊》》です」


 尚も逡巡するルドグリフにリードリヒは続ける。


「団長がいない?補助魔術がない?だからどうしたというのです。我々には最初、そんな便利なものは一つとしてなかったのです」


 リードリヒだけではない。


 ロータス愚連隊に所属する隊員は皆―――それこそ、ルドグリフですらそうだった。今でこそ色々なものを手に入れた。だが始まりは裸一貫。地位も名誉も、金も力もありはしなかった。あったのは妬み、嫉み、このような世の中と環境に自らを産み落とした神への恨み。


 まるで路傍の石ころ。誰にも目をかけられることもなく、拾われることもなく、関わることがあっても蹴り飛ばされるだけ。


 だが、蹴り飛ばされたその先で、彼等は救いの主に出会った。


「生まれ変わる前に、生まれた頃に、泥を喰み、泥に塗れ、泥と共にあった頃に………何一つ無かった頃に戻るだけです。―――しかし今度は、愚かしくも真っ直ぐに作り変えた精神を持ったままで」


 辛くなかったとは言わない。苦しくなかったとも言わない。だがそれでも、今、救いの主の家族を救えるというのならば裸一貫であった頃に戻ることを厭わない。


 故にリードリヒはルドグリフを見据える。


 もう大丈夫だと。信じてくれと。今の自分達ならやりきれると。


「―――すまん。愚連隊の500人を借りる」


 ややあって、ルドグリフは決断して背を向け後退を始めた。


「機動力と制圧力のあるのも付けます!丁度アルヴァレスタ弓騎隊がいるので、彼らも供回りにして下さい!」

「礼を言う!」


 その背中にご武運を、と胸中で投げかけてリードリヒは大槍を掲げ声を張り上げる。


「いいか野郎ども!!戦線を維持すればいいなどという温い考えは捨てろ!団長がお戻りになられた時に、胸を張れるように―――奴等を皆殺しにするぞ!!」

『応っ!!』


 ルドグリフが離れていくに従って、補助魔術が切れていく。


 身体は鈍くなり、手に宿っていた力は弱くなり、足は遅くなる。


 此処から先は、ほんの僅かな小傷ですら命取りになるかもしれない。


 人員も愚連隊の四分の一が抜け、援護を担っていたアルヴァレスタ弓騎隊がごっそり抜ける。


 艱難辛苦が迫ってくる。


 だが、ロータス愚連隊の士気はいよいよ最高潮に達しようとしていた。




 ●




 その邂逅は、およそ戦場には似つかわしくないものであった。


「あら?」

「ふん。禁忌の魔女か。どんな女かと思えば、随分と若いではないか。世襲なのかね?」


 まるで散歩に出た人間が、近所の知り合いと出会ったかのような気楽さで―――ラドグリフ・トライアードとカリーナ・レンブラントは対峙した。


 カリーナは魔物達を単純な肉壁とすることはなく、先頭に立って彼等をまるで外部補給装置代わりに消費しつつ無詠唱魔術を振りまいて進軍。


 ラドグリフは供回りを途中まで連れてきていたが、鶴翼陣形を指示するとその中央部に自身を配置した。


 故に、まるで凸凹が番うようにして二人は邂逅したのだ。


「これでもそれなりに歳を重ねておりますのよ?ただ、ちょっとした事故で外見年齢は止まってしまったのですけれど」

「成程。―――中身は老婆か」

「まぁ。女に歳の話は禁句ですのよ?」

「悪いが妻以外の女に興味はない。故に世辞は言わぬし配慮もせぬ」


 妖しい色気を振りまくカリーナだが、ラドグリフは鼻で笑う。


「それにここはパーティー会場ではない。戦場で敵を相手に気を使う必要があるものか。まして責任のある立場の人間がご機嫌伺いをするとでも?私は差別など無駄な真似はせん。区別もだ。男だろうと女だろうと、子供だろうと老婆であろうと―――敵であるならば、平等に皆殺すだけだ」

「あらあら、トライアードの領主は情けがないのですね。それとも、青い血(貴族)の為せる所業ですの?」

「いらぬ情けで守るべき領民を死なせるぐらいなら、外道と謗られようとそれ以外に対してはどこまでも冷酷であろう。そんな覚悟一つ持てぬ者が為政者となって権勢を手にすれば腐敗が始まり、その先は傾国、末は滅亡だろうよ―――業火(フレイム)


 ラドグリフが言葉を詠唱一単語で結ぶと、草原に炎が疾走った。


 カリーナや魔物軍へ向けてではない。トライアード軍と魔物軍の間を分けるようにして、半円を描きながら大地を走る。やがて完全に円となった燃え上がる炎の壁は、まるで特設の舞踏場(リング)のようだ。内側に残されたのはラドグリフとカリーナだけ、というのが尚の事それを彷彿させた。


 いや、実際にそうなのだ。この男は、自分を誘っている。一対一の、死の舞踏へと。


「ふふ、火炎魔人は健在ですのね」

「そろそろ問答はいいだろう、禁忌の魔女よ。降伏する気もないのだろう?ならば会話するだけ無駄なのは貴様も分かっているはずだ。―――さっさと来て、死ね」


 カリーナの世辞に、ラドグリフは火炎魔人に似合わぬ冷厳さで言い放ち―――そしてトライアード軍とケッセル軍、互いの最高戦力が、遂に激突する。




 ●




 魔法を扱う者―――即ち魔導士同士がぶつかる時に何が重要視されるか、と問われれば答えは時間だ。


 この世界において、魔法の行使には詠唱が必要とされる。カリーナが用いる無詠唱という技術は習得よりも運用に苦慮した結果禁忌扱いされており、より正確に言うならば使用者の思い通りに正しく魔法を扱うためには、と枕詞が付くのだ。


 例えば包丁を思い浮かべてほしい。


 包丁の本来の用途は台所にて食材を切ることであるが、それを寝ている最中にも持っていたらどうなるか。寝返りで寝具を切ってしまうだけならば笑い話だが、誤って自分を切ってしまったり、妻や夫と同衾していたならば殺してしまうかもしれない。


 そうした事故を回避する一種のセーフティが詠唱だ。


 魔法とはイメージの世界だ、とは良く言われることだが、呪文の詠唱は即ちそれを補強する行いであり、撃発(トリガー)だ。現代地球の感覚で言うならばプロスポーツ選手が行うルーティンのようなもので、いかなる環境下、いかなる状況下においても練習してきた行動を正しくなぞるための儀式ともいえる。


 だが、ここで最初の問いの答えがデメリットになる。


 詠唱をする―――即ち、決められた言葉に出して意識を集中する必要性があるために、どうしても魔法の発動には時間がかかってしまう。単純に出力が強かったり、そうでなくとも複雑な機能を加えた魔法はその傾向が顕著になる。


 その時間を稼ぐのに最も手っ取り早いのが距離を取ることであり、畢竟、魔導士というのは後衛職というイメージが濃くなった理由である。


 トライアードは昔から武門の家柄であるが、魔術士としての才能もあったラドグリフは若い頃、自らの戦闘様式(コンバットパターン)に迷った。嫡男でもあるのだから、武門らしく武の道を歩むか。あるいは才能を活かして、魔術を極めるか。


 迷いに迷った結果、彼は中途半端な魔法剣士になってしまった。


 そう、《《魔法剣士》》である。


 武の家柄でありながら、何故か先祖から継承されている伝承魔術のお陰で、最大火力こそ大魔法に分類される第二魔術式を行使できる。だがそれを除き、ただの魔術士として見た場合、ラドグリフは贔屓目に見ても宮廷魔術士クラス。その中でも下位から数えた方が早いぐらいの、専業の中でも二軍と称される程度でしかないのだ。


 彼自身も、それを自負していた。


 潮目が変わったのは、三男(ジオグリフ)が生まれてからだ。幼児の頃からその才を発揮してきた末の息子にも、ラドグリフは当然武を叩き込んである。本人は嫌がっていたが、ある種の宿命と思って諦めさせ剣を握らせた。


 するとどうだ、ラドグリフの理想とした戦闘様式(コンバットパターン)を持つ戦士が出来上がったではないか。


 魔術による遠距離攻撃、魔力による身体強化、そして武技。器用貧乏と揶揄されるはずの魔法剣士のそれを大きく覆し、万能とも言える完成に至った。唯一の欠点である詠唱ですら、『解凍(デコード)』という謎の言葉で全てを一小節どころか一言で済ませ、弾幕を展開、魔力を纏って身体を強化、最速で敵に肉薄し、鍛えた武技で斬り捨てる。


 あの才気の塊のようにはなれまい、と流石に現実を見ていたラドグリフではあるが、聞かずにはいられなかった。似たようなことは自分には出来ないのか、と。


『父様は炎が得意なんですから、事前に炎を用意すればいいのでは?』


 最初は何を言っているのか分からなかった。だが、彼が齎したこの世界にはない戦略・戦術概論を紐解いた時、その言葉は魔法理論的に突破口となった。


 そも魔法とは何ぞや、を説明すると話が長くなるので割愛するが、極論を言えば0から1を作り出す創造行為に属する。何もない所から何かを作り出すのだ。家屋を作る時に、材料である木材から育てているようなものである。それでは単純に手間がかかる。


 では、木材を他所から仕入れたり、プレカット工法のようにある程度組まれていれば、0からではなく0.5や0.7から1に出来るのではないか―――と言うのがジオグリフの考え方であった。無論、この世界では詠唱短縮や破棄と言った技法はあるが、それは全工程の中で破綻を崩さない程度の手抜き工法であり、行使可能であるが想定威力を下回ったりコントロールが効き辛かったりと様々なデメリットを持つ。言ってしまえば欠陥住宅だ。


 余談だがその上位互換であり、一種の究極系が彼が得意とする弾倉詠唱(ストック)である。この場合、前述した家屋の例に照らし合わせるのならば建売住宅のようなものだが。


 振り返って今だ。ラドグリフとカリーナの周囲には炎の壁で出来た闘技場が出来上がっている。そう、ラドグリフが最も得意とする炎魔術。それを扱うのに《《最適な地形》》が完成していた。


 三十六計が第十五計―――調虎離山。


 相手を本拠地から誘い出し、自らの有利な地形で戦うこと。舞台を整えることで、環境を利用してあらゆる詠唱を一斉に短縮するのだ。


 結果として、この場限りとは言え―――かつて彼が理想とした魔法剣士が出来上がった。


火矢(アロー)


 短縮詠唱一つで炎の壁から火で形成された矢が四方八方からカリーナに向けて発射される。彼女は水の壁を生み出し、それを相殺するが、ラドグリフは攻め手を緩めない。


槍よ(ランス)


 炎の壁から炎を呼び寄せ、大槍に形成、それを前方に向かって射出。その影に隠れるようにしてラドグリフは腰の剣を抜き放ち、カリーナに迫る。炎槍はカリーナが放った同じ炎槍に相殺されるが、視界が晴れる頃には大股で五足の距離まで肉薄していた。


 まだ足りない。後、最低でも二歩。


刃よ(ブレイド)!」


 弧月を象った炎がラドグリフの背後から飛び、やはりカリーナの黒禍風(ヘイロン)によって迎撃される。だが、三歩詰めた。剣の距離だ。ラドグリフは長剣を振りかぶる。武門の家柄としては有り得ないほど大上段。素人が力任せに振るうような、隙だらけの構え。


 だが、そこに疑問を思って即座に切り返せるほどカリーナは武術に特化していない。特化していれば僅かに身を捩るだけで躱せただろうが、魔術士の彼女では後方に飛ぶか、手にした錫杖で受け止めるかの二択。


 コンマを切る逡巡の後、カリーナは受け止めることを選んだ。


 いや、実際には一択だったのだ。魔術士相手に距離を取るのは愚策。ラドグリフは剣士であり、また魔術士であるのだから。ならば、一撃受け切って反撃(カウンター)に徹し攻守を切り替え、距離を離してこちらの手番(ターン)にする必要があると考えたのだ。


 彼女に誤算があるとすれば3つ。


 ラドグリフ自身、カリーナを正攻法では攻略し得ない遥か格上の相手だと認めていたこと、魔導士が取るであろう択を同じ魔導士の見地から熟知していたことと―――ラドグリフの魔法剣士としての有り様が、この世界の常識では推し量れないほど変革していたことか。


(剣の間合いでこんな魔術を使うなど、考えもしないだろうよ………!)


 振りかぶった剣を逆手に変える。突き立てる先はカリーナではない。彼女の足元。そして口ずさむ命令はただ一つ。


噴出せよ(ヴォルケーノ)………!」


 直後、彼等を包んでいた炎の壁が一瞬にして地面に吸われるようにして引っ込んだかと思えば、噴火のような勢いで突き立てられた剣先から空へと向かって爆炎が吹き上がった。




 ●




 予想外だった。まさか自爆にも等しい攻撃を用いてくるなど、カリーナとて読み切れなかった。


(あらあら、とんでもないわね。火炎魔人)


 吹き上がった爆風の影響で宙に投げ出されながら、しかし彼女は感心したように笑う。


 少々の火傷を負ったが、直後に水の膜を形成したお陰で行動に支障はない。


 カリーナが感嘆したのは相手の方だ。こんな手を使ったのにも驚いたが、ほとんど自爆のような手だったのにも関わらずラドグリフはマントで身を隠し熱波を防御、爆炎の余波も緻密な制御で回避している。尤も、そのマントも地竜の皮で出来たもので、その性能がなければ彼とてこんな手を使いはしなかっただろうが。


(ん、そろそろね)


 思いがけず空に投げ出されたお陰で、高所にて戦場と魂の流れが俯瞰できたカリーナは状況を把握する。元々彼女の役割は戦場を駆けて敵味方問わず一人でも多くの人間を死なせて、大深度地下にある祭壇へと魂を送ること。彼女だけに限らず、この件に関わっているデルガミリデ教団の信者達は自身の魂も勘定に含めている。


(なら、もう後を気にする必要はないわ。周りも巻き込みましょ)


 邪神を召喚し、この世界を滅ぼす。


 ただそれだけのために、今を生きている―――大迷惑な自殺志願者。世間の評価を客観的に見るのならば、きっとそうなるのだろう。だが世間の評価など興味はない。ただただ、この世界が憎いだけ。理由など、とっくの昔に忘れてしまったが。


「錆びついた神に、絶望の杭を打ち付けよ」


 ここに至って初めて、カリーナは祝詞のような一説を口にした。()()()()使()()()()()()()()()()()()()()


「世界を慟哭で染め上げ、生ある者に恩寵の忘却を」


 対価は魔力。そして寿命。


「―――我と共に死するは闇の使者」


 彼女の背後に人骨で形成された巨大で、歪な門が出現する。


地獄門(エスカトロジー)


 そして、その歪な門から―――悪魔の大軍勢が這い出てきた。

次回はまた明日。

そこで追いつく形ですかね。

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