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CASE:3 レイターの場合

ここで一旦三馬鹿の生育環境はお終い。次回から合流します。

 一人称『俺』の魂は、レイターに転生した。


 レオネスタ帝国の地方村の村長、ホウロウの次男坊である彼は若くして近接戦闘の天才であった―――というのが他者からの評価だ。実際には違う。


 ジオグリフやマリアーネと同じく、乳幼児期に魔力鍛錬に勤しんだ彼ではあるが、立って動けるようになって不満を覚えた。


「おっせぇ」


 何しろ身体の動きが鈍い。幼児なので筋力がろくすっぽないのだ。当然ではあるものの、それにしても思い通りに動かない。それが何よりも苦痛だった。前世はトラックドライバーであった彼は、スペックもそうだが何よりも操作性に拘る。思い通り、狙った通りに動かないのが気に入らないのだ。


 と言うか、車の運転は大型であれ乗用車であれ狙い通りに動かないと容易く事故る。


 だから不要なアシストはいらなかったし、それに頼る程度の低いドライバーに眉を顰めていた。プロだからとなんでも出来るわけではない。慣性や停止距離の関係上、危険を感じても即その場で止まれるはずもなく、だから運転中は常に予測する。職業ドライバーはそれを理解して気を遣って運転しているのに、それを底辺と見下す他の一般ドライバーはどうだ。同じ公道を使っているのに、スマホは使うわちょっとの隙間に強引に割り込むわ脇見はするわ煽るわ飲酒するわ無法状態ではないかと。


 楽をするな。集中しろ。予測しろ。車の流れに逆らうな。思った通りに車体を動かせるように練習しろ。その鉄の塊は制御を失えば容易く他者を殺せるものだと自覚しろ。それだけでだいぶ事故率下がると一種独善的な考えをする彼は、故にこそ自分の体が思い通りに動かないことに苛立った。


 この世界に自動車はない。


 だが、そこで培った身体であれ物であれ()()()()()という概念は彼に染み付いていた。だから色々考えた結果、彼は魔力を上手く使うことにした。身体に魔力を纏わせて、かつて見た映画にあったようなパワードスーツのように補助的な運用をしてみたのだ。


 結果、3歳児とは思えないほどの機動力を手に入れた。


 魔力をバネのようにして足裏に展開し解き放つと、20m程上空へと飛んだ。


 比喩でも揶揄でもない。冗談抜きで()()()()()。最初にやった時は死ぬかと思った。実際、近場に偶然にも杉の木がなければ、そしてとっさの判断で幹に蝉が如くしがみつかねば、そのまま落下死していた。子供の体だから1mぐらい飛べたら良いかな、と考えていたらこのザマである。危険予知(KY)が足りないと猛省した。


 だが、要点は理解した。後はこれを上手く使って思い通りに動かすだけだと練習を開始。6歳を数える頃には一人で森に入っては魔獣を狩って食卓に肉を提供していた。最初は渋っていた家族も、異常なまでの身体能力を誇るレイターを前に段々感覚が麻痺してきたのか、それとも提供される肉に味を占めたのか何も言わなくなった。レイターが生まれた村は今にも潰れそうな寒村ではないが、それでもそこまで裕福ではないのだ。子供でも使えるならば立派な労働力なのである。


 そんな頃、一人の老戦士が村を尋ねてきた。


 冒険者として長年各国を巡ってた狼獣人の男で、引退して終の棲家を探していたらしい。以前、依頼で立ち寄ったこの村が滅んだ故郷に似ているらしく、定住を希望してきた。村長であるレイターの父はこれを快く了承した。冒険者の知見は有用であるし、老いたとは言え戦闘能力も健在。何よりそれを他者に教えれるならば、村の防衛力に貢献も出来るだろうとの判断だ。


 レイターも歓迎した。それはもう熱烈に。その狼獣人がちょっと引くぐらい。レイターは男色ではない。男色ではないが―――。


(ケ・モ・ミ・ミ・キ・タ―――!!)


 ケモナーであったのだ。


 老いた男の獣人だ。その老獣人は見目麗しい訳では無いし、そもそも7歳であるレイターには性欲もまだ無い。あるのは前世から引き継いだ性癖だけだ。


 獣の耳と尻尾がついている。これはテンションが上がる。この世界には獣人がいる。それだけで胸が熱くなった。


 断っておくが本来、これはケモナーがはしゃぐような(ケモ)度ではない。人に耳と尻尾だけのオーソドックスなライトタイプ(ケモ度1)なのだ。ガチ勢からはライトケモナーめと失笑か叱責を受けるだろう。ケモナーを語るなら顔面からケモノであるケモ度2からにしろニワカがと。


 だがレイターはそれでもいいと思った。


 実際に耳と尻尾がついていて、それが作り物ではなく血が通っているのだ。動くのだ。ふさふさしているのだ。となれば感動せざるを得ない。興奮せざるを得ない。モフモフせざるを得ない。それにケモミミタイプがいるということは、もっとケモ度が高い存在もいるかもしれないということだ。いや、おそらくいる。ヨツケモレベルも十分ありえる。これは夢が広がりんぐ、と胸中で小躍りした。


 かくして煩悩まみれのケモナーは希望を持った。


 その日以降、レイターはその老人―――ガドについて回る。最初の頃はちょっと、いやかなりドン引きしていたガドも、見た目は子供のレイターのキラキラした瞳に絆されて相手をするようになる。決して本人が鼻息荒くやらせてくれと懇願したのでさせてみた尻尾のブラッシングが気持ちよかったからではない。


 その内に彼の魔力を用いた異常な身体能力に気づき、自身の経験を叩き込むようになって―――師弟関係となった。


 やがてモフモフパラダイスを作ることを目標にしたレイターは、獣人は強さこそ求められるので強いやつがモテると聞き、徹底的に身体を鍛えることにした。集めるモフモフにオスだろうがメスだろうが関係ない。群れのアルファになるためにはまず強くなるのだ、と。欲望全開の彼ではあるが、ある種執念のような行動に感心したガドは、自身が持つ戦闘技術を全てレイターに叩き込むことにした。


 筋力こそ全盛期よりだいぶ落ちているガドだが、その分技術は磨き続けたのだ。技の冴えはむしろ研ぎ澄まされている。金等級(上澄み)の冒険者、その技術全てを吸収するのにかかった時間は7年。これを長いと考えるか短いと考えるかは人による。


 レイターは長いと考え、ガドは短いと考えた。


「っし。じゃぁそろそろ約束を果たしに行くかね」


 レイターは武者修行をしてくる、と家族と師に告げて村を出た。餞別は家族から道中の食料とレイターが狩った魔獣の素材を換金した路銀。師であるガドからは、冒険者時代に使っていた遺物装具(アーティファクト)


「待ってろモフモフ………!!」


 そしてケモナーは、意気揚々と帝都へ向かって歩き始めた。

続きは明日投稿。

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