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CASE:1 ジオグリフの場合

ここから三話はそれぞれの生まれた環境や成長具合のお話です。

地の文少なめとか言いつつガッツリ書く詐欺仕様。

 一人称『私』の魂は、ジオグリフ・トライアードに転生した。


 レオネスタ帝国辺境伯、ラドクリフ・トライアードの三男として生まれた彼は、若くして魔導の天才であった―――というのが他者からの評価だ。無論、実際には違う。


 中級限定神リフィールに聞いた『あの世界の魔力は子供の頃から鍛えれば鍛えるほど強くなる』という言葉を実践したのである。生まれてすぐに魔力の流れを感覚で掴んだ彼は、どうせ乳幼児の頃は暇だろうと考えて鍛錬に没頭した。おそらくは筋肉のように破壊と再生を繰り返せば強くなるのだろうと当たりをつけ、ただただ愚直に。


 結果として、5歳を迎える頃には宮廷魔導師に匹敵する(バカ)魔力を手に入れていた。


 だが、彼はここで考える。


「………………………あれ?このまま行ったらお家騒動コース?」


 『私』―――いや、ジオグリフは辺境伯の三男。継承権はあるが、少々遠い。と言うか領地運営をしたくない。転生前はステラテジー系やシミュレーション系のゲームを程々に嗜む中年であった彼は、一瞬だけその気になって、しかし考え直したのだ。


 あれはゲームであり、市民は物を言わない。その癖ある程度の学はある設定で、メタ的にはシステムだから指示しただけで町は回るのだ。


 翻ってこの異世界はどうか。


 基本構造が中世だ。だから色々不満はあるが、それはまぁいい。だが彼が望む領地運営―――文明的で文化的な領地を作ろうとすると、まず人に教育を施さねばならない。読み書きは当然のこと、道徳や何から現代人に必要な全部をだ。それは流石に面倒くさい。


「現実はシ◯シティみたいには行かないよなぁ………。今の所、この国は戦争はしてないけれど、世界全体は信長の◯望シリーズみたいな乱世だし」


 そんな中で、超魔力を持った子供が生まれる。きっと将来は凄まじい戦力となるだろう。だけど三男。継承権が遠く、さりとて他家に出すよりは抱え込みたい。では一番強い柵は何かといえば、当然当主である。


 しかし、既に嫡男である長男がいる。年齢は10で、貴種を煮詰めた(サラブレッド)だけあって多方面に有能だ。両者を並べた時に、甲乙つけがたい。


 実際、父であるラドクリフは迷いを抱いている。貴族の世襲を慣習で考えれば長男に継がせるのが当然だ。だが、将来的な能力は間違いなく三男の方が上になる。領主としての能力は魔力や戦闘力で決まる訳では無いが、ここは辺境だ。帝国の端っこ―――畢竟、戦争が一番近い場所だ。実際に大戦とならなくても小競り合いはしょっちゅうある。


 そんな中で、大魔術士が領主になれば周辺国に睨みを効かせられるだろう。治安はぐっと良くなるはずだ。


 もしも長男が不出来ならば迷いなくその手を取っていたが、長男であるミドクリフも後継者として教育してきただけあって有能だ。天才とまでは行かないが、間違いなく同年代ではトップクラス。性格も年に似合わず落ち着いていて、それでいて他者を思いやる優しさを貴族らしくないが身に着けている。


「ミド兄様のことだから、多分反対しないんだよなぁ………」


 聡い長兄の事だ。多分そちらの方が家の為になると判断すれば、自身の派閥すら切り捨てるだろう。是が非でも支配者になりたいのならばこれ幸いとばかりにジオグリフもそれに乗っかる。


 だが。


「でも悪いけど、折角異世界転生したのだから私は自由に生きたいのさ。―――約束もあることだしね」


 かくしてジオグリフは自分が自由に生きるための行動選択をする。


 と言っても難しい話ではない。末弟らしい奔放さで長男と、ついでに次男との仲を良好にしたのである。元々そんなに反目し合ってはいなかったが、三兄弟として一部の隙も無いぐらいに関係を築かねばならなかった。家臣派閥に付け入られても困るからだ。


 その上で、ジオグリフは将来的には修行を兼ねて冒険者になりたいと言い出した。実際の目的は別にあるのだが、明確に後継者レースから降りる行動を取ったのだ。更には。


「この辺境は色々火種があるところですから、いつか領主になった兄上にも必ず危機がやってくるでしょう。その時に、颯爽と駆けつけ助けられるような大魔術士になっておきたいのですよ」


 などと健気な弟ムーブをしたものだからさぁ大変。パパは感銘を受け、ママは号泣し、兄上は感涙し、次兄は憧れを抱いた。以降、トライアード家はジオグリフに甘々になる。


 魔導書が欲しいと言えばパパとママが伝手をフル活用して方々から収集し、魔導具を作るのに素材が欲しいと言えば長兄と次兄が騎士団を率いて魔獣狩りに向かった。


 無論、ジオグリフも恩を受けるだけなのは気が引けるので色々とやった。


 領地運営の相談を父からされれば「そう言えば本で読みましたけれど」と前世知識を活用し、母やメイドに甘味という贈り物を欠かさず、兄には「戦いは数だよ兄貴!」と告げて将来的に領民数を増やす方策を渡し、道に迷う次兄を元がおっさんであることからさり気なく導を示す。


 結論から言って、ちょっとやり過ぎた。


 十年後、15歳の誕生日直前で帝都に向かって旅立とうとするジオグリフに家族総出で涙のお別れである。ママと兄弟二人は号泣して引き止め、普段は厳しいパパですら涙目である。


 そんな彼等を背に、ジオグリフは鼻歌交じりに旅立つ。


「さらばー故郷よー、たびだーつぼくはー、辺境ー三男ー―――………うーん、ヤ◯トは三文字だからジオグリフだと語呂が悪いな。愛称もジオの二文字だし」


 このとあるアニソンの替え歌や長兄に行った助言からも分かるように、この男―――SFオタである。


続きはまた明日。

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