第2話:大いなる森への旅(4)
地下三階も不思議な部屋だった。
天井は柔らかな魔法の光に満ちていた。
そして、大小いくつかの岩が置かれていたが、あまり自然な感じはしない。人工的な配置だ。
足元は砂地で、もうしわけ程度に雑草が生えていた。
「リーダー、どう見る?」ゼロワンはキュルルの意見を聞いてみた。
「どうやら、何かの飼育室のようですね」
すると、
「ゴーン ゴンゴンゴン ラホーイ」
という奇妙な鳴き声が部屋の中に響いた。
そして岩陰から、鼻先にトゲの生えた大蜥蜴が、ぬっと顔を出した。
筋骨隆々とした四本の足が、8メートルはあろうかという大きな図体を支えていた。
「…こ、これは『水晶宮のイグアノドン』!」
さすがのゼロワンも緊張していた。
「『水晶宮のイグアノドン』って何よ?」と、リンは疑問に思った。
ゼロワンの代わりにキュルルが説明を始めた。
「『水晶宮のイグアノドン』は、とある魔導士が古代の化石を発見したのですが、骨を間違って組み立ててしまったのです」
キュルルは説明を続けた。
「本来、イグアノドンはおとなしい草食恐竜なんですが…」
「ん、それ前にも同じような事を言われたなぁ?」
「今のアレは、もう恐竜ではなく『魔物』です!」
「水晶宮のイグアノドン」は「ラホーーーイ」と声をあげながら、ゆっくりと「紅の拳銃」一行の方に近づいてきた。
(前に戦ったステゴザウルスほど、スピードは無いのが救いか…)と、ゼロワンは相手をよく観察していた。
「どうせこいつを倒さなきゃ、冒険者として認められないんだろ?」
マキは覚悟を決めたようだ。
「じゃあリンさん、ちょっと試してみますか」
「わかったわ」
マキとリンの二人はそれぞれの剣を抜き、イグアノドンに襲いかかった!
「ラホーーーイ!」
「えっ!」
マキの剣は、イグアノドンの放った光のバリアーに弾き返された。
リンはもっと悲惨だった。
ぺきーーーん!
戦闘の最中に、またもやマヌケな音がした。
リンの どうのつるぎは おれてしまった。
「ええっ、また~!?」とリンは落胆した。
「物理でなく、魔法攻撃なら効くかも!」
キュルルは「氷のつぶて」の魔法で攻撃したが、これもバリアーにさえぎられ、イグアノドンのところにまでは届かなかった。
ゼロワンは疑問に思い、
「うん? キュルルは氷属性の魔法しか使えないのか」と聞いてみた。
キュルルは顔をしかめながら、
「最初に言ったでしょ。まだ『新米の魔法使い』だって!」と言い放った。
ゼロワンは(こりゃ戦力不足だな…)と痛感した。
そうこうしているうちに、イグアノドンが赤色の噴煙を口から吐きはじめた。
「まずい!毒ガスだ。みんな顔を布で覆え!」
「撤退しましょう!」リーダーはそう判断した。
「賛成だ」ゼロワンも同意した。
---またも地下二階
階段を上がると、あの大きなダブルベッドが置かれていたので、ゼロワンは一瞬「げっ!」と思ったが、表示板は「クリア済み」になっていた。
メガロドンが壊した壁も修復されていた。
どうやら伝説に聞く「ダンジョンの中のひと」がいるらしい。
「あ~~疲れた」とマキが言うと、四人ともベッドにゴロンと横になった。
「これ、寝心地いいなぁ」
「さてリーダー、どうするかね?」とゼロワンが聞くと、
「うーーん、打つ手が無いですねぇ」とキュルルも迷っていた。
「私ならイグアノドンを、空から攻めるね」
急にリンがまともなことを言い出したので、三人は少し驚いた。
「だってあのバリア、円環状で上はガラ空きだったよ?」
「そうか、二足歩行から四足歩行に移行したから、考え方も二次元的になってるんだ!」
キュルルはすぐ理解した。
「じゃあ、ジャンプしてあのバリアーを越えれば、攻撃できるってことだ」
マキはベッドから起き上がった。
「助走距離は2メートルってとこか。ちょっとキツイな」とマキは愚痴りながらも、
「キュルル、高さ3メートルのところに標的を出してくれ」と頼んだ。
キュルルはベッドから半身を起こし「標的」の魔法を使った。
すると地面から3メートルのところに、風船が出現した。
「ま、これくらいは楽勝だな」
マキはジャンプして、易々と風船を蹴りあげた。
「ようし、次は高さ5メートルだ。キュルル、頼む」
キュルルは2度めの「標的」を唱えた。
「さぁてと…」
マキはわずかな助走距離で、風船をキックしようとした。
だが、あとわずかなところで風船にマキの足は当たらず、空中でバランスを崩してしまった。
「おっとっと」
「あぶないっ!」
マキがコンクリートの床に転落すると思ったリンは、思わずそう叫んだ。
しかしマキは、なんなく受け身を取って、すぐにまた立ち上がった。
「へへっ、失敗失敗」マキは笑いながらそう言った。
(ほう、この娘は格闘技の基礎も修得済みなのだな)ゼロワンは感心した。
「それじゃあ、もういっちょう」
マキは再び、風船蹴りにチャレンジした。
今度は風船が「パンッ!」という音を立ててはじけた。
「もんだどんだい。これぞ名付けて『流星キック』!」
「よし、これで攻略の目星がついたわね」
キュルルは三人に言った。
「えー、じゃあ四人で手を合わせて、気合入れるの、やる?」
「それはいいな」
いつも一人で戦っていたゼロワンは、パーティー戦の楽しみを初めて知った。
まず、キュルルが手を伸ばし、リン、マキ、ゼロワンの順で手を重ねた。
「紅の拳銃、ファイヤー!」
「ファイヤーーー!」
四人の士気が高まった。
---ふたたび地下三階
「ゴーン ゴンゴンゴン ラホーイ」
「水晶宮のイグアノドン」はまだそこにいた。
四人をザコだと思い、待ち構えていたのだ。
マキは準備運動を始め、キュルルはバリアー解除後の魔法攻撃に備えていた。
「わ、私はどうすればいい?」
どうのつるぎを無くしたリンは、手持ち無沙汰状態だった。
「なんでもいい! 踊りでも朗読でもやって、とにかくヤツの注意をそらせ!」とゼロワンは指示した。
♪ゆっかいなおどりがはじ…
「おどらないわよ!」リンは誰にともなくそう言った。
「行くぜぃ、流星キッーーーク!」
マキはそういうと、見事な跳躍力をみせ、イグアノドンの顔面にキックが命中した。
予想外の攻撃にイグアノドンは驚き、バリアーを解いてしまった。
「よし、行くぞ!」
ゼロワンは稲葉ジャンプをトントンと二回繰り返し、三回めの跳躍からのクロスチョップをかけた!
「ブラストエンド!」
強烈な電撃と衝撃波が、イグアノドンの全身を内部から焼きつくした。
こうして戦いは「紅の拳銃」の勝利に終わった。
「あれ、爆発しないね。また手加減したの?」と、リンは不思議に思った。
「ああ、あの娘らにトロフィーを持たせてやろうと思ってな」
ゼロワンは、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
----カラヅカ
「あわわわわ…」
門の衛兵たちは驚きのあまり、チェックすることも忘れ、四人を素通りさせた。
キュルルが浮遊魔法で「水晶宮のイグアノドン」の首を浮かせて、運んできたからだ。
マキが日本刀を使って、胴体から切り取った代物である。
内部から焼かれているので、死臭も無い。
もちろん、ゼロワンとリンは人間の恰好に戻っていた。
----そしてギルド本部。
「ほら、これでいいんだろ?」と、ゼロワンは木札を渡そうとしだが、受付のおねいさんはそれには目もくれず、カウンターを乗り越え、キュルルの荷物に近づいた。
「こっ、これは『水晶宮のイグアノドン』!」
「へへー、俺の『流星キック』でやっつけたんだぜ」とマキは自慢した。
キュルルは受付嬢に尋ねた。
「でも、初心者向けのダンジョンって言ってたのに、ラスボスがこれって、ちょっとキツくないですか?」
「おかしいですねぇ。『ダコバの洞窟』は被験者のレベルに応じて、難易度が変わる魔法がかけられているんですが…」
その言葉を聞いたとたん、三人はいっせいにゼロワンを指さし、
「お前か~~~~~~っ!」と叫んだ。
その時である!
べこべこに凹んだ鎧を身に付けた、一人の戦士がギルドに駆け込んで来た。
そして大声でこう叫んだ。
「ドラゴンだ!ドラゴンが出た!」
「それも『三つ首のドラゴン』だ!」
更新が遅くなってごめんなさい。
第2話はこれで終了です。
次の第3話は、ゼロワンとリンがタイムトラベルで恐竜の時代に行きます。
(このお話、恐竜が多いな…)