第2話:大いなる森への旅(3)
----奇妙な部屋だった。
地下二階は、王宮の大広間ほどの大きさで、天井も壁も床もコンクリートで覆われていた。
そして、なぜか中央に豪華なダブルベッドがドンと置かれていた。
経験豊富なゼロワンも、さすがにこんな部屋を見たのは初めてだった。
「紅の拳銃」の一行が中に進むと、入って来たトビラがピシャリと閉められた。
「閉じ込められた?」と言って、マキが後ろへ振り向くと、トビラの上に表示板と警告灯を見つけた。
「この部屋のクリア条件を発表します」
明らかに人工音声と思われる、事務的なアナウンスが流れた。
チーキュの鉄道案内によく使われる、反転フラップ式の表示板がパタパタと音を立てて切り替わると、そこにはこう掲示された。
「セックスしないと出られない部屋」
「なにーーーっ!」四人は同時に叫んだ。
「話には聞いていたが、まさか本当にあったとは…」ゼロワンでさえ驚いた。
そのためのダブルベッドだったのだ。
「…それでは」キュルルが少し遠慮しながら、こう言い始めた。
「ゼロワンさんとリンさんでお願いします。私たちは後ろを向いて、耳もふさいでますから」
「ざーーんねんね! 冒険はこれで、お・し・ま・い」と、なぜかリンが勝ち誇ったように言った。
「この人は獣人だから、発情期にならないと勃たないのよ~」
「むむっ…!」ゼロワンは何か侮辱された気がしたので、リンを睨み付けた。
その一瞬の隙を逃さず、キュルルはゼロワンに魔法を放った。
「魅了!」
ゼロワンは正気を失った。
「ななな、何を考えてるのよ、キュルル?」リンはうろたえた。
キュルルは冷静に答えた。
「…リンさんとマキが見ているところでするのは、ちょっと恥ずかしいですけど」
「リーダーの責任として、私がゼロワンさんに抱かれます」
「ええーーーっ!」リンとマキは動揺した。
キュルルはためらうこと無く、服を脱ぎはじめた。
その裸身は、まだ華奢で未成熟だったが、将来的には期待できそうな、綺麗なボディラインをしていた。
「さ、行きましょ」キュルルはまだ朦朧としているゼロワンの手を引いて、ベッドの方に向かった。
「おいおいおいおいおい!」
「やめてやめてやめてやめてやめて!」
その時、警告灯が点滅し、またアナウンスが流れた。
「被験者の中に未成年者がいることが判明したので、クリア条件を変更します」
そして、反転フラップ式の表示板がパタパタと音を立てて切り替わった。
「サメを退治するまで出られない部屋」
それを見たキュルルが「ちっ!」と舌打ちしたのを、マキは聞き逃さなかった。
ダブルベッドは機械音を立てながら床下の奈落へと沈んでいき、左右から金属製の蓋が閉められた。
ベッドの収納が終わると、天井角にある注水口が開き、オレンジ色の液体が勢いよく部屋に注ぎこまれた。
「おいおい、今度は水責めか?」
液体は早くもマキの膝元まで溜まってきた。
その時、やっと正気に戻ったゼロワンは液体を手にすくってみて、三人にこう告げた。
「これは『L.C.L.』だ。肺が『L.C.L.』で満たされれば、 直接血液に酸素を取り込んでくれる」
マキとキュルルはすぐ対応できたが、リンはいつまでも「げほっげほっ」と苦し気に咳き込んでいた。
「すぐに慣れるはずなんだが…」
ゼロワンは「ほれっ」と言いながら、何度かリンの背中を叩いてやった。
「これでどうだ?」
「うう…。なんとか」
そうこうしているうちに天井までオレンジ色の水が溜まり、反対側の入り口が開き、L.C.L.のプールの中に次々とサメが侵入してきた。
まずは先兵となるヨゴレザメ。
気性の荒いオオメジロザメ。
独特の頭部を持つシュモクザメ。
巨体を誇るイタチザメ。
そして人食いザメの王者・ホホジロザメだ!
まさに鮫!鮫!鮫!
「さぁて、ここからは俺の出番だな!」
マキは背中の日本刀を引き抜くと、神速無敵の早さでサメを次々と切り捨てていった。
サメたちはマキに食らいつこうとしたが、彼女の機敏さについていけず、まさに無双状態となった。
「マキ、そんなことをしたら血煙で前が見づらくな…」
ゼロワンはそう言いかけたが、L.C.L.がサメの血を吸収していた。
(なるほど。被験者のことを考慮しているのだな)と、ゼロワンは思った。
「加勢しないの?」とリンは尋ねたが、
ゼロワンはマキの戦いぶりに呆れつつ「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」と答えた。
マキはホホジロザメの首をあっさりと切断すると、
「どうしたどうした!これで終わりってことは無いよなぁ?」と煽った。
すると扉の奥から「グララアガア、グララアガア」という声が響いてきた。
「大ボス様のお出ましだな…」マキは戦いの緊張感に酔いしれていた。
窮屈そうに扉から頭を出したのは…。
「メガロドン」だ!
この世界の最大の鮫。
いや、鮫と言うより、もはや魔物に近い。
マキは「へへん。デカすぎて詰まっちまったのかよ」と不適な笑みを浮かべたが、
「マキ!いったん戻れ。そいつは手ごわいぞ!」とゼロワンは警告した。
メガドロンは「グララアガア」と声を上げ、口を開いた。
その口の大きさは2メートル以上あり、マキの身長をはるかに越えていた。
ぱくっ!
「えっ?」三人とも一瞬の出来事に、思考停止してしまった。
メガロドンがマキを丸呑みにしたのだ。
「いやあああああああああ!」キュルルは悲鳴を上げた。
「マキィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
しかし、今度はメガドロンの方に変化があらわれた。
「グワア グワア グワア グワア」と鳴きながら、苦し気にのたうち回った。
部屋の壁も崩れはじめた。
メガドロンが動きを止めると、ザシュウッ!と内部から腹が破れる音がした。
そこからゆっくりとマキが姿を表し、
「見たか、これが『サメの腹破り』でいっ!」と、得意げに言った。
「だけど、ドロドロになっちまったな」
しかし、マキの身体に付いたメガドロンの体液や血は、急速にL.C.L.が吸い取ってくれた。
「このオレンジ色の水、便利だな!」
メガドロンが壁を壊したせいもあって、L.C.L.の排水は早かった。
「げほっ、げほげほ」
リンはL.C.L.を吐き出すのに苦労していた。
最後まで馴染めなかったようだ。
「マキィィィィィィィィィィィ!」
キュルルはマキに抱きついた。
「心配したんだから、心配したんだからぁ」
「もう無茶はしないでよね」キュルルは涙を浮かべていた。
「わかったわかった。そんなに泣くなよ」
「あー、リーダー、感動の再会のところ済まないんだが」
ゼロワンは二人に近づくとこう言った。
「はい?」
「そろそろ、服を着てくれないか?」
その時、キュルルは初めて自分が全裸のままだったことを思いだした。
「わっ、はい」
さすがのキュルルも赤面していた。
「ちょっと待ってください。すぐに身支度を整えます!」