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モモンガー01  作者: 眠田 直
4/10

第1話:ファーポイントでの遭遇(4)

------翌朝。


 リンは「激おこぷんぷん丸」状態になっていた。

 ゼロワンを恨みがましい目でみつめ「とっても痛かったんだからぁ」と非難した。


 「すまん」と、ゼロワンは謝罪したが、リンの怒りは収まらず、

 「あなたねぇ、エルフ女性の、それもこーーんなに美少女の『水揚げ料』がいくらになるか知ってる?」と問い詰めた。

 「いや、そういう方面には疎くてな…」

 「相場は12万ボルってとこね。払える?」

 12万ボルは日本円に換算すると約3000万円になる。

 「さすがにそんな大金は持ってないぞ」


 リンはさっきまでの怒りの表情とは違って、小狡い顔になり、

 「じゃああなた、私の用心棒にならない?」と話を持ち掛けた。

 「昨日の戦いぶりも凄かったし、あなたかなり強いんでしょ?」

 「まぁな」

 「私はね、伝説の秘宝『ダモクレスの剣』を探す旅をしているの。神の守護に守られた、真の王者の剣よ」


 ゼロワンは(あー「ダモクレスの剣」ってそういう物じゃ無いんだけどな)と、すぐに気づいたが(まぁ女の子の夢を壊すのも悪いし)と思い、黙っておく事にした。


 「でね、あなたみたいな強いボディーガードがいると、助かっちゃうんだけどな~」

 「うーーん」

 ゼロワンはあまり乗り気にはなれなかった。

 「自分で『風来坊』って言ってたし、どうせヒマなんでしょ?」

 「まぁ、俺の信じる神様から『魔王が復活したら、全身全霊を持って打ち倒すように』とは言われてるんだが、今のところその兆候も無いしなぁ…」

 「じゃあ決まりね、用心棒さん!」

 リンは勝手に決定した。

 「…いや、ちょっと待ってくれよ」

 「12万ボル!」

 「うっ!」

 「12万ボル!!」

 「わかった、俺の負けだ。お前の旅に付き合うよ」


 この時、ゼロワンは安請け合いしてしまった事を、後で後悔する破目になるのだが…。


 「じゃあ、長い長い旅に出るか」とゼロワンは諦めた様に言って、慣れた手つきでテントや焚き火台をトランクに押し込んだ。

 リンは便乗して、自分の荷物も入れてもらった。剣だけは大切に手元に持っていたが。

 「さてとお嬢さん、どこへ行く?」と、ゼロワンはそう言いながらバイクにまたがった。

 「うーーん。『ダモクレスの剣』については、実はまだわからない事の方が多いのよね」とリンは側車から答えた。

 「そういう時は、まずは情報収集だな」

 「セオリーとしては大きな街へ行くのがいいんだが、ここから一番近いのは『カラヅカ』だな」

 「じゃあ、そこに行きましょ!」

 リンは「エルフの里」しか知らなかったので「街に行く」というのはちょっと憧れだった。

 ゼロワンは少し複雑な表情をしたが、「わかった」と、一言言って、アルカディア号のアクセルを回した。

 昨日よりもスピードは早めだ。


 草原からしばらく行くと、舗装はやや崩れていたが街道があり、ゼロワンはその道なりに進んだ。

 風がリンの髪を乱し、アルカディア号が街道を駆け抜けると、リンの心は高鳴っていた。

 彼女は手を風に広げ、指先で風をなぞり、ドライブを楽しんでいた。

 自由の魔法に触れているかのようだった。

 「ねぇゼロワン、サイドカーの旅って楽しいのね」とリンは少し興奮しながらゼロワンにそう言った。

 「そうだな。風に吹かれて、未知の地を旅するのは最高だ」

 リンは風に髪をなびかせながら、満面の笑顔を返した。

 「うん、楽しい!」


 ここでゼロワンはハンドルを右に切り、街道から草原に入った。

 リンは驚いて尋ねた。

 「えっ、なんで草原に来ちゃたの?」

 「ショートカットだ。この草原を抜けた方が『カラヅカ』に近い」

 「なんかガタガタ揺れるんですけどー?」とリンは不安になった。

 「心配するな。アルカディア号はオフロード仕様だ」


 しかしリンは、エルフの知覚で前方に何か巨大な動物がいることを察知した。

 「ゼロワン、何かいるよ!」と言って、リンは前方を指さした。

 ゼロワンもそれに気づいてエンジンを止めた。


 信じられないような光景だった。

 全長は約8メートルほどの、大きな怪物がもぐもぐと辺りの草を食んでいた。

 背中には大きな骨質の板が、互い違いに立ち並んでおり、そして尾の先には、2対の長大なスパイク「サゴマイザー」が生えていた。


 「…ダ、ダイドロア」ゼロワンは驚愕した。

 「あれ、何。やっぱり魔物?」とリンは尋ねた。

 「魔物じゃない。あれは『恐竜』と言ってな、大むかしに滅びた動物だよ」

 「へえー」

 「正式な名前は『ステゴザウルス』と言う。まさかこんなところに生き残りがいたとは…」

 「あれ、襲ってきたりしないよね?」とリンは不安そうに言った。

 「おとなしい草食恐竜と言われているんだが…」ゼロワンも自信無さげに答えた。


 どうやらステゴザウルスの方もゼロワンたちを認識したようだ。

 ステゴザウルスは穏やかな草食動物とは思えないほどに、目つきが鋭く、興奮状態にあるようだった。


 ステゴザウルスはふいにゼロワンたちに向かって突進してきた。

 その巨大な体躯からは想像できないほどのスピードだ。

 恐竜の重さは地面を揺さぶり、足元からは土煙が立ちのぼっていた。


 「まずい!」


 ゼロワンはアルカディア号を急発進させ、右に旋回しようとしたのだが、時すでに遅く、サイドカーはステゴザウルスの体当たりをもろに食らった。


 どどーーん!


 アルカディア号は派手に横転し、ゼロワンとリンも席から投げ出された。

 ステゴザウルスは最初の一撃に満足したようで、少し警戒してサイドカーから距離をとった。


 ゼロワンはすぐに飛び起きると、アルカディア号の元に行き、その怪力でサイドカーを元の状態にひっくり返した。


 「鑑定(アッシャシメント)!」


 「よし、アルカディア号に損傷無し!」

 ゼロワンは安心して一息入れた。


 その時「あのねーー!」とリンの声がした。

 リンは吹き飛ばされた繁みから、体中に葉っぱを付けた状態でゼロワンの方に歩み寄った。

 「こういう場合、機械より女の子の方を心配するべきでしょ!」と怒鳴った。

 「今は非常事態だ。話は後で聞く」とゼロワンはリンの怒りをかわした。


 ゼロワンは右手を空に上げ「障壁(バリアー)」と叫んだ。


 ステゴザウルスはその行為を不思議そうに見ていたが、怒りに満ちた眼差しでゼロワンたちを睨みつけ、再び突進した。


 「!?」


 見えない壁に突進は阻まれた。

 ステゴザウルスの脳では、障壁(バリアー)は理解できないようだ。

 そのため、何度も壁に頭を叩きつけていた。


 「よしっ!」ゼロワンはそう言うと、アルガディア号のトランクを開け、先端部に円柱状の鈍器が付いた棒と、ヘルメットを取り出した。


 「それは何?」リンは不思議そうに聞いた。

 「アンボー術の装備だ」とゼロワンは答えた。

 「アンボー術? 聞いた事無いけど…」

 「まぁそうだろう。獣人族の古武術なんだが、今ではこれを使えるのは親父と俺くらいだからな」

 「へええ…」リンは(この人、謎が多いなぁ)とあらためて思った。


 一方、ステゴザウルスもさすがに戦法を変え、今度は尻尾のサゴマイザーを「見えない壁」に繰り返し打ち付けた。

 すると「ピシッ」という音がして、見えない壁にガラスのようなヒビが入った。


 「えっ、ヤバいんじゃないのコレ!」リンはおののいた。

 「そう心配するな。この『障壁(バリアー)』は、どうせ短時間しか持たん。時間稼ぎに使っただけだ」ゼロワンは落ち着きはらっていた。


 「障壁解除(バリアーキャンセル)!」


 「さて、久しぶりに一丁やってみるか」と言って、ゼロワンはヘルメットの金属製バイザーを下ろした。

 「えっ、それじゃ前が見えないんじゃない?」

 「実はな、エルフや人間に比べて、俺たち獣人は視力が弱い」

 「そーだったの?」

 「だから、聴力と嗅覚、そして相手の気配を感じられれば、機敏に戦える」

 「ほへーー」リンには驚くことばかりだ。


 「さーて、行くぞ恐竜さん」


 ステゴザウルスとゼロワンの戦いが始まった。

 ステゴザウルスはその巨体からは信じられない機敏さで、ゼロワンの棒術をかわしていた。

 一方、ステゴザウルスのサゴマイザー攻撃も、ゼロワンは余裕でよけていた。


 そんな攻防を繰り返すうち、

 「これではあまりに長期戦になるな」とゼロワンは考えていた。

 「何かもっと良い手は…」

 ゼロワンは閃いた!

 「そうだ、確かステゴザウルスは腰に『第2の脳』を持っていて、それで身体の動きをコントロールしてるんだ!『第2の脳』さえ潰せば!」


 ゼロワンはバイザーを上げ、リンに怒鳴った。

 「リン、ステゴザウルスの脚の付け根を剣で突き刺せ!そこが奴の弱点だ!」

 「わかったわ!」

 リンは初めての戦闘に緊張していたが、すらりと愛刀を抜き、ゼロワンがステゴザウルスを引き付けてる間に、脚の付け根に剣を突き立てようとした。


 ぺきーーーん!


 激闘の最中に、なんかマヌケな音がした。

 リンの剣は、ステゴザウルスの厚い皮膚に阻まれ、折れてしまったのだ。


 「とんだなまくらだな」ゼロワンは呆れた。

 …が、すぐに気持ちを切り替え、「リン、トランクに入ってる適当な剣を使え!」と指示した。

 リンはあわててトランクを探った。

 「えー、適当な剣、適当な剣と…」

 リンは「フランベルジュ」を引き当てた。

 波打つような刀身を持った大剣だ。

 「うう。確かに適当な剣だわ」

 ちなみにフランベルジュで斬られると、普通の剣より痛いらしい。


 リンは勇気を出して、再度チャレンジした。

 フランベルジュは、ずぶずぶとステゴザウルスの体内に入っていった。

 ステゴザウルスは大きな悲鳴を上げ、その場に突っ伏した。

 「やったか!」ゼロワンは勝利を確信した。


 しかし、ステゴザウルスにはまだ最後の攻撃手段が残されていた。

 ガン!ガン!ガン!ガン!と、背中の骨質の板がせりあがっていき、紫色に輝きはじめた。


 「紫色の光? まさか『ヒヒイロカネ』か!」

 ゼロワンは珍しく焦りの表情を見せた。


 ステゴザウルスは苦悶の表情を浮かべつつ、口を開いた。

 そして紫色の激ヤバ光線を吐いた。


 「危ないっ!」

 ゼロワンはリンを抱えて伏せた。

 光線はあたりの木や草を、一瞬で消滅させた。


 「火!火力まであるのか!?」とゼロワンは驚いた。

 そして起き上がりながら「…捕獲は無理だな」と呟いた。

 「えっ?生け捕りにするつもりだったの??」とリンは逆に驚いた。

 「当たり前だ。希少物質を背負った、超貴重動物だぞ」


 しかし、そんな悠長な事を言っている暇は無かった。ステゴザウルスが2度目の光線発射体制に入ったからだ。

 ゼロワンはリンに叫んだ「ブラストエンドを使うぞ。奴の口を封じてくれ!」

 「待ってよ、そんなの非力なエルフには無理よぉ」リンはたじろいだ。

 「『ゴリラテープ』を使うんだ。トランクに入ってる」


 リンはトランクから、黒く巻かれた「ゴリラテープ」を取り出した。

 しかしこの世界(ガロンドン・コア)には、粘着テープという物が無かったので、リンは少しとまどった。

 「急げ!」ゼロワンは大声を出した。


 リンは「ええい、ままよ」と言って、恐竜に近づき、稚拙ながらステゴザウルスの顔をゴリラテープでグルグル巻きにした。

 「よくやった。離れてろ!」


 ゼロワンは稲葉ジャンプをトントンと二回繰り返し、三回めの跳躍からのクロスチョップをかけた!

 「ブラストエンド!」

 強烈な電撃と衝撃波が、ステゴザウルスの全身を内部から焼きつくした。

 ステゴザウルスは頭部をゴリラテープに巻かれていたので、断末魔の叫びを上げる事も叶わず、静かに絶命した。


 リンは不思議に思った。

 「あれ? オークの時みたいに爆発しないね」

 ゼロワンは「ブラストエンドの威力を4分の3にとどめておいた。バラバラにすると、回収が難しくなるからな」と、こともなげに答えた。

 「そんな微調整までできるの?」

 リンはあらためて、ゼロワンの凄さを知った。


 そしてゼロワンは、怪力でステゴザウルスの死体を持ち上げた。

 「持ってくの、それ!?」とリンは驚いた。

 「ああ『ステゴザウルス』も『ヒヒイロカネ』も滅多に手に入らない貴重なお宝だからな」

 ゼロワンはトランクにステゴザウルスの頭を突っ込んだ。

 ステゴザウルスの身体は、そのままするするとトランクに吸い込まれていき、リンの「大きさの概念」がまた揺らいだ。


 ゼロワンは「いやー、化石からではわからんもんだなぁ~」と一息付いた。


 (いや、わからないのはあなたの方よ)と、リンは心の中でつぶやいた。


ツイッターから来た皆さん、いらっしゃいませ。

今回は、ありきたりのモンスターではつまらないと思ったので、恐竜を出しました。

中学生の頃に読んだ、エドガー・ライス・バロ-ズの「地底世界ペルシダー」の影響ですね。

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