表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モモンガー01  作者: 眠田 直
3/10

第1話:ファーポイントでの遭遇(3)

 「…ん? 何かいい匂いがする」

 リンが目覚めたのはもう夕方だった。


 ゼロワンは焚き火台に飯盒を乗せ、何か料理を作っていた

 「やっとお目覚めか」

 そして苦笑しながら、

 「特殊耐熱透明ジェル、効かなかったな」と言った。

 リンは愕然とした。

 「えーーっ、これ1200ボルもしたのにいぃぃ」

 ボルとはこの世界(ガロンドン・コア)の通貨で、日本円にすると30万円ほどになる。

 「そりゃ、悪い道具屋に騙されたんだよ」

 「ううううう」とリンは泣きそびれた。


 ゼロワンはリンを励ますように「まぁそう気を落とすな。それより夕飯ができたぞ。一緒に食わないか」と誘った。

 「何を作ったの?」

 「ジャガイモと肉を煮付けた『肉じゃが』という料理だ。レシピはニッポンポンの物だ」

 「ジャ、ジャガイモ!?」

 ゼロワンはリンの反応を変に思った。

 「どうした? ジャガイモは嫌いか」

 リンはこう答えた。

 「ジャガイモを食べる時には『ジャガイモ警察』に気をつけないといけないの」

 「なんだそりゃ?」

 「この世界(ガロンドン・コア)にジャガイモが存在するのはおかしいって主張する連中よ」

 「それは面倒くさい感じだな。まぁ食え」

 そう言ってゼロワンは、アルマイトの皿に入った肉じゃがと、箸を渡した。

 「これは…、チョップスティック?」

 「…ん? フォークの方が良かったか」

 「ううん、お箸もちゃんと使えるよ」

 リンは器用に箸を使って、料理を口に運んだ。

 「んん~、おいしい。この味付けはどうやってるの?」

 「ニッポンポンの『ソイソース』という調味料だ」

 「この細い麺は?」

 「『糸こんにゃく』という物だ」


 夕食を共にし、二人はだいぶ打ち解けてきたようだ。


 「ゼロワンは、いつもこういう物を食べてるの?」

 ゼロワンは説明した。

 「俺はモモンガの獣人だから、本来は木の実やドングリを食べるのだ」

 「しかしこの図体では、木の実じゃ足らない。だからいろいろ食っているぞ」

 ゼロワンもリンに聞き返した。

 「お前はエルフだから、菜食主義じゃないのか?」

 「それは誤解。弓矢で狩りもするから、お肉も食べるよ」


 焚き火も燃え尽きようとしていた。

 「さて、最後にトウモロコシの炒め物もあるぞ」

 「トウモロコシね」

 「ああ、トウモロコシだ。『トウモロコシ警察』も来るのか?」

 「あー、そっちは規模が小さいから、気にしなくていいわ」


 そして、焚き火が消えた。

 「火事になるとマズいからな」とゼロワンは泉の水を汲み、それを焚き火跡に丹念にかけた。


 「夜も更けてきたし、そろそろ寝るか」と言って、ゼロワンはテントに入った。

 しかし、なぜかリンはテントの中に入らず、その場でもじもじしていた。


 リンは困り顔で話し出した。

 「…あの、助けてもらった恩はあるんだけど」

 「私 今70歳なの」

 …そうか。エルフは長命種だからな。とゼロワンは思った。

 「つまり、お年頃なわけ。だから、男性と同衾するのはちょっと…」

 「あーーはっはっは」

 ゼロワンは大爆笑した。

 「な、何が可笑しいのよ? 私は真剣なのよ!」

 リンは怒った。

 逆にゼロワンは穏やかに語りかけた。

 「お前はイヌやネコに欲情するか?」

 「しないわよ!変態じゃあるまいし」

 「それと同じことだ」

 「…あ」リンは理解した。

 「獣人とエルフじゃ、そのくらい種族が違うってことさ」


 そしてリンは安心してテントに入った。

 コンパクトだが、柔らかそうな寝具が二組置いてあった。

 「あ、ふわふわだー」とリンは喜んだ。


 横で寝ているゼロワンは、胸元からスキットルを取り出し、何か飲みはじめた。

 「何を飲んでるの?」

 「これはカーデシアのカナール酒だ。クセが強いから他人には薦めんが…」

 「俺はいつも、こいつを飲んでから寝ることにしている」

 「じゃ、お休み」

 「ええ、お休みなさい」


------1時間後


 リンは「ムクッ」と起き上がった。

 その目はギラリと光っていた。


 そしてゼロワンが完全に寝入っているのを確認し、音をたてないように慎重に近づいた。

 「最初に会った時から、気になってたんだよねー」

 リンはゼロワンのナイトウェアのボタンを、静かにはずした。

 ゼロワンの胸の毛皮が露わになった。

 「わぁ、やっぱりふわふわだー」

 リンは毛皮をそっとなでた。彼女の手に心地よい感触が広がった。


 初めはなでるだけのつもりだったのだが、次第にその行為はエスカレートしてしまった。

 リンはゼロワンの毛皮に顔を埋め、もふもふを楽しんだ。

 「うーふふふ。これは最高ですなぁ」

 ついには即興の歌まで唄いはじめた。


 ♪ふわっふわっのもーふもふ

  ふわっふわっのもーふもふ


 さすがにゼロワンも目を開いた。

 「ん、なんだぁ?」

 …げっ、起こしてしまった!


 「あんな事言ってたが、本当は俺に抱かれたかったのか?」

 …う、酔ってる上に寝ぼけてる。


 「じゃあ、なんで俺の服を脱がせたんだ?」

 …まずい。リンはあわあわしながら釈明した。

 「ち、ちがうの! これはふわふわのもふもふだったのでーー!」


 …ヤバい、このままじゃ!


 そしてテントの中でドタバタしているうちに、リンの上にゼロワンがのしかかる体勢になってしまった。

 …お、重い。逃げられない!


 「そう暴れるなって」

 …ちがーう、そうじゃないのー!


 ゼロワンがズボンを脱ぐ衣擦れ音がした。

 …待って! まだ濡れてない濡れてない!


 「!!」


 挿絵(By みてみん)


 こうして深夜のタルホの森に、色気もクソも無いリンの嬌声が響きわたった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ