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モモンガー01  作者: 眠田 直
2/10

第1話:ファーポイントでの遭遇(2)

 「わあっ!」

 リンは思わず声をあげた。

 森が開けた空地に、緑の天然芝が地面を覆っていた。

 中央には泉が湧き出していて、その水は小川に繋がっていた

 「素敵なところね」

 「ああ、俺のような風来坊は、こういう秘密の場所をいくつか知ってるものだ」

 ゼロワンは続けて、

 「泉が瘴気を払うので、ここには魔物は出ない」と付け加えた。

 「それって最高ね!」リンは満面の笑みを浮かべた。


 「今日はここで野営しよう」と言って、ゼロワンはダブルマシンの小さなトランクから、その中には入りきれないような、大きなキャリーバッグを取り出した。

 「えっ?」

 リンの「大きさの概念」が少し揺らいだ。

 ゼロワンはキャリーバックからテントを出して組み立て始めた。手慣れた様子でペグを打ち、上部にフライシートを取り付けた。

 「あ、私も手伝い…」とリンが言い終わる前に、テントは完成してしまった。

 ゼロワンはリンに説明した。

 「これは『ポップアップテント』と言ってな、傘の原理を応用してるから、設営が簡単なんだ」

 「ほへー」リンは驚いた。

 「チーキュのアウトドア用品は、優れたものが多いから、かなり色々と買いこんできた」


 リンは疑問に思った。

 「でもなんでこんな大きい物が、サイドカーのトランクに入ってたの?」

 「あ!ひょっとして魔法箱(マジックボックス)

 ゼロワンはこう答えた。

 「いや、ここは『四次元ポケット』になっていてな、魔法箱(マジックボックス)よりずっと大量の物が入る」

 「へえええ~」

 リンはトランクの中を覗きこんだ。

 暗闇の中には、リンの知らない道具がいくつも、キラキラと輝きながら浮かんでいた。

 「それはニッポンポンに住む、青い猫型ロボットからスペアを譲ってもらってな」

 「苦労したんだぞ。ご機嫌とりに老舗のドラ焼きを贈ったりしてな」

 ゼロワンは愚痴をこぼしたが、リンは中を見るのに夢中で聞いていなかった。


 その様子を見たゼロワンは、

 「覗くのはかまわんが、絶対にその中に落ちるなよ」と警告した。

 「なんで?」

 ゼロワンは語り始めた。

 「四次元空間では、時間の感覚が違う」

 「前にそこに落ちた男がいて、10分くらいで救出したんだが…」

 「その男の中では1万年経っていた」

 「結局、そいつは廃人になった」

 「ひええ」

 リンはあわててトランクから顔を離した。


 「それにしても…」

 リンはサイドカーをしげしげと観察し、側面の黒と白のマークを見つけた。

 「これはなんのマーク? あなたの家の家紋かしら」

 「モモンガの頭骨だ。人間たちの言う髑髏の様なものだ」

 ゼロワンは由来を語った。

 「俺のおやじは冒険家でな、『わが青春のアルカディア号』という帆船でいくつもの島を見つけたものだ」」

 「最後に『西の大陸を発見する』と言って出港した」

 ゼロワンは少ししんみりとした表情を浮かべた。

 「そして20年経っても戻って来なかった。もうおやじと会うことは無いだろう」

 「立派なおやじだった。だから、このサイドカーにも『わが青春のアルカディア号』と書いている」

 リンは「どこにも字は見えないけど…?」と尋ねた。

 ゼロワンは、

 「昔はそのマークの右側に文字があった」

 「今ではこれだけで『わが青春のアルカディア号』だと、誰もがわかってくれる」

 と説明した。

 リンは「でも、それじゃ不親切じゃない? 字は苦手だけどアルカディアと書いておくわ」と言い出した。

 ゼロワンは、一言「すまん」とつぶやいた。


 リンは怖々とトランクを開け、

 「筆と塗料が欲しいんだけど、どうすればいいの?」と質問した。

 「だいたい心でイメージすると、目的の物が浮き上がってくる仕組みだ」

 そしてリンに注意した。

 「くれぐれも中に落ちるなよ」

 「わーーかーってるって! あ、筆と塗料を発見」


------小一時間後。

 「できたわ」

 見事な出来栄えだった。


挿絵(By みてみん)


 それを見たゼロワンは、

 「おまえ、剣士より絵を描く仕事の方が向いてるんじゃないか?」と率直な感想を述べた。

 リンは「それは嫌。私は剣士でありたいの」と突っぱねた。

 ゼロワンはリンを助けた時から、疑問に思っていたことを聞いた。

 「しかし、そんな装備で大丈夫か? 最初見た時は踊り子かと思ったぞ」

 「へへーん。実は露出している部分には魔法薬が塗ってあるの」

「魔法薬?」

 リンは得意気に「特殊耐熱透明ジェルよ。これでガードもバッチリ!」と豪語した。

 ゼロワンは(怪しいな…)と怪訝に思ったので、

 「ちょっと試してみていいか?」と尋ねた。

 リンは自信満々に「いいわよ」と口にした。

 ゼロワンは力を抑えつつ、リンの腹に軽くパンチを入れた。


 「ひでぶっ!」


 変な声出た。


 「ひでぶ?」


 リンは失神してしまい、その場にずるずると倒れ落ちた。


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