第3話:故郷への長い道(3)
ゼロワンより少し大きいその男は、下腹部はでっぷりと太っており、赤と黒のチェックを着ていた。
攻撃的な印象はまったく無かった。
彼はもう一度「キエテ・コシ・キレキレテ」と話しかけてきた。
しかし、それが通じていないと知り、今度は言葉を変えて「ツバク・カン・サルマ」と繰り返した。
ゼロワンはこの状況を打開するため、
「タナグラの、ダーモクとジラード!」と大声で叫んだ。
リンが「なにそれ?」と聞いて来たので「これは翻訳魔法だ」と答えた。
そして男の方を見て「彼の目は開かれた!」と宣言した。
「タナグラの、ダーモクとジラード? おお、わかったぞ!」
この言葉はゼロワンたちにも通じた。
「しゃ、喋ったわ。ステゴザウルスやイグアノドンは喋らなかったのに!」
「彼はおそらく恐竜の最終進化形態だ。相手は知的生命体だから、失礼なことは言うなよ」
「うん、わかった」とリンも素直な表情になった」
彼は「あー、うー」とか言いながら、次第に言葉を整え、挨拶してきた。
「俺はメガロサウルスの『ホーマー・シンクレア』だ。あんた達はなんだね? そっちのお兄さんは大型の哺乳類に見えるが…」
「まぁ、そんなところだ。俺の名前は『モモンガー01』という」
「そっちの細っこい、白い娘さんは何の動物だね?」
「…ど、動物!?」
「彼女はエルフの『リン』と言ってな、簡単に言うと、未来の生命体だ」
「…未来!」
シンクレア氏もさすがに驚いたようだ。
ゼロワンはシンクレア氏と話を続けた。
「信じてくれないとは思うが、俺たちは6000万年後の未来から来た」
「…なんだって過去の世界に?」
「三つ首竜を倒しに来た」
「…信じるよ。あの三つ首竜を倒してくれんなら、未来でも過去からでもかまわん」
「なぜだ?」
「あの三つ首竜には大勢の恐竜が食われてる。ウチの婆さんと娘も食われちまった…」
「まぁ、うるさい婆さんを食ってくれたのには、ちょっとだけ感謝してるがな」
…そう言って、シンクレア氏は「がははは」と笑った。
「あんたら、どうせ行くところも無いんだろ? 今晩はウチに泊まってけ」
シンクレア氏は友好的な態度だった。
「それは助かる」ゼロワンは深く感謝した。
「おっと、その前に」
「遮蔽装置、起動!」
「…消えないね」とリンはつぶやいた。
「困ったな。誰にも触られたくないんだが…」
不思議に思ったシンクレア氏は「何してるんだ?」と疑問を口にした。
「この機械を隠そうとしてるの」
「あー、それなら心配無い。ここには誰も来やしないさ」
「でも、あなたは来たじゃない?」
「ああ、ここは俺の運動用に作った空き地なんだ。本業は『材木倒し』だから、これくらいの空き地はすぐに作れる」
「ざ…ざ…材木倒しぃぃい!」
森の民であるエルフには、それは最大の禁忌であるのだ。
「…な、なんてことしてるんですか!?」
「あのなぁお嬢さん。この世界では、熱帯雨林化が進んでいてな。俺たちが木を倒さないと、みんな酸素過剰で神経がおかしくなっちまう」
「で、でも…」
「リン、ここにはここの事情があるんだよ」
確かに上空から観たこの惑星は緑一色だった。
「異文化を理解し、尊重するのがトレッキーとしてのたしなみだ」
「そんな物になったおぼえは無いわよ!」
「あっはっは、そう喧嘩しなさんな。それじゃウチへ帰ろう」
三人は茂みをかき分け、300メートルくらい進んだ。
---そしてシンクレア家。
「かぁさん、ただいまっ!」とシンクレア氏は大声でドアを開けた。
「おかえりなさい、あなた」と、シンクレア夫人と思われる女性が答えた。
「今日は珍しいお客さんを連れてきた。未来から来たゼロワンさんとリンさんだ」
そして自分の家族を二人に紹介した。
「妻のマージに息子のバート。それにベイビーだ」
なんとも生意気そうな赤ん坊はこう言った。
「かわいがるんだよ」
リンは(かわいくないなぁ)と思ったが、口には出さなかった。
「なんとこの人たちはな、三つ首竜を倒しに、未来から来てくれたんだ」
「ええっ!」マージとバートは驚いた。
「さっきも言ったが、ウチの家族は後二人いたんだが、三つ首竜に食われちまった」
「まぁ、婆さんが食われた時には、スカッとしたがな」
シンクレア氏はまた「がはははは」と笑った。
「あ・な・た!」
「私の母親が死んで、喜んでるの?」夫人は怒ってしまった。
「そう言うなよ。お義母さんも天国でお義父さんに会えて喜んでるさ」
「でもリサは可哀そうだったな。あいつにはまだ将来もあったのに」とバートは残念そうに言った。
マージは気持ちを切り替え「お夕飯にしましょう」と、用意を始めた。
そして「私たちは小さい哺乳類を『生き餌』で食べるんだけど、お客さんたちは何を召し上がるの?」と二人に聞いてきた。
「ゼロワン、生き餌はさすがにイヤだよ」
「…そうだな」
ゼロワンはシンクレア家のキッチンを見渡すと、箱を見つけ、
「シリアルだ。シリアルをください。牛乳をたっぷりかけて」
「あら夕食にシリアルでいいの? 未来の方って小食なんですね」
シンクレア氏は夕食が終わるとケーブルテレビを観始めた。
シンクレア氏の頭を、ベイビーが鍋で叩きながら「ママじゃないやつ!ママじゃないやつ!」と叫んでいたが、テレビに熱中していたので意に介さなかった。いつものことのようだ。
「あれは何?」
「ケーブルテレビという物だ。俺たちの世界の記録水晶が発達したようなものだな」
「ゼロワンはあまり珍しそうじゃないわね?」
「ああ、ニッポンポンに行った時に、たっぷり観たからな。CARTOON NETWORKを8時間ほど」
その時「リンさん、ちょっと俺の部屋に来て話さない?」とバートが誘いをかけてきた。
ゼロワンは「行ってこい行ってこい。エルフと恐竜じゃ何も起こらんからな」とすすめた。
「じゃあ、ちょっとだけね」そう言ってリンは、バートの部屋に行くことにした。
二人はバートのベッドに並んで腰かけ、話し始めた。
バートは色々と興味深々だったようだ。
「…で、恐竜は将来、絶滅しちゃうって本当?」
「確かにそうだけど、まだ残り2000万年くらいあるわよ」
「なーーんだ。心配して損した」
「いや、テレビや雑誌だと、隕石の落下や気候変動で、恐竜は絶滅するって脅してくるんだよ」
「まぁ、いつの時代でもそういうこと言う人はいるわよ」
「じゃあ、リサはやっぱり『無駄死に』だったんだ」
「いい妹さんだったのね?」
「おしゃれが好きで、家の中でもよくおしゃべりしてて、可愛い妹だった。ちょっと尻尾が細いのを、いつも気にしてた」
(ん?尻尾が細い?)リンは一瞬、疑問に思ったが(あ、人間族で言う「巨乳」のことか!)と気づいた。
リンもようやく「異文化」というものを理解できるようになってきた。
「湿っぽい話はやめよう。未来の世界ってどうなってるの? やっぱり科学とか進歩してる?」
「うーん。この家の中を見た限りでは、こっちの方が文明が進んでるみたい」
「そうなのか…」
「でも、私の世界では『魔法』が使えるわ」
「魔法! そりゃすごい!」
「何か魔法を使って見せてよ」
(ま~ず~い~!!)リンは困惑した。
(どうしよう。「バタフライ・エフェクト」を使うと、この家ごと吹き飛びかねないからなぁ)
(なんとかゴマかせねば!)
「じゃ、じゃあ一番初歩の魔法を見せるわね。あの窓の外の木の小枝を見て」
「えれきてるっ!!」
リンがそう言うと、小枝がポキっと折れた。
バートは初めて見た魔法に感激していた。
「うーむ、いよいよたいしたエレキテル……。リンよ、他にも余にエレキテルの力を示せ!!」
(困った、私は剣士だから他に使える魔法など何も無い…)
リンは「さ、されば」と言いながら胸元から紙を取り出し「これなる半紙をごらんくだされ」とバートに伝え、
「これをこのように二つに破きまする」
「それをさらに細かく破り、手のひらに丸め込みまして……」
「えれきてるっ!!」
「…ほれ、もとどおり」
「ぬお~~っ、ぅわっぱれ!! すばらしいぞー!!」
「ほかにも見せてみよ、ほかにも!!」
「…ほ……ほかにでござりますか……」
「さ、さればこれなる、なんの変哲もない新聞紙をごらんくだされ」
「ふむ、ふむ」
「……さ…さて……、こうして二つに折った新聞紙に、水差しより水を注ぎまして……」
「えれきてるっ!!」
「あーら不思議。一滴の水もこぼれません」
「うひゃひゃひゃ、あっぱれあっぱれ、おおあっぱれ」
「しかばら、余のエレキテルを見てくれい」
「え、バートくんのエレキテル?」
「そうじゃ、よいか? これなる頭の突起部にはタネもシカケもあらしまへん」
「と・こ・ろ・が!」
「チューリップ!!」
バートがそう叫ぶと、バートの頭に花が咲いた。
「面をあげい!! リン!!」
「ただのテジィナをエレキテルと偽り、余をあざむくとは不届き千万なり!!」
「余の目をふし穴だと思ったかぁ!!」
「それは違いますバートくん。今、世界では手品もエレキテルもまったく同じです」
「なぜならば……両方とも人を幸せにするからです」
「おお……エレキテルも手品も人を幸せにする…」
「拙者、目からウロコが落ちる思いでござる」
「ふっふふふふふ」
「あはははははは」
二人は同時に笑いあった。
「初対面なのに、何やってるんだろうね、俺たち」
「バートくんなんか、途中で言葉遣い変わってるし」
まったくもって変な展開だったのに、二人の距離は縮まった。
半年以上更新できませんでした。ごめんよ~。
でも、このお話はちゃんと書き上げますので、暖かく見守ってください。
第3話:故郷への長い道(4)はもう少しスピードアップするつもりです。




