表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モモンガー01  作者: 眠田 直
11/11

第3話:故郷への長い道(2)

「遮蔽装置、解除!」


 ゼロワンがそう言うと、空間にひずみが起こり、少しボヤッとした感じで「わが青春のアルカディア号」が姿を表した。


 そしてゼロワンは続けて「アルカディア号、スペースモード!」と、二つめの命令を下した。


 すると「トランスフォーマー」のようにアルカディア号がギゴガゴゴと音をたてて変形し、二本のワープナセルが横に飛び出し、トランクの上部に、ミニサイズの円筒形ワープ・コア収納部分がせり上がってきた。


 せせこましくなったので、ゼロワンは自分より背の低いリンに「トランクから紫色の水晶を取り出しくれ」と頼んだ。

 リンはトランクから、じぶんの手のひらサイズの水晶を見つけた。

 「これでいいの?」とリンが尋ねると、ゼロワンは「こっちに渡してくれ」と言って水晶を受け取った。

 「綺麗な宝石だけど、それは何の役に立つの?」と疑問を口にした。

 「これは単なる水晶じゃない。『ダイリチウム結晶』と言ってな、宇宙を飛ぶのに必要なものだ」

 「…うちゅう? 宇宙ってなに?」

 「行けばわかる」とゼロワンをそう言って、ワープ・コアをアルカディア号の中に押し込んだ。

 「乗れ」

 リンはいつものように、サイドカーの座席にちょこんと座った。


 「アルカディア号、発進!」

 ゼロワンは重たいサイドカーにまたがり、ほんの一瞬だけ深呼吸した。

 キーをひねると、大型マシン特有の低い鼓動がドン、と腹の底に響く。

 右手のスロットルを軽くひねると、排気音が「ゴゴッ」と力強く応える。

 クラッチレバーを握り込み、左足で一速に落とす――コツン、と金属が噛み合う確かな手応えがあった。

 エンジンの振動が、リンの腰から背骨にまでじわりと伝わった。

 「うっ…」リンは少しうめいた。


 ゼロワンはゆっくりとクラッチを戻し始める。

 同時に、右手をほんの数ミリだけ動かし、スロットルを開く。

 その“ほんの少し”が、このマシンではとてつもない力になる。

 クラッチが完全につながった瞬間、背中を押されるような加速が襲いかかる。

 ゼロワンはスロットルをもう少し開けた。

 機械の力と自分の意思がかみ合った瞬間、アルカディア号は矢のように路面を駆け抜けていった。


 「地面から飛び立つには、俺の魔力だけでは無理だからな。ここからは別世界の技術を使わせてもらう」

 「ええっ、どういう技術?」

 リンの質問には答えず、ゼロワンは充分に滑走したアルカディア号を離陸させた。

 「ゼロワン!空飛んでるよ空!こんなこともできるの?」

 リンは興奮していた。

 「これくらいで驚いてたら、後が持たんぞ」

 ゼロワンはアルカディア号がニュートラルに入っていることを確認し、右手でフロントブレーキレバーを握りつつ、親指でセルボタンを押した。

 「上昇!」

 轟音とともに、アルカディア号は「重力の底」から大気圏外へ抜け出そうとしていた。

 次の瞬間、リンはシートに押しつけられ、声にならない悲鳴をあげた。

 「はぐうぅぅ!」

 強力な「G」がリンの身体に襲ってきたからだ。

 「体が押しつぶされる~! ゼロワン、わたし平たくなっちゃう!」

 「それが『G』だ。単に地上の重力がかかっているだけだ」

 「重いっ!鎧より重い!これってなんかの呪い!?」

 「うーーむ。エルフは人間より耐久力があるはずなんだが…」

 「耐久力があるですって? めちゃくちゃキツいわよ!!」

 ゼロワンは余裕の笑みで、手元のスイッチを軽く弾いた。

 ワープナセルがオンになり、アルカディア号はさらに加速した。


 リンは涙目で彼をにらみつける。

 「そんな余裕そうに笑って…ゼロワンだって、ほっぺたの皮、伸びてるじゃない!」

 「…これは、笑ってるんじゃなくて、引っ張られてるだけだ」


 やっと世界(ガロンドン・コア)の重力圏から離脱し、二人は「ふぅ」と息をついた。

 もちろんシールドを張っているので、二人は真空の宇宙から守られている。


 「もしかして、ここが……天界?」

 「天界じゃない、宇宙だ」

 「じゃあ、雲の上に天使の国があるという言い伝えは嘘だったの?」

 「おとぎ話だな」

 「あ~ん、信じてたのにぃ。夢を壊さないでよ!」


 ゼロワンは少しリンを落ち着かせようとこう言った。

 「振り返ってみな」

 そう言われるまま、リンが後ろを見ると、青い惑星が浮かんでいた。

 「う~ん。とっても綺麗だけど、あれはなに?」

 「これが世界(ガロンドン・コア)だ」

 「うっそー!」

 リンが反論した。

 「なんかでっかいボールみたいだよ。私たちこんなところに住んでたの? 世界(ガロンドン・コア)は平らで、その果てには大きな崖があるって教わったよ。これじゃ足をすべらせたら落っこちちゃうじゃない!」

 「俺たちが世界(ガロンドン・コア)よりずっと小さいから、平らに思うだけだ」


 リンは今までの常識がガラガラと音を立てて崩壊し、なんとも言えない顔になった。


 その間、ゼロワンは冷静にポケットからスマートフォンを取り出し、計算を始めた。

 「それは何?」

 「スマートフォンだ。これで速度を算出する」

 「『スマートフォン』って何よ?」

 「小型のコンピューターだな」

 「『コンピューター』って何よ?」

 「物を考えることができる機械だ」

 ゼロワンはなるべく簡単に説明したが、リンはもう理解を諦めた表情になっていた。


 「おい、リン。お前体重は何キロだ?」

 「…お、女の子に体重なんて聞かないでよ!」

 「計算にはどうしても重量データがいるんだよ」

 渋々とした表情でリンは「…38キロ」と答えた。

 「ふむ、やっぱりエルフは軽いんだな。助かったよ」

 「そうなの?」

 「重量は少ないに越したことはない」


 「では行くぞ」

 「どこに?」

 「太陽だ」

 ゼロワンは前方の赤く燃える星を指さした。

 「あれって『お日さま』?」

 「地上からはそう言うな」

 「太陽の重力を利用して、スイングバイ方式でタイムワープするのだ」

 「ほへー」

 リンはさらに理解を諦めた表情になっていた。


 ゼロワンはリンに聞こえないように小さな声で「この愚行に幸いあれ」とつぶやくと、アルカディア号をワープモードに切り替え、宇宙飛行に入った。


 「ワープ2、ワープ3、ワープ4…」


 「なんかガタガタ揺れてるよ!」リンは不安に思った。

 「本番はまだまだこれからだ」

 「えーーっ?」


 「ワープ5、ワープ7、ワープ8、ワープ9」

 リンは「あの星ヤバいよ。焼け死ぬよ!」と抗議したが、ゼロワンは耳を貸さず、


 「ワープ9ポイント2……ワープ9ポイント3……」

 「ワープ9ポイント7……ワープ9ポイント8……時空間離脱速度!」


挿絵(By みてみん)


 「もう何がなんだかわからないわよ!」リンは絶叫した。


 アルカディア号は太陽を周回し、別の時空へと向かった。

 その前方には、さっきの青い惑星ではなく、緑の惑星が現れた。


 「……ゼロワン。なんかアルカディア号が燃えてない?」

 「大気圏突入だ。空気の圧縮で熱が出る。エルフは人間より耐久力があるはずだが?」

 「同じ話で二回も言わないでよっ!」

 ゼロワンは落ち着いて計器を見ながら、のんびりと答える。

 「あと三分で着陸だ。我慢しろ」

 「ふえーー」


 しかし近づいてみると、緑の惑星はどこも密林が生い茂っており、着陸ポイントは無かった。

 「弱ったな…」

 「ゼロワン、あそこ見て! ちょっとだけ空き地がある」

 「よしっ!」


 ゼロワンはなんとかその狭い空き地に、アルカディア号を着陸させた。

 「生きてる……?」

 「当然だ」

 「こんなに命のありがたみを感じたのは、初めてだわ」

 「何を言ってる。帰りもこれなんだぞ?」

 「そーかあぁぁ!」リンは少し絶望した。


 そんなリンをよそに、ゼロワンはトランクから「クロノスキャナー」を取り出し、計測を始めた。

 「ふむ、6000万年前か。一応成功だな」

 しかし次にワープ・コアをチェックすると、表情を曇らせた。

 「どうしたの?」

 「ダイリチウム結晶が劣化している」

 「ホントだ。前は宝石みたいに光ってたのに」 

 「これでは元の時代に戻れんな」ゼロワンは渋い顔になった。

 「直す方法は無いの?」

 「無いことはないんだが、ここは6000万年前の世界だからなぁ」

 ゼロワンは深くため息をついた。


 その時、森の中をのっしのっしと歩く、一人の男がいた。

 そして、ゼロワンたちのいる空き地に姿を表した。

 その男は身長約2メートル。爬虫類的な顔立ちで、赤と黒のチェックパターンの服を着ていた。


 「リザードマン!?」リンは警戒した。

 ゼロワンはその男を観察し(…リザードマンではないな。あの服は手縫いでなく、工場生産された物だ。すると、ここには文明があるのか?)と素早く分析した。


 そして彼は、どことなく愛嬌のある顔で、こう話しかけてきた。


 「キエテ・コシ・キレキレテ」

更新が遅れて申し訳ございません。

プロットは第5話まで出来てるので、最後まで書くつもりです。

そんなわけで、時々見に来てください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ