第3話:故郷への長い道(1)
世界には世界の掟があり、宇宙には宇宙のルールがある。
夜と昼と、またそれを破る暴力がある。
ここは人間族の拠点「カラヅカ」
だが、今「カラヅカ」は、宇宙の暴力の危機にさらされていた。
「三つ首のドラゴン」の話を聞いた、受付嬢の動きは素早かった。
口に魔道具をあて、こう指示を出した。
「冒険者のみなさんは門を出て、城壁の外でドラゴンを迎え撃ってください。一般市民の方は家に入り、絶対に外出しないように!」
魔道具の力で、その声はカラヅカ全体に響き渡った。
勇気ある者たちは、ドヤドヤと音を立てギルド本部から出て行った。
ゼロワンは(ふむ、このおねいさんは只の受付嬢ではなく、ギルド幹部なのだな…)と、ちょっと思索にふけっていた。
もどかしくなったマキは「ゼロワンのおっさん、俺たちも行こうぜ」と促した。
その時、リンが情けない声を出した。
「ちょっと待って! 私、武器を持ってない!」
「それではあれをお使いください」
おねいさんはギルドの壁に掲げられた、剣と斧を指さした。
リンは急いで、壁から剣を外した。
リンは こふうなつるぎを てにいれた。
「年代物ですが、いい剣ですよ」と、おねいさんはリンを励ました。
「では『紅の拳銃』出ます!」リーダーはそう告げて、四人は外へ向かった。
----カラヅカ城門前。
壁沿いに、一騎当千の強者たちがズラリと並んだ。
残念ながら、まだ銅級の「紅の拳銃」は、かなり右後ろの方に配置された。
衛兵が「それでは、門を閉めます。よろしいですね!」と宣告した。
もう逃げ場の無い、危険な状態である。
「ふん、その方が気合が入るってもんさ」と、一人の剣士が自分に勢いを入れていた。
そして冒険者たちが漆黒の夜空を見上げると、上空から青色に光る魔物が、カラヅカに降りてきた。
「…こ、これは」
「でけぇ」
「こんなのと、どうやって戦えばいいんだ…」
なんとも奇妙なドラゴンであった。
その全長はゆうに百メートルを超え、腕が無い代わりに、二つの翼がこうもりのように広がり、空を覆わんばかりの大きさを誇る。
振り下ろされるたびに大気が震え、地上に突風を巻き起こす。
鳴き声も「ドラゴンの咆哮」ではなく「ピピピピピピ」という電子音だった。
太く強靭な尾が二股に分かれ、大地を薙ぎ払うたびに爆音が轟く。
全身はくまなくメタリック・ブルーのウロコに覆われていた。
(…綺麗)
リンは恐ろしい魔物なのに、一瞬そう思ってしまった。
そして、なんとも特徴的だったのは「三本の首」。
それぞれの頭には鋭く湾曲したツノが三本ずつ突き出している。
三つの首は、それぞれ別の意思を持つと思われる動きをしていた。
口から放つのは「ドラゴンブレス」では無く、イナズマ状の光線だった。
三つ首竜は、人間の戦士たちには目もくれず、ただカラヅカの城壁だけを標的にしていた。
一個600トンもある巨石を、軽々と空中に持ち上げていた。
引力光線だ!
人間族最後の砦である「カラヅカ」の城壁は、もろくも崩れさった。
「これでカラヅカも『ジ・エンド』かぁ」と一人の老戦士が嘆いた。
まだ気力が残っていた若い剣士は「くっそう!」と言いながら、三つ首竜の足を狙って走りだしたが、引力光線に吹き飛ばされただけだった。
これで大多数の冒険者たちは、その威圧感に挫け、もう戦う意志を無くしていた。
城壁を壊しつくすと、三つ首竜はなんとも奇怪な行為に出た。
自分の前に、円球型の障壁を作り始めたのだ。
その障壁は少し濁った白色で、血管のような赤い紋様の入った、不気味な物だった。
そしてカラヅカの街の中では、不思議な事が起こり始めた。
両親の目の前で、子供が「スター・トレック」の転送時のようなキラキラした光にに包まれ、消えてしまったのだ。
「坊や、坊や!」と多数の母親たちが泣き叫んだ。
キュルルは勇気をふり絞り「魔法攻撃なら効くかもしれません、私、やってみます!」と、言いながら「ジャッカルの杖」を振ろうとした瞬間…!
「キラキラ」に包まれ、キュルルの姿が消えた。
「おいおい、どうなってるんだよ?」とマキは憤って駆けだしたが、彼女もすぐにキラキラの中に消えた。
「ええっ、二人ともどこに行ったの?」とリンは焦って叫んだが、ゼロワンは「あの障壁の中だよ」と冷静に答えた。
----障壁内。
そこには幼い泣き声が絶え間なく響いていた。天井は、子供たちの目には重く鈍い天蓋のように見え、そこに閉じ込められた事実を冷たく告げていた。
「怖い…ここ、怖いよ…」
床には座り込んで泣く子供たち。ある子は叫び声をあげ、ある子は嗚咽を押し殺しながら、ただ肩を震わせている。
泣き疲れて声が枯れた者たちは、膝を抱えながら虚ろな目で何もない空間を見つめていた。
「お母さん……お母さんに会いたい……」
一人の少女が震える声でつぶやき、その隣で小さな男の子も鼻をすすりながら同じ言葉を繰り返す。
しかし、その声は誰の耳にも届かず、ただ虚空に吸い込まれていくだけだった。
「帰りたい…助けて…」
「おいおい、なんだよココ。子供ばっかじゃねえか?」とマキはキュルルに話しかけた。
「あの障壁の中みたいね」キュルルは他の子供たちとは違って、冷静さを失ってはいなかった。
「それじゃ、俺たちもガキ扱いってことか?」
「そういう事になるかしら」
マキは怒って「チクショーメー!」と叫びながら、足元の岩を障壁の壁に投げつけた。
すると、壁は少し揺らいで、あっさりと岩を吸収した。
「出られないってことかよ…」
マキは落胆した。
----外。
「あれはなに? 魔物は何をするつもりなの?」とリンはゼロワンに尋ねた。
「あの障壁を使って、子供から生命エネルギーを吸い取るんだよ」
「…それって」
「子供の方が味が旨いそうだ。まさに『偽りの王』だな」
「『偽りの王』って、ゼロワンはあの魔物のこと、前から知ってたの?」
「少しくらいはな」
「もーーー、いつもそうやってはぐらかすんだから!」リンは怒った。
「さぁて、マキとキュルルを助けんといかんし、一応やるだけやってみるか」
「どうするつもりなの?」
「目には目を、歯には歯を 怪獣には怪獣を、だ」
そしてゼロワンは、あのよく喋る魔道具に手をかけた。
リンは「うげっ!」とおもわず声に出した。
ゼロワンは「カード・イン!」と言いながらベルトにカードを差し込むと「ルナ!」「トリガー!」とまたベルトが喋った。
そして「ズギュン、ドュクドュクドュク、チャラララララー」と恒例のうるさい音が鳴り響き、ゼロワンは三つ首竜に匹敵する程の大きさに変身した。
その姿は、巨大な可愛い哺乳類!
「ええええええええええええーーーっ!」とリンは驚いたが、先ほどの老戦士は「おお!神獣『ももんがぁ』様じゃ!」と感嘆していた。
「神獣『ももんがぁ』様だ!」
「『ももんがぁ』様が来てくれたぞ!」
「さすがは神の使い、なんと神々しいお姿!」
あたりの空気が一変した。
ももんがぁは、のそのそと三つ首竜に近づいていった。しかしその内面では…。
(巨大化すると、思考力が鈍るんだよな…)
(ここは早めに一発で決めとくか…)
ももんがぁは口を大きく開け、必殺の「シルバーヨード」を三つ首竜めがけて発射した!
しかし三つ首竜の手前で「シルバーヨード」は放射状に分散した。
(あ、Iフィールドだとぅ?)ももんがぁは混乱した。
その後は三つ首竜のやりたい放題だった。
引力光線で「ももんがぁ」の体を宙に浮かせ、ドスンと落とすという技で、少しづつダメージを与えていった。
「負けるなー、ももんがぁ様」
「ううむ、三つ首竜め。頭が三つもあるだけあって三人前の働きをしやがる」
窮地に至った「ももんがぁ」は、この姿でも使える魔法を一つだけ思い出した。
(やっぱり知力が低下してるなぁ)
「シュールストレミング!」
すると辺り一面に、強烈な臭気が漂いはじめた。
「なんだこれは、かなわん」
「ヒデぇ匂いだ」
冒険者たちは散り散りになって逃げだした。
さしもの三つ首竜も、この臭いには耐えられなかったようで、上空へと姿を消した。
リンは我慢して待っていたが、そこに元の大きさに戻ったゼロワンが落ちてきた。
「これで一件落着ね」とリンは呑気に言ったが、ゼロワンは否定した。
「こんなのは一時しのぎだ。奴は子供を喰らうために、必ずあの障壁に戻ってくる」
「どうするの?」
「過去にタイムワープし、まだ成長前の三つ首竜をやっつける」
「うーん、それって」とリンが疑問を口にした。
「卑怯じゃない?」
「あんなチート級の宇宙大怪獣に、卑怯もクソもあるもんか!」とゼロワンは怒鳴った。
「行くぞ」
ゼロワンとリンは「わが青春のアルカディア号」の隠し場所へと急いだ。
更新、遅くなりましたー!
マキとキュルルは、作者としてもお気に入りのキャラクターだったんですけど、ここでいったん退場です。