6話 先輩と僕
夏の暑さが増してきたある日、僕は帰宅途中の電車でつり革につかまっている金子先輩を見つけた。
「金子先輩」
「あら、久しぶり!」
金子先輩は以前と同じ優しい笑顔で僕の顔を見上げた。
「ちょっと話そうか」
金子先輩の降りる駅は僕よりひとつ先だったはずだが、僕と一緒に僕の最寄り駅で降りた。僕たちは、僕の行き慣れたショッピングモールのフードコートに向かった。
「私ね、夏の大会、予選落ちしちゃったから、もう引退なんだ。けっこ頑張ったんだけどね。私の高校テニスも、これで終わりだよ」
僕は、はっとした。そうだ。高校テニスには、だれでも終わりがあるんだ。そんな当たり前のことに、どうして気づかなかったんだろう。
「わたしは、君の隣にいることができなかったけど、君と出会えたことはすごく感謝してる。とても素敵な時間をくれて、ありがとう」
「僕は・・・本当は、先輩のことが好きでした」
「うん、知ってる」
先輩は、にっこり笑った。
僕は、こみ上げてくる感情が抑えられず、目頭を押さえた。それなのに、勝手に涙がこぼれた。
「・・・男の子なんだから、泣いちゃだめだよ。って、泣き虫のわたしが言っても説得力がないか」
「先輩に、つらい思いをさせてしまって・・・」
「ううん、つらかったのは壮馬君じゃない。・・・私も、今はちゃんと前を向いて歩いてる。それに、今は、君の隣にいてくれる人がいるんじゃない?あの、君の肩をやたらバシバシ叩く子。あの子ね、3年生の間ではけっこう人気なんだよ?」
金子先輩がミヤチョのことを知っていたのは驚きだった。それに、いまのセリフはどこかで誰かに聞いたような?