5話 新しい自分
僕は大事なものを失った。今までは輝いて見えた高校生活が、色あせてしまった。テニスのことも、金子先輩のことも、考えないようにしたかった。今までは興味がなかったスマホゲームをしたり、むしろ勉強に打ち込んだりした。
ただ、なんとなく、誰とも話したくなかった。もともとおしゃべりではなかったし、友人も多くはなかったが、休み時間など、友人同士が語り合っているのを見ても、自分がそうしたいとも思えなかった。
そんな僕だが、たったひとつ、趣味と呼んでもいいものがあった。イラストを書いて、ノートに書き込んでいた。美少女が特別好きなわけではないが、題材としては一番無難に思えたので、よく美少女を描いていた。
そんなとき、ミヤチョがいつもそうしているように、机の上に片膝を立てて、友達相手に軽口を言っていた。その構図が、なんとなく面白そうに思えた。
(忘れないうちに、この構図を書いておこう)
そんなふうに思って、ネタ用に使っているノートにミヤチョのポーズや髪型を真似た絵を描いていた。
「これ、あたしのことでしょ?」
ささやくミヤチョの声に、思わずのけぞった。いつの間にか彼女は隣にきていたんだ。
「可愛く描いてくれてありがとう。」
そう言うと、彼女は軽く手を振って友人の輪の中に戻っていった。
(まずい、誤解されないかな?)
後日、ミヤチョに話しかけられた。
「原田君、絵を描いたら、どこかに投稿してるの?」
「投稿?なにそれ?」
「あたしね、自分では描けないけど、見るのは好きだから、ほら、こういうところ」
ミヤチョが見せてくれたスマホの画面には、イラスト投稿サイトがあり、様々な題材の絵が投稿されていた。
「これやんなよ。きっと、原田君に向いてるよ?」
僕には、まだやれることがある。ミヤチョがそれを教えてくれた気がした。