4話 別れ
退部して、1週間くらい経ったころ、帰ろうとする僕は、後ろから肩を叩かれた。
「ひさしぶり」
金子さんは笑顔を見せたが、その顔はすぐに曇った。僕の退部に、責任を感じているのがよくわかった。別に、金子先輩が応援してくれたせいで僕がテニスができなくなったせいじゃない。たまたま、偶然が重なっただけのことだ。でも、金子先輩は、きっとそれでも自分を許せないだろう。彼女はそういう人なんだ。
先輩の両目から、涙がひと粒、またひと粒、流れ落ちた。
「私、君の隣にいる資格がなくなっちゃった。いまでも好きだけど、こんな自分が許せない。」
僕は何も言えずに呆然と立ち尽くした。
「壮馬くんと出会えて嬉しかった。それは、きっとこれからも、私にとっての宝だと思う。今までありがとう」
ペコリと一礼すると、先輩は小走りに部室の方に向かって走っていった。
(ちがうんです。ぼくだって、先輩の隣にいたかった。でも、テニスができなくなった僕には、もうそれができないんです。謝らなくてはいけないのは、僕の方です。)
心の中にはこんなに言葉が溢れているのに、金子先輩を追いかけることもできず、言葉を伝えることもできずに、もう、彼女と言葉を交わすこともなくなってしまった。
そのとき、僕の背中をバンバンと叩くやつがいた。こんなことをするやつはミヤチョしかいない。
「かわいい先輩だね。1年生にもファンが多いんだよ」
「・・・ん・・・そうか」
「このままでいいの?」
「聞いてたのか?」
「そりゃ聞こえるよ、すぐそばで喋ってるんだから」
ミヤチョは僕の頭をぐいっと掴んで言った。
「なんかあっったら力になるぞ!」
「おい、そういうことはもう少し優しくやるもんだろ」
思えば、それが初めてミヤチョとまともに会話をした日だった。