3話 退部
その日、昇降口で、金子先輩が待っていた。
「昨日部活休んだけど、大丈夫なの?」
「はい、全然大丈夫です」
僕は、金子先輩に本当のことは言えない、と悟った。もしそうすれば、金子先輩は、僕がテニスができなくなった原因は、自分にあると思い込んで、苦しむだろう。
「壮馬くん、元気つけてあげたいから、ファミレス行こう!今日はおごるから、好きなもの食べてよ」
金子先輩は、どこか無理をしているようだった。なにかを抱えているように感じた。
「このハンバーグおいしい!」とはしゃぐ姿は元気な女子高校生そのものだったが・・・
そして、意を決したように、口を開いた。
「壮馬くん、君のことがずっと好きでした。私は、あなたの隣にいられるようになりたい、そう思って頑張っているの」
(先輩、僕だって先輩のことが・・・でも、もう無理なんです)
「ありがとうございます。すごく嬉しいです。でも、僕ってまだ恋愛のこととか、まだよくわからなくて・・・少し時間をください」
次の日、僕は、部長のいる教室にいって、肘のこと、退部を希望していることを話した。そして、みんなに会うのは辛いので、もう部室には行かないこと、部長から自分のことをみんなに話してほしいことを伝えた。
部長は言った。
「辛い思いをさせてしまったな。気づかなかった俺のミスだ。だが、金子は気にするだろう。どうする?」
「いえ、僕には合わせる顔がないんです。」
「よくわかった。お前は今までよく頑張ってくれた。ありがとう。いつか、心の整理がついたら、部室に遊びにきてくれ」