1話 ミヤチョというやつ
高校2年の夏休みが終わった。
あのときから、僕は友達を作る気持ちにもなれず、昼休みにはひとりでパンをかじっていた。だが、そんな僕の平穏を乱すやつが一人いる。
今日も、眼の前に、ふわりと束ねた髪が流れてきた。長身でスレンダーなメガネ美人だが、ちょっと変人扱いされているミヤチョが、また僕にちょっかいをかけに来たんだ。
「それ、あたしも食べる」
ミヤチョはいきなり僕のクリームパンを取ると、半分にして、残り半分を返してきた。
「なんなんだよ、いきなり」
「じゃ、あたしのカツサンドあげる」
ミヤチョは、自分のカツサンドを僕の口に押し込んできた。僕がフゴフゴと苦しがっているのを見て、フフンとほくそ笑むと、僕の机をまたいで座った。美人が台無しだ。
ミヤチョの本名は、宮本ユカリ。なんでミヤチョなのかはよく知らないが、宮本を短くしたものなのだろう。
「カツサンド、うまいでしょ?」
そういえば、購買のカツサンドはけっこう美味いと人気のサンドイッチだ。
「美味いのはわかったが、ミヤチョはいったい何考えて生きてるんだ?」
「そりゃもちろん、原田くん、寝ても冷めても君のことばかり考えてるよ?」
ミヤチョはいたずらっぽく笑った。本当に何考えてるのかわからない。僕は、右手でシッシッと追い払うジェスチャーをした。
「それじゃ、またね」
「もう来んじゃねえ」
「きゃはは!」
元気よく笑うと、ミヤチョは自分の席に戻っていった。まあ、誰に対してもそんな感じのやつだから、しょうがないな、と思うだけだ。
ミヤチョの席には、女子が集まってきて、とりとめもない話をしているようだった。変人で面白いキャラって、人気を集めるものなんだろうか。