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死霊術の役割


 俺たちはコーネリアと共に、とある高級そうなレストランに入った。


 初めに会った時から彼女はお金持ちのお嬢さんなんだろうなと思っていたが、どうもただの金持ちではなさそうだ。


 彼女を見るなり、レストランの入り口にいた案内係が深々と頭を下げた。


 「お嬢様! まさか本日、突然お越し下さるとは……」


 「個室を用意して。できる?」


 「はっ」


 「連れがいるの。彼らは少し変わってるけど、気にしないで」


 「はぁ、お連れ様……おぁああああっ!?」


 「どうも。連れです」


 「バウッ!」


 挨拶をした俺とハウンドに続き、ボーンズも礼儀正しくお辞儀した。


 悪目立ちするから『死者のカケラ』に戻すと言ったのだが、コーネリアがそのままでいいと決して応じなかったのだ。


 「おおおお嬢様。この方たちは一体……!?」


 「彼は死霊術師のネク。ワンちゃんは死霊。ドクロの彼も同じ死霊。とってもお世話になったから、丁重におもてなしして頂戴」


 「は、はっ! しかし、死霊とは……これでは他のお客様が怯えてしまいます……」


 「だから個室にすると言ったでしょう」


 「しかし……犬と骸骨とは……」


 「ごちゃごちゃとうるさいわよ! 私がお世話になったというのだからそれで良いでしょう!? あなた、私に恥をかかせる気っっっ!?」


 「はっっっ!! 大変失礼いたしました!!!」


 「……」


 「行きましょう、ネク」


 「本当にこのままでいいのか?」


 「いいのよ。だって私はハウンドやボーンズにだってお礼をしなくっちゃいけないもの」


 コーネリアは金持ちならではの傲慢さと、少女の傲慢さを併せ持っていた。


 結局俺も逆らえず、そのまま案内された個室へ入って行った。


 こうした突然の来訪は珍しくないのだろう。

 いきなりにも関わらず豪奢な部屋は奇麗に保たれており、グラスやフォークがあらかじめ準備されていた。


 田舎育ちでこんな高級な場所に来たことのない俺は、恐縮しながら座り心地の良い椅子に座った。


 俺よりも堂々とした振る舞いで座るボーンズ。

 ハウンドはその足元に丸くなり、あくびをした。


 案内役は明らかに怯えているが、コーネリアは気にする様子もない。


 「お嬢様。こちらがメニューでございます……」


 「メニューはいいわ。適当に見繕って持ってきて。量もたっぷりよ!」


 「か、かしこまりました……!」


 案内役はこの異様な空間からそそくさと出て行った。


 なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったが、俺もコーネリアを見習って気にしないことにした。


 「さてと、ネク。料理が来るまで、少しあなたの話を聞かせて頂戴」


 「俺の話?」


 「そうよ。どうしてあなたは食事ができないほどにお金がないの?」


 「王都に来るまでの旅費と、ここ数日の滞在費でなくなった」


 「王都には何しに?」


 「冒険者ギルドで働こうと思った」


 「あぁ、なるほどね。あなたのその力ならうってつけだわ」


 俺の話を聞いて、コーネリアは納得の顔をした。

 そんな話をしているうちに早くも食前酒が運び込まれて来た。


 「飲んでみて。あなたの口に合うかどうか分からないけど……」


 「……酒はあまり飲んだことが無い。でも、美味い」


 「何をしてるの? ボーンズにも注ぎなさい」


 「ははっ、しかし……この方は骸骨ですが」


 「骸骨だろうと、何だって言うの? ほら、待っているでしょう?」


 「は、はぁ……では」


 ボーンズは食前酒が注がれたグラスを手に取り、くいっと一息で飲み干した。

 口から吸いこまれたソレは当然、ばしゃばしゃと背骨や肋骨へ零れた。


 だけど満足そうにサムズアップしているから、きっとボーンズは喜んでいる。


 その様子を見てコーネリアはクスクス笑った。


 「ボーンズって面白い。私、気に入っちゃったかもしれない」


 「その気持ちは分かる。俺も大好きなんだ」


 「ご飯は食べるの?」


 「俺の魔力で動いてるから、食べなくても平気だ。だけど、こういうことは気持ちの問題らしい」


 「そうよね。もとは人間ならご飯くらい食べたいわよね」


 「お嬢様。こちらの犬には、生肉をご用意いたしましたが……」


 「ネク、あげてもいい?」


 「もちろん」


 皿に盛られた肉を目にすると、ハウンドはガツガツと食べ始めた。


 腹が破けて内臓が露出しているから、食べたものはそこから床にボトボト落ちていく。


 案内兼給仕係は露骨に顔をしかめたが、コーネリアは肝が太いのか全く意に介さなかった。


 店にとってはなんとも迷惑な客になってしまったものだ。


 そうこうしているうちに少しずつ料理が運び込まれてくる。


 オリーブオイルを塗って、香ばしく焼き上げたバゲット。


 タコと生ハムとトマトのカルパッチョ。


 温かく味わい深いミネストローネ。


 上品な鯛のグリル。


 その全てが、当然ながら美味しい。


 「どう、ネク。お味の方は」


 「文句のつけようがないほど美味い」


 「そうよね。二日間も何も食べてなかったんだものね」


 「あぁ」


 「でも、明日からは大丈夫なんでしょう? 冒険者ギルドのお仕事は稼ぎがとても良いと聞くわ」


 「あ……それは、残念ながらだめになったんだ」


 「どうして?」


 「死霊術師はお呼びじゃないらしい。彼らが言うには、死霊術は汚らわしい邪法で、由緒正しいギルドの一員にはふさわしくないって」


 「まぁ! 汚らわしいだなんて、一体どういう意味?」


 「そのまんまの意味じゃないかな……つまり、死者を操って何かすることが良くないと思われてるみたいだ」


 「善い行いに使うならかまわないじゃない。操ると言っても、無理やりあなたに使役されている訳じゃないんでしょう?」


 「さあ、それはボーンズに直接聞いてみないとな。喋れないけど」


 「首を振ってるわ。無理やりじゃないって言ってる」


 「それはともかく、あまり汁物を食べるな、ボーンズ。めちゃくちゃ床が汚れる」


 ボーンズは頷き、忠告通り固形物を中心におごそかに食べ始めた。


 何を食べてもドクロの中を素通りするだけなのだが、本人が喜んでいるからそれで良いことにしておこう。


 「そういう訳で、すっかりアテが外れてしまったんだ。今はどうにか金を貯めて、故郷に帰る手段を考えている」


 「ネクはあきらめがいいのね。一回くらい門前払いになったからって、そう悲観することもないじゃない」


 「死霊術師は嫌われているみたいだ。もしかしたら、王都には居場所がないのかもなぁって」


 「私はネクのような人がいてもいいと思ってるけど」


 「みんながコーネリアみたいならいいんだけど、現実はそうもいかない。死霊術がどういうものかもあまり知られてないようだし……」


 「私は今日でよく分かったわ! 死者を操っていろんなことができるのよね」


 「それだけじゃない。それは死霊術のほんの一部だよ」


 「そうなの?」


 「本来、死霊術は死者と交信するために発展した術だ。戦うことが全てじゃない」


 「死者との、交信……?」


 「亡くなった人を呼び出すこともできるんだ。それが生きている人の心の慰めになることもある」


 「っ、待って!! 本当にそんな奇跡のようなことができるっていうの?」


 「奇跡じゃない。死霊術だ」


 「……死んだ人に、会えるの?」


 「その人のカケラ……その人の肉体の一部だとか、大事にしていた思い出深い品があれば」


 「……」


 持ち物からでも幻のような存在を生み出すことができるが、実際の人物が蘇る訳じゃない。


 本人は永遠の眠りについていて、持ち物に残されている記憶の中の人物が現れる。


 例えば剣士が大切にしていた剣がある。


 そこには力強く荒々しい剣士の記憶が残っている。


 例えば剣士が大切にしていた妻との思い出の品。


 そこには優しい剣士の穏やかな記憶が残っている。


 こんなふうに依り代にする物によって具現化する死霊の性質が違ってくる。


 これが死霊術の複雑怪奇なところであり、妙味でもある。


 「死霊術は、悪用しようと思えばいくらでもできてしまう。だから、邪法と言われるのも分かる気がするけれど……」


 「ネク。私、あなたにひとつお願いしたいことができちゃったみたい」


 「お願い?」


 「一度でいいの。私のお母さまに会わせて」


 真剣な顔で、コーネリアはそう言った。



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