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故郷から遠く離れて


 辺境にある俺の故郷の村・アプルル。

 そこは貧しく、のどかで、平和以外に取り柄は何もない。


 そのアプルル村に住むのは全員が死霊術師の末裔だった。


 かつては王国の中枢で働きを任されるほどの存在だったが、一人の死霊術師がおのれの欲のために王族の墓を掘り返した。


 死霊術師にとって死体は新しければ新しいほど価値があり、蘇った死霊は死霊術師の魔力に比例してその力を増幅させる。


 神に近い血筋である(と、少なくとも王国内では言われている)王族の死霊は時の政権を転覆させかねないほどの大騒ぎを引き起こした。


 最終的には無事に鎮圧させられたものの、その力を恐れられた死霊術師は全員が王都から追放と言う憂き目にあった。


 そういう歴史を鑑みてか、俺はばーちゃんに死霊術師はみだりにその力を使ってはいけないと教わって生きて来た。


 使う時は、自分が正しいと思う時に使うこと。


 むろん俺は正しいことに使う気満々であり、この力を使って王都で日々の糧を得ようと思っていた。


 武に秀でた人間を求める冒険者ギルドならきっとこの力を重宝してくれるだろうし、高額な報酬を手にすることもできる。


 そう思ってわざわざここまで旅して来たのに、すっかりアテが外れてしまった。


 「……参ったなぁ、ボーンズ。これからどうしよう」


 目の前のボーンズは、困ったようにカカカッと首を傾げる。


 空腹と疲労に悩まされていた俺は、力なく王都の路上に座り込んでいた。


 冒険者ギルドで働けないとなると、残念ながら他にアテにはない。


 どこか金持ちの家とか酒場とか、用心棒を募集してないだろうか?


 しかし残念ながらそれもダメ。


 実はここに来るまでにすでに何件か当たってみたのだが、用心棒と言う仕事自体が冒険者ギルドの管轄下にあるらしく、ギルドを介さないで話を進めることができなかった。


 そもそも死霊術師のローブを着た俺と骸骨のボーンズを見ると、ほとんどその時点でドアを閉められてしまうのだった。


 「せめて、ボーンズがもう少し可愛らしい見た目をしてくれてりゃあ……っと。悪い」 


 俺の言葉に、申し訳なさそうにボーンズが頭を下げる。


 俺は見慣れてしまっているけど、やはり初見の人間には不気味な怪物以外の何物にも映らないのだろう。


 ここにこうしているだけでも何人かが恐怖に怯えて走り去っていく。


 死霊術を知っている人間は顔を顰めて足早に去っていくし、とにかく周りから人が去る。


 ぼんやりしていたら衛兵を呼ばれてもおかしくなさそうだ。


 だけどボーンズは俺を励ましてくれる唯一の存在であり、頼りになる仲間であり、愚痴をこぼせる話し相手でもあった。


 今はなんとなく元のカケラに戻す気になれなかった。


 「なぁ、ボーンズ。俺たち金を稼がなくっちゃいけない。このままじゃ、アプルルの村にも戻れない」


 ボーンズはウンウンと頷く。


 しかし、ギルド以外で死霊術師が金を得る方法は限られている。


 「……サーカスの真似事でもやってみようか? ボーンズがやればウケるかも」


 俺が!? とでも言いたげにボーンズが驚いて自分を指さす。


 このように喋れない分ジェスチャーがとてもとても上手なので、コミュニケーションには何の問題もないのがボーンズだ。


 「でも、ボーンズにジャグラーの真似ができるか? 玉乗りは? ……やっぱムリか。そうだよなぁ。ナイフもないし、玉乗りの玉もないんだから」


 そもそも見せ物をするにも準備が必要で、俺たちには何もない。


 俺が持っているのは死霊術師の仕事道具が入ったカバンと杖だけ。


 財布は持っているが、パン一つ買う金すら残ってない。


 ボーンズは腕組みをして少し考えたのち、自分の首を外してリフティングを始めた。


 ……いや、悪いけど結構、いやかなりキモいから。


 それじゃお客さんが集まるよりも逃げてしまう。


 かといってボーンズ以上に素直で汎用性の高い死霊はいない。


 こうなったら、路上で追いはぎでもして糊口を凌ぐしかないのか……。


 ダメだ、そんなことは俺の死霊術師の誇りと、何よりばーちゃんが許さない。


 となると、俺は一体どうしたら──。


 「きゃーーーーーーッッッ!!」


 「おわッ!?」


 「誰かっっっ! 物盗りだわ、捕まえて頂戴っっっ!!」


 物思いに耽って沈んでいると、近くから突然の大きな叫び声。


 叫んだのは俺と同じ年頃のとても身なりの良い少女だった。


 そしてその少女から走って逃げる、薄汚れた格好をした男が一人。


 その手には高価そうな銀細工のネックレスが握られてある。


 ……まだ日も沈み切らない時間なのに、王都ってすごく治安が悪いんだなぁ。


 アプルルの村じゃ、ひったくりなんて考えられなかった。


 なんて事を言ってる場合じゃなさそうだ。


 俺は仕事道具の入ったカバンから、一本のキバを取り出した。


 「『ハウンド』ッ! ……あの男を追え」


 「バウッ!!!!」


 キバと言う『死者のカケラ』に魔力を与え、一匹の猟犬を具現化する。


 俺がハウンドと名付けたその犬は、命令通りにひったくりを追った。


 ハウンドはボーンズに比べれば、まだ生き物としての形を保っている。


 ただしところどころ肉が削げ落ちており、片目は腐って落ちて、腹からは内臓が飛び出している。


 やや好みが分かれる造形なのが玉に瑕だが、ハウンドは主人に忠実で、とても良いヤツだ。


 「ボーンズも一緒に追うぞ! 金にはならないけど、これが王都での初仕事だ」


 合点承知、とでも言いたげに腕を上げるボーンズ。


 がちゃがちゃと騒々しい音を立てる彼と一緒に、俺はひったくりを追った。



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