第71話 再び帝都へ
僕とカエデは帝都ツェンタームに到着した。
相変わらず、活気のある都だった。
王都セントスのような華やかさはないが、人と物が行き交う、経済の中心地なのだ。
王城の前の警備兵の詰め所でクレーヴェ公爵に取り次いでもらう。
僕らはセントレール王国の人間だし、自由に行き来できるような関係ではない。
実際、兵士には少し怪訝な表情をされた。
「これはようこそおいで下さいました」
現れたクレーヴェ公爵は汗をかいていた。
きっと忙しい中、時間を作ってくれたのだろう。
「実はいろいろと立て込んでいましてな。
ですがちょうどいい時に来て頂けたのかも知れません」
ちょうどいいと言う言葉の意味はよく分からなかった。
場内に入った僕達。
まず気になったのは、王城の脇に、布の被せられた区画があった事。
瓦礫の様なものが布の間から見え隠れしている。
「工事してるのかな?」
とカエデは言うが、作業している人間の姿は見受けられなかった。
クレーヴェ公爵は知ってか知らずか何も言わない。
僕らはそのまま城内に案内され、入った。
城内で整列する黒騎士団を見かける。
何となくだけど、この前の謁見の時より、多い気がする。
別に彼らがこっちを気にしている訳ではないが、落ち着かない。
以前はちょっと国境に近寄ろうものなら、集団でにらみつけられたものだ。
「これから会議なのですが、お二人にもご出席して頂きましょう。
テレジア様に関する会議です」
ウガガウの関する会議?
だからちょうどいい時期なのか。
その時だった。
「これはこれは。
穏健派のクレーヴェ公爵ではありませんか」
話しかけて来たのは、背の高い、黒い鎧を纏った中年の男性だった。
言うまでもなく黒騎士団だ。
部下とおぼしい黒騎士団を引き連れている。
赤い髪のオールバックだが、襟足は長い。
真っ赤なマントに豪華な装飾の剣。
何より眼光の鋭さが印象的だった。
「おお、ローゼンベルク公爵。
久しぶりですな。
リンクス殿、カエデ殿。
こちらはベルドリック=ローゼンベルク公爵。
黒騎士団の団長です」
黒騎士団の団長という事は軍の最高責任者か。
任地より戻ったと言う事は、戦争に行っていたのだろう。
「無事任地より戻られたと聞いて安堵しております」
「いや、皇太子殿下を守れなかった。
慚愧の念に耐えませぬ」
そう、東の大陸で皇太子が暗殺されたのだ。
「しかし、犯人は処断いたしました。
もっと厳格に統治しなければ」
「陛下は大陸の領地は解放すると、すでにお考えを述べられておりますぞ」
クレーヴェ公爵の不機嫌そうな声が聞こえる。
「そもそも皇帝陛下は、殿下の視察も必要ないと仰せられていたのです」
眉間に皺を寄せて、ローゼンベルク公爵をにらむクレーヴェ公爵。
「視察は皇太子殿下のご意向でありました。
なまじ和平路線の話なぞするから、兵達の気も緩んだのでは?」
平然とにらみ返すローゼンベルク公爵。
全く動じてはいない。
これが和平派と交戦派の対立という事なのだろう。
「失礼、これから陛下に呼ばれております故」
「我らも兵達を休ませねばなりませぬ、では」
でも、それ以上は何もなかった。
僕達とローゼンベルク公爵はすれ違い、逆方向へ。
「あれ?
クレーヴェ公爵は会議に出るんじゃなかったっけ?」
「何しろたて込んでおりましてな。わたしは会議には遅れます。
陛下も大変なのです。
戦地の部隊も帰還しましたからな」
大変なタイミングで来てしまったようだ。
黒騎士団も多ければ、団長にも出くわすはずだ。
本当に忙しいようだ。
クレーヴェ公爵の分までしっかり会議を聞いておこう。
「じゃあカエデ、僕達はまず会議に出よう」
「早くウガちゃんに会いたいけど……。
分かりました」
ウガガウへのお土産のお菓子を見ながら言うカエデ。
「会議室までの案内はいたします」
クレーヴェ公爵のあとについて行く僕達。
その時だった。
僕は視線を感じた。
ローゼンベルク公爵の後方。
鎧ではなく、貴族の服でもない、軍服の集団。
帝国軍の魔道士団だ。
軍服とは、帝国の魔道士団や軽装兵用の装備で、厚手の布で作られている。
軽装ながら防御力が高く、皮の鎧程度の防御力はある。
さらに魔法への耐性の高い素材でできている。
色は深緑、黒騎士団と判別するためらしい。
そして、腰に魔法の杖を下げていたら、魔道士団だ。
杖も軍支給の鉄製。
いざとなったらこれで格闘戦もするらしい。
その魔道士団は黒騎士団の後方に控えているのだが、一人だけがローゼンベルク公爵の傍らにいた。
顔の下半分が黒いひげに覆われた、太った男性。
その人物の僕への視線を感じたのだ。
目を細めて不敵な笑みを浮かべている。
他の黒騎士団や魔道士団は、クレーヴェ公爵に注目していた。
その中で、彼の視線は気になった。
歩き始めても、目で僕の動きを追っている。
見ているのではなく、目配せしている?
そう思っていたら、すれ違い様にその男性はつぶやいた。
「皇女に関する会議を、わざわざ陛下不在の状況で開く。
和平派の連中も分からん事をするものですなあ」
僕がビックリして振り返ると、男は笑みを絶やさずに会釈してきた。
会議が何だって?
「あ、あのローゼンベルク公爵の隣にいた魔法使いは誰ですか?」
僕は思わずクレーヴェ公爵に尋ねた。
「ああ、彼はグラム=モンテコックリ伯爵。
ローゼンベルク公爵の副官です」
「どういう人なんです?」
「優秀な魔法使いらしいですが、ここ数年で急に頭角を現しました。
35歳ですが、若い頃は何をやっていたのか……」
謎の魔法使い、グラム=モンテコックリ。
これが僕とその男の、初めての出会いだった。




