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第70話 宮殿を倒壊させるのはマナー違反と言われてももう遅いです(後編)

 宮殿の寝室で侵入者に襲われたウガガウ。


 負傷した侍女のミリーは兵士に託す事に成功した。

 しかし、ウガガウは怒りの感情を抑えきれず、バーサーカーになってしまう。


「グガアアアーーーーーッ!」


 よつんばいで咆哮するウガガウ。

 瞳の真っ赤に染まったその姿は、まるで魔物のようだった。


 侵入者は震え上がっていた。

 これではどちらが襲撃したのか分からない。


 侵入者は自分から仕掛ける事にした。

 仕掛けなければ自分がやられると判断した。


 刃物でウガガウの首を狙う。

 一撃で仕留めてしまえば、それで終わる。


 それは熟練された暗殺者の、素早い一撃だった。


 しかし、ウガガウはそれよりも早く、相手の懐に飛び込んでいた。

 体当たりで侵入者を弾き飛ばす。


 壁に激突した侵入者が我に返ると、飛びかかってくる黒い影に気付いた。

 影の正体は、大斧で飛びかかるウガガウだった。


 大斧は一応帝国にも持って来ていたが、使う機会はなく、部屋の隅に置かれていた。

 それを一瞬の内に掴み、そのまま驚異的な飛距離の一足飛びで、振りかぶったのだった。


 まさに影のようにしか見えない動きだった。


 そして、それが侵入者が最後に見た光景だった。

 一撃で侵入者は絶命した。


「ガアアアアアッ!


 ウッガアアアアアアアアアッ!」


 しかし、ウガガウの怒りは収まらなかった。

 今度は壁に大斧を何度も叩き付け、暴れていた。

 優美な絵画の描かれた壁が粉々にされる。

 隣の客室がみえると、ウガガウはそっちでも暴れ回った。


 斧を窓ガラスに投げ付けると、窓を拳で破壊し、机を蹴りで真っ二つにした。

 怒りのままに、破壊の限りを尽くして暴れた。


 それが本来のバーサーカーの姿なのだろう。

 あるいは慣れない環境で、多くの知らない人間に囲まれ、ストレスが溜まっていたのかも知れない。


 騒ぎを聞きつけ集まった兵士達も、猛獣のような咆哮に恐れをなして、近づけない。

 それでも意を決して皇女の救出に向かおうとした時、轟音と共に宮殿が倒壊した。


 侍女達の悲鳴に続いて、兵士達の怒号が響く。

 必死の皇女捜索が行われた。


 捜索の結果、がれきの中からウガガウが見つかった。

 幸いにも無事だった。

 負っていた傷も、自分の破壊活動によるものだけだ。

 しかし、寝間着の着物はすっかりボロボロになってしまった。



 次の朝、ウガガウが目覚めたのは王宮の客室だった。

 手足をすりむいている事に気付いた。

 バーサーカーになる直前までの記憶はあるが、その後の事は分からない。

 分からないが、自分が理性を失い、暴れ回ったのは確実だと思った。


 ミリーは無事だろうか。


「テレジア様!」


 マナー講師のアルドーナがやって来た。


「まあ、こんなにお怪我を!」


 アルドーナはウガガウのすりむいた手をやさしく握った。


「レッスンのために参りましたら、カンタレラ宮が破壊されていて……。

 こちらにおられると聞いて、参りました」


 カンタレラ宮が破壊された。

 小型の刃物しか持っていなかった侵入者の仕業ではないだろう。

 自分が破壊したに違いない。


「オレ、やっぱりレディにはなれそうもないぞ」


 ウガガウはうつむいて言った。


「いいのです。テレジア様がご無事なら」


 抱きしめてくれるアルドーナ。


「またいずれレッスンいたしましょう」


 さすがにこの日のレッスンは中止になった。



 その後、現れた侍女に、ミリーの事を尋ねてみた。


 命に別条はなく、今は落ち着いているようだった。

 現在は静養中と言う。


 その後、倒壊したカンタレラ宮の調査が行われたが、ウガガウが倒したはずの侵入者は、死体も凶器も見つからなかった。

 侍女のミリーが侵入者の存在を証言したが、ウガガウが勝手に暴れたと見なす声も多い。

 昼食会の奇行がどうにも悪い印象を与えてしまっていた。


 父親を元気づける目的でここに来て、マナーも身に付けようと思ったが、どうも上手くいかない。

 バーサーカーとして暴れ回り、宮殿を破壊してしまった。

 ミリーの怪我も自分のせいなのかも知れない。


 やはりバーサーカーは、レディになどなれないのではないか。


「母ちゃんに会いたいぞ……」


 ウガガウは遠く西の空を見上げながらつぶやいた。


 ◇◆◇


 その日、僕とカエデは帝国行きの馬車の中にいた。

 ヴァンパイア討伐の後、王都で馬車に乗ったのだ。

 その方がマイリスに戻るより早く帝国に到着できる。


「おみやげのお菓子、ウガちゃん気に入ってくれるかなあ?」


「王都でも評判の名店で買ったからね」


 いいお土産を用意できたのもよかった。


「そうだ!

 マッチャの魔法使おうよ」


「ウガガウが抹茶味を気に入るかは分からないよ。

 それに僕はチャージスペルからしかあの魔法が使えないから、全部抹茶味になっちゃう」


「うーん、残念」


 そんな会話をしている僕達は、帝都で起こっていた事など知る由もなかった。


 これから起こる事も。

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