第68話 「お座り」で来客を迎えるのはマナー違反と言われてももう遅いです
朝、目を覚ましたウガガウは昨日の昼食会の失敗の事を思い出した。
昼食会に動物達を呼んではいけなかったようだ。
人間達はびっくりしていたし、危うく仲間達と兵士達の間で揉め事になったかも知れなかった。
その日は侍女のミリーより前にクレーヴェ公爵が会いにきた。
「昨日はオレが悪かったぞ」
ウガガウの方から謝罪を述べる。
しかし、
「いえ、テレジア様を何の準備もなしにお連れしたわたしが悪いのです」
クレーヴェ公爵は逆に自分が悪いと言って謝罪してきた。
そして、
「そこで今日から、テレジア様にマナーのレッスンを受けて頂こうと思うのですが、いかがでしょう?」
と、レッスンの申し出があった。
「オレ、やってみるぞ」
ウガガウは即答した。
クレーヴェ公爵は、もう帰る、と言われても不思議はないと思っていたので意外に感じた。
「父ちゃん、元気か?」
続いて皇帝の容態を尋ねてくる。
どうやら父親の健康のために残ろうとしているようだった。
その健気な様にクレーヴェ公爵は涙を堪えていた。
朝食の後、早速レッスンが始った。
現れたのは長い髪を頭頂でまとめた、目つきの鋭い人物だった。
公爵家の子女であり、皇太子の教育係も勤めた女性だ。
「アルドーナと申します。
殿下にマナーのレッスンを施すように言われております」
「オレはウガガウだぞ。
よろしくだぞ」
アルドーナ先生の眉がピクリと動いた。
「オレ、頑張るからいろいろ教えて欲しいぞ」
「なるほど。それでは……。
まず一人称がレディにはふさわしくありません。
語尾の癖も。それから……」
教鞭でウガガウの足元を指して、言った。
「両足を開いて床に座り込むのも、です」
「お座り」の状態のウガガウにアルドーナ先生は言った。
こうして、ウガガウはマナー講師、アルドーナのレッスンを受ける事になった。
姿勢、歩き方、話し方、何もかも注意された。
彼女は皇女相手でも容赦なく、教鞭で打ち据えた。
厳しいレッスンだったが、ウガガウは根気よくレッスンを受けていた。
もしかしたら元々、他の人間との違いに、思う事があったのかも知れない。
レッスンが終って、夕方にはぐったりしてベッドに倒れ込んでいた。
リラックスできないドレスから、着物に着替えている。
ただし、ドレスは畳んでベッドの脇に置かれていた。
「失礼いたします、テレジア様」
侍女のミリーが入って来た。
「そのお召し物はセントレール王国のものなんですか?」
「そうだぞ」
「きれいな模様です」
「オレのお気に入りだぞ。
……じゃなくって、わたくしのお気に入りなの……です、ぞ」
まだレディは板についていなかった。
「ふふっ、わたしの前ではいつもどうりでいいんですよ」
思わず吹き出してしまうミリー。
「テレジア殿下って何だか不思議なお方です」
「でも動物は呼んじゃだめなんだぞ」
「そうですね。
でもわたしは動物、好きですよ。
それに殿下の呼んだ狼達は、なんだかかわいかったです。
人間になついてる感じがしました」
そう言えばミリーは、近づいて来た狼を手なずけていた。
「お前も動物好きなのか?」
「わたしの故郷は森の中の村なんです。
子供の狼を拾って、飼ってた事もあるんですよ。
親に言われて、大きくなる前に森に帰しましたけど」
ウガガウはミリーと話し込んだ。
ミリーはウガガウの話す原初の森の話に興味を持った。
銀狼エカテリーナの娘として育てられた事や、動物達や魔物達が友達だという事を、驚いて聞いていた。
ウガガウも、ミリーの話に興味深々だった。
帝国領の森は原初の森とは全然違った。
森の中のミリーの村に住む人々と、その周辺の動物達の話は新鮮だった。
それは、ウガガウにとっては初めての、同年代の女の子との会話だった。




