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第67話 昼食会に動物と魔物を呼び出すのはマナー違反と言われてももう遅いです

 朝、目を覚ましたウガガウはいつもと違う寝心地に気付いた。

 そして、自分が帝都にいる事を思い出した。

 天井は高く、豪華な装飾や調度品がある。

ふかふかのベッドも。


 ここは帝都ツェンターム王宮の別館、カンタレラ宮だ。


「ふー、よく寝たぞ」


 ウガガウは上半身を起こした。


「おはようございます、テレジア皇女殿下」


 扉を開け、侍女が入って来た。

 ウガガウが起きている事を確認すると、台車を転がして戻って来た。


「わたくし、侍女見習いのミリーでございます」


 背丈はウガガウと変わらないが、恐らく少し年上の少女だ。


「まずはお顔を洗って、お着替えいたしましょう。

 お手伝いいたします」


 台車に積まれた桶を使って顔を洗うと、ミリーがウガガウの顔を布で拭いた。

 その布もウガガウがかつて使った事のないほど、厚みがあって、柔らかだった。

 さらに髪も丹念にすかれた。


 その後は着替えだ。

 今日は赤いドレスだった。


 昨日脱ぎ捨てた白いドレスはもうなかった。

 早朝の内にミリーが片づけていたのかも知れない。


 朝食が運ばれて来た。


 あたたかいスープと野菜。

 肉料理も出来立てで、いい匂いがする。


 そのまま、ベッドの上で食事を済ませた。


 その後、クレーヴェ公爵がウガガウに会いに来た。


「おはようございます、テレジア殿下。

 お待たせして申し訳ありません」


「待ってないぞ」


 それどころか、目を覚ましてすぐの身支度と食事で、慌ただしさを感じたくらいだ。


「本来であれば陛下と会食して頂く所でしたが、わたくしと陛下で今後の事について話をしておりました」


「今後?」


 ウガガウは特に考えていなかった。

 父親が誰だか分かったようだから、会いに来た。

 それだけだった。


「お願いなのですが……」


 クレーヴェ公爵は改まって言った。


「少しの間、陛下のそばにいて下さいませんでしょうか?」


 ウガガウはすぐに帰るのだと思っていた。


「健康を害して、起き上がるのもままならなかった陛下が、今日は見違えるように元気になったのです。


 テレジア殿下さえよければ、もう少しここにいて頂きたい」


「うー」


 実はウガガウは初めて出会った実の父親に血の繋がりを実感していた。


 皇帝が周囲に発する威厳は、自分が森の動物達に発するものと同じだと思った。

 森の動物や魔物は、普通は人間の子供のいう事になど従わない、と銀狼に言われた事を思い出す。

 自分には持って生まれた力があるのだろうと。


 その威厳を皇帝も持っていた。


 それだけでなく、ちょっとした仕草や話し方も、自分に似ていると思った。


 そのせいかだろうか。

 会ったばかりなのに、何を知ってるはずもないのに、皇帝に惹き付けられていた。

 もっと彼の事を知りたいと思っていた。


「オレはもう少しなら構わないぞ」


 だから、ウガガウはそう答えた。


「でも、リンクスとカエデには話しておきたいぞ」


「ではお二人には手紙を送っておきましょう」


 こうしてウガガウはもうしばらく帝都に滞在する事を決めた。



 その日の昼は、皇帝と皇女の再会を祝して、昼食会となった。

 主だった重臣達が集められた。


 長テーブルには贅を尽した豪華な料理が並んでいる。


 農耕より狩猟が中心の帝国は肉料理が多い。

 初めて見るウガガウも、それらのおいしさが分かるようで、漂ういい香りに鼻を鳴らしていた。


「戦地のローゼンベルクがいないのは残念だが、主だった公爵達が集まってくれて嬉しく思う」


 立って挨拶をする皇帝には、かつての威厳が戻りつつあった。

 出席者達はその変わり様に驚いていた。


 皇女を発見したクレーヴェ公爵は感慨もひとしおだったようで、目頭を抑えている。


「改めて紹介しよう。我が娘、テレジアである」


 今度のドレスは黒だった。

 国旗に描かれた獅子の色も黒。

 黒騎士団の存在でも分かるように、帝国では黒は重要な色なのだ。


 キョロキョロするウガガウ。


「テレジアよ、楽にしてよい」


「テレジア様、緊張なさらなくていいのです。

 今日はみんなで、楽しくお食事をいたしましょう」


「そうなのか?」


「そうです。ただみんなで楽しく食事をいたしましょう」


 皇帝の言葉を受け、クレーヴェ公爵はウガガウのリラックスを促した。


 だが、それがいけなかった。


「わかったぞ!」


 立ち上がるウガガウ。


「料理なら侍女に取らせます」


 しかし、そうではなかった。

 ウガガウは椅子を蹴飛ばして、よつんばいになると、


「ワッオーーーン!」


 ウガガウは大きな声で吠えた。

 おしとやかとは言えないが、皇帝が上機嫌に笑っているので、周りは苦笑いするしかなかった。


 が、しばらくすると狼の群れが続々と席場に現れた。

 狼達はウガガウに駆け寄って来た。

 ウガガウは狼達とじゃれ合っていたが、


「みんなで楽しく食べるぞ!」


 ウガガウの合図と共に、狼達はテーブルの食べ物に殺到し、帝国最高級の肉料理を堪能した。


 狼達は人間を襲ったりはせず、ウガガウの躾は奇跡的と言ってもよかった。

 ただ食事のマナーとしては壊滅的だった。


 もちろん、参加者は大混乱に陥った。

 料理は食い散らかされ、高価なグラスや皿が転がったり、落下したりして破壊された。


 そこにさらにワイバーンのギャオスが滑空して来た。


 ギャオスはトドメと言わんばかりに、テーブルの食べ物を薙ぎ払った。

 もっともテーブルの向こうにいるウガガウを目指しただけで悪気はない。


 ギャオスとじゃれ合って、久しぶりの再会を喜ぶウガガウだったが、自分と森の仲間達が兵士達に取り囲まれている事に気付いた。


「何だ、お前ら?」


 再会の邪魔をされ、顔をしかめるウガガウ。

 しかし、


「よい。わしが話す」


 兵士の間を掻き分け、皇帝イサキオスが現れた。

 狼達を恐れてなどいない、堂々たる姿だった。


「お前が呼んだのか、テレジア?」


 落ち着いた静かな声だった。


「そうだぞ、オレの友達だぞ。


 楽しく食べていいんだろ?」


「確かにその通り。

 お前とその友達は楽しかろう。


 じゃが、周りを見てみるのじゃ」


 辺りを見回すウガガウ。


 散乱する食べ物と食器類。


 兵士達の囲みの向こうでは、重臣達が怪訝な表情をしていた。

 侍女達も同様で、泣いてる者までいた。


 ただ一人、ウガガウのお付き侍女見習い、ミリーは、狼の喉をくすぐってかわいがっていた。


「わしも戦場を飛び回っていた身じゃ。

 いつでも作法を守ってきた訳ではない。


 しかし、周りに迷惑をかけてはならぬ。

 食べ物も、食器も。この昼食会も、用意してくれた者達がおる」


 ウガガウも周りの惨状にようやく気付いた。


「動物達に罪があるとは言わぬが、ここに呼んではならぬ。よいな?」


「わ……分かったぞ……」


 ウガガウが合図をすると、狼達もギャオスも帰って行った。

 兵士達と動物達の間で戦闘になるのは回避できた。


 昼食会は中断となり、ウガガウはカンタレラ宮に戻る事になった。


 ◇◆◇


 さて、その昼食会の直後だが、クレーヴェ公爵は皇帝イサキオスに呼び出された。


「テ、テレジア殿下は長らく森で生活されておりまして、礼儀作法はこれから……」


 またもや顔を真っ赤にして釈明する公爵。


「よい、マンフレート」


 片手を上げてそれを制止する皇帝。


「それよりテレジアをアルドーナに指導させてはどうじゃ?」


「アルドーナ殿……。


 皇太子殿下の教育係だったあのアルドーナ殿ですか?」


「うむ。

 厳しい奴じゃが、礼儀作法を教えるなら最高の人材とは思わぬか?」


「ふーむ、なるほど……。

 いや、確かに。


 ではそのように手配いたしましょう」


 玉座の間を退出するクレーヴェ公爵。


 バーサーカー令嬢のマナーレッスンが始ろうとしていた。

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