第58話 新たな依頼
ウガガウの正体はノルドステン帝国皇帝の娘、テレジアだった。
荷物をまとめて帝国へ旅立つ事になったウガガウ。
荷物はそれほど多くない。
しかし、一緒に住んでいたカエデはいろいろ心配になってしまったようだ。
「着物はちゃんと持った?
毎朝顔を洗うんだよ!
お風呂が大きくても泳いじゃダメ!」
「分かってるぞ」
不機嫌に言い返したウガガウ。
でも、カエデに抱きしめられると、自分もカエデの背中に手を回していた。
「身体に気を付けてね」
「分かってるぞ……」
何だかんだで、ウガガウはカエデに懐いているんだな、と思った。
「またいつでもおいで」
僕は笑顔でそう言って送り出した。
「ああ!
またな! カエデ、リンクス」
帝国からの馬車に乗るウガガウ。
その姿は、凛とした堂々たる姿だった。
以前、カエデがウガガウの事を、「高貴な顔立ち」と言った事がある。
やはり彼女には持って生まれた風格のようなものがあるようだ。
その日、僕とカエデは馬車が見えなくなるまで見送っていた。
さて、ウガガウと別れたあとの僕達だが、かなりテンションが下がっていた。
次の日、ギルドに行こうと思い、カエデを迎えにいったら、髪も縛ってない、寝ぐせも直してない状態で現れた。
「今日は休業でもいい?」
まあ原初の森から戻ったばかりだし、それ以前もいろいろあった。
休業にする事自体に文句はない。
それでも、ウガガウのパーティ登録の件で、イネスさんには話を通しておこうと思った。
僕とカエデだけでは手に負えない依頼だってあるかも知れない。
と、言う訳で久しぶりに港町マイリスの冒険者ギルドへ。
「お待ちしておりましたぞ! リンクス殿!」
と、赤い眼鏡とおかっぱ頭の、ギルド受付のイネスさん。
相変わらずの元気な声だ。
「おや、今日はおひとりですか?」
「ええ、実は……」
僕は、ウガガウの不在について説明した。
ただし、事情を公にしていいのかどうか分からないので、とりあえず帰郷した事にしておいた。
「なるほど。ウガガウ殿はおられませんか」
「カエデも今日はお休みです」
「ふーむ。そうでありますか……」
ごく事務的な手続きの話をしただけのつもりだったが、意外とイネスさんは思案顔だ。
「どうかしました? イネスさん」
「実はですね、リンクス殿のパーティを名指しで、救援依頼が来ているのです」
僕達を名指し?
そう言えばさっき、「お待ちしておりましたぞ!」って言ってたっけ?
「ドラゴンマスター、ファフニル相手では大活躍だったですからな!
Cランク冒険者ともなれば、このような事もあるのですぞ!」
ファフニル戦の働きを聞いての依頼という事なのか。
「でも、一体誰が?」
「それなら、ほら。
あちらの席に」
イネスさんが冒険者の待合所を指差す。
その人物を僕は知っていた。
仮に知らなかったとしても、その姿がまっさきに目に留まった事だろう。
赤い全身鎧で武装した屈強な男性。
背中には大きな斧を担いでいる。
兜を机の上に置いていて、短い黒髪と髭を生やした顔が見える。
鋭い目つきの強面の人物だ。
そのただならぬ屈強さと威圧的な雰囲気で、他の冒険者は敬遠して距離を置いている。
「よう、小僧。待っていたぜ」
男性もこちらに気付いた。
「依頼されたのは、戦士ガレス殿です」
それは先日、魔王を倒した勇者一行の戦士、ガレスさんだった。




