第57話 ウガガウとの別れ
ウガガウの故郷、原初の森に向かった僕達は、クレーヴェ公爵率いる帝国黒騎士団と遭遇した。
その後は一緒に、銀狼エカテリーナの元を目指した。
それにしてもウガガウが皇女?
そして、テレジアと言うのがウガガウの本名なのか?
「彼女の持つ指輪が気になっていたのです」
そう言えば確かに、クレーヴェ公爵は、ウガガウの指輪を気にかけていた。
「あの指輪に刻まれた文様は、森にすむ魔女達の祝福を願うもの。
ノルドステン帝国は光明教が中心なので、あの模様が使われる事は少ない。
あれは帝国の前身、ツェンターム大公国時代のものなのです」
そう言えば、以前もそんな事を言っていた。
「そして、その後の調査で、陛下が十二年前に子供をもうけていた事が明らかになりました。
母親は帝国がツェンターム大公国だった頃の、陛下にとっては幼馴染のようなお方。
指輪は陛下が子供が生まれる前に作ったもの。
母親が亡くなった時に子供も一緒に亡くなったと聞かされていたようです。
あの指輪の意匠はそう見かけるものではないと思い、調べていました」
そんな事があったとは。
皇帝イサキオスがウガガウの父親だった。
しかし、そうなると気になる事がある。
「皇太子が亡くなったから、迎えに来たんですか?」
王位継承者だから、今そのテレジア皇女を担ぎ出そうと言うのか。
「確かに現在、陛下には他に子供がいないので、後継者が誰になるのかで帝国は揺れています。
しかし、テレジア皇女を後継者争いに巻き込む事が目的ではありません。
衰弱された陛下を何とか元気付けたいのです」
クレーヴェ公爵の事は信用しているが、やはりここはエカテリーナさんの話も聞きたい。
ウガガウの出生の秘密についての話も聞いてみたい。
黒騎士団の人達と一緒に森を進む。
一時、狼の群れが近くに現れる事もあったが、ウガガウの姿を見ると去って行った。
僕らはほどなく銀狼エカテリーナの元に会辿り着いた。
恐る恐るエカテリーナさんの前に出るクレーヴェ公爵。
「恐れる必要はありません。
事情の察しは付いています。
ウガガウの指輪の事ですね」
エカテリーナさんも、あの指輪の文様が高貴な出自を示唆している事に、気付いていたようだった。
「それは赤子のウガガウを森で見つけた時に持っていたものです」
「じゃあテレジアって……」
「ええ、本名でしょうね」
「だったら何でウガガウなんて名前で?」
僕は思わずそれが気になってしまった。
「最初はテレジアと教えましたが、この子がウガガウとしか発音できなかったのです」
それがいつの間にか定着したのか。
テレジアとウガガウ。
似ているような、似ていないような、微妙な感じだが、文字数は一緒だ。
「わたしの発見した母親の日記によると、彼女は皇位を継がせたくなかったようです。
戦争の道を歩む事をさせたくなかったのでしょう」
クレーヴェ公爵は語る。
帝国の前身、ツェンターム大公国時代の恋人と再会した時の子供か。
帝国の成立を快く思っていなかったのだろう。
それが一度は別れた原因なのかも知れない。
「ある日、自分の余命が短い事を知ってしまった。
そして、娘を戦乱に巻き込みたくないので、原初の森の銀狼の目の届く所に置いたのだと」
「帝国に関わらせまいとした子供を担ぎ上げると言うのは、いい趣味とは思えませんね」
少し不機嫌なエカテリーナさん。
「返す言葉もありません」
クレーヴェ公爵は冷ややかな視線を受けながら、申し訳なさそうに言った。
「ですがわたしは、わたしが偶然にテレジア様と出会った事も運命だと思ったのです」
「……まあいいでしょう。
帝国に行くのかどうかは本人が決める事です」
エカテリーナさんはそれ以上、追及しなかった。
「で、ウガ……テレジアちゃんはどうしたい?」
カエデがさっそく言い直して、尋ねる。
「うーん、父ちゃんには会ってみたいぞ」
「じゃあお父さんに会いに帝都に行ってみる?」
答えられないウガガウ。
簡単に決めろというのが無理筋だろう。
父親に会うためとは言え、いきなり、知らない人達の中に飛びこ込んで行くなんて。
ましてや、彼女一人で。
「皇帝陛下を、あなたのお父様を元気づけるためでもあります」
クレーヴェ公爵の言い分も分かる。
僕達もすでに、衰弱した皇帝の姿を見ている。
世継ぎがどうこう以前に、娘が生きていた事を知るだけで元気が出る事だろう。
「陛下が元気な内に、会って話をされては?」
「うー」
しばらく悩むウガガウ。
どの程度覚えているのか分からないが、衰弱した皇帝の姿は彼女だって見ているのだ。
その人物が実の父親だなんて、想像もしなかっただろうけど。
「じゃあ行くだけ、行ってみるぞ」
こうしてウガガウは、もといテレジア皇女は、ノルドステン帝国帝都ツェンタームに向かう事になったのだった。




