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第50話 カエデの家庭の事情

「あ奴が、アサガオがここを馬車の停留所に変えると決めたのじゃ」


「えええええーーーっ!」


 カエデの実家のポントー術の道場は門が閉ざされ、看板は外されてていた。

 お父さんの話では、カエデのお兄さんが、馬車の停留所に変えると決めたらしい。


「そんな事、どうして許可したの!?」


 声を荒げるカエデ。


「わしももう若くない。

 跡取りがいなければ道場は続けられん」


 確かにかなり老けている。

 カエデは高齢になってからの子供なのかも知れない。


「お兄ちゃんが継げばいいじゃない!」


「あ奴は継ぐ気はないと言っておる」


「そんな!

 お兄ちゃんは今、どこにいるの!?」


 カエデはお兄さんの居場所を聞くと駆け出して行く。


「カエデ、どこ行くんだー?」


「ウガガウ、一緒に行こう」


 僕達もカエデを追って、アサガオさんの元へ向かう事になった。



 道場からちょっと離れたところに、アサガオさんは住んでいた。


 建物の中に入ると、まずカウンターがあった。

 事務所のような雰囲気だ。

 壁には大陸の地図もある。

 停留所関係の仕事場なんだろうか。


 カウンターの奥の机には、座って書類の整理をしている男性が。

 着物ではなく、襟の閉じたタイプの大陸の一般的な衣服だ。


 でも、ポニーテールの黒髪はカエデにそっくり。


 顔立ちも似通っている。

 兄妹だと納得できる。


「お兄ちゃん!」


「お、カエデじゃんかー」


 カエデの声に即座に反応した。

 立ち上がって、こちらに近づいて来る。


「よく戻ってきたじゃん、カエデ」


 ノリの軽さが印象的。

 カエデのお兄さんとしても、武術の道場の家元の息子としても、意外だった。


「じゃん、じゃないわ、お兄ちゃん。

 道場を馬車の停留所にするってどういう事?!」


「言葉通りさ。

 親父は道場を閉めるって言うからね。


 土地を遊ばせておいてもしょうがないじゃん。

 だったら、有料の停留所にしてもいいかって聞いたんだ」


「伝統あるポントー術の道場を閉じちゃうなんて。


 お兄ちゃんが道場を継げばいいじゃない」


「おれも最初はそう言ったさ。


 でも『妹に負けるような腑抜けには継がせん』って言うからさあ。

 じゃあいいんじゃないのって、思うじゃん」


 とにかくノリの軽さが目に付くが、気になる情報もあった。


 この二人は勝負をした事があるのだろうか。

 そして、カエデが勝った?


「お父さんは、お兄ちゃんは継ぐ気がないって言ってたのに」


「もうないよ。それは間違いない」


「お父さんはお兄ちゃんの、本当の強さを知らないの。


 そうだわ。


 お兄ちゃんがお父さんとの勝負に勝てば。

 そうしよう。お兄ちゃん」


「もういいんじゃないかなあ、カエデ」


 広げた片手を出して、制止するアサガオさん。


「平和になったら、王国と帝国を行き来する人も増えるじゃん。

 この村は両国の間のいい位置にあるんだ。


 停留所は絶対、儲かるって」


 親指と人差し指で丸を描いて、にっこり笑うアサガオさん。


「全く! お父さんのせいじゃない!」


 一方のカエデは愕然とした表情になると、黙って走り去って行ってしまった。


「カエデ、もう行くのかー」


「僕達も行こう」


 僕はウガガウの手を引き、カエデの後を追った。



 道場に戻ったカエデ。

 木の床をドタドタと走る音がする。


「お父さんが、継がせないって言ってたって聞いたわ!」


 まっすぐお父さんの元へ。


「うむ、その通りじゃ。

 次期道場主を決める試合に勝ったのはカエデ、お主じゃ。


 継ぐならお前。あ奴ではない」


 次期道場主を決める試合というのは、カエデからは聞いた事がなかった。


「道場を守りたいと言うなら、カエデ! お前が道場主になるのじゃ!」


 僕はカエデが冒険者になる以前の事をよく知らない。

 しかし、それはなかなかに複雑な事情のようだった。

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