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第43話 容疑者リンクス=リーグル

 起きてこない宿泊客。

 部屋が内側から鍵がかけられていたので、僕のアンロックの魔法で部屋に入る。


 その人は殺されていた。

 グラビティの魔法による圧死だった。


 何故か僕は犯人として捕まってしまった。

 騎士団に連行され、旅館の一室に閉じ込められる。


「見張りを配置するが、怪しい真似をすれば監禁するぞ」


 騎士団長のヘルマンさんが鋭い眼光でにらんでくる。


 参ったな。

 皇帝と謁見しなきゃなのに、こんなところで時間を食ってる場合じゃない。

 部屋をうろうろしていると、外から声が。


「お待ちいただきたい」


 エーメさんの声だ。


「リンクス氏はセントレール国王の命を受けて旅をしている。

 殺人事件を起こす必然性がない」


 ヘルマンさんを説得してくれているようだ。


「現状で一番怪しいのは奴だ!


 これは密室殺人なのだ。

 あいつは魔法で鍵を開けられるんだぞ!」


「ここにいる全員の素性を確認する必要があります。


 扱いが不当ならば国際問題になりますよ」


 エーメさんが頑張ってくれている。

 整然と話を進める様は、さすが使節を任されるだけはある。


「そんな事は分かっておる!


 今、乗客や従業員の身柄を部下に抑えさせている。

 もちろん全員を取り調べる予定だ」


 ヘルマンさんも即座に僕を犯人にする訳ではなさそうだ。

 ならば潔白を証明する機会はあるだろう。


 旅館入口の大広間に乗客全員が集められた。

 僕に関してはは左右を騎士団に囲まれ、連行される形だ。


「みなさん、ご承知でしょうが、夕べ宿泊客のヘックラーさんが殺害されました」



 ヘルマンさんの発表にみんな、ざわついているが、驚いている風ではない。

 実際、事件は周知の事なのだろう。


「従業員に関しては、ほとんどが昨日の夜は帰宅している。

 当直のものに関してもお互いにアリバイがある。つまり……」


 疑われているのは宿泊客になるようだ。


 大広間には全ての宿泊客が集められていた。


 まずは王国の外務大臣、エーメさん。


 僕の連れのサムライのカエデ。


 同じくバーサーカー少女。ウガガウ。


 旅の老婦人。


 目の不自由な女性。


 年老いた公爵。


 この中の誰かが殺人事件の犯人なのだろうか。



「わたしはセントレール王国の外務大臣です」


 まずはエーメさん。


「わたしは帝都を目指して旅をしています。

 そして、リンクス氏、カエデ氏、ウガガウ氏はわたしの護衛の冒険者です」


「昨日の夜は何をされてましたか?」


「一人で書類仕事をしておりました」


 ヘルマンさんは無表情にうなずいた。


 恐らくエーメさんを怪しんではいないのだろう。



 そして、


「わたしは冒険者のカエデです。

 昨日の夜はウガガウちゃんと一緒に寝てました」


「深夜に何か物音はしませんでしたか?」


「分かりません。

 お風呂でウガガウちゃんが泳ごうとするのを捕まえてたら、疲れちゃって。

 朝までグッスリでした」


「オレもグッスリだったぞ」


「風呂で泳ぐのはマナー違反ですな。

 まあ、殺人事件ほどではありませんが」


 この二人はもちろん犯人ではない。

 ヘルマンさんも怪しんではいないようだ。



「あなたはなぜここに?」


 次にヘルマンさんが話しかけたのは老婦人だった。

 ウガガウにアメ玉をくれた


「あたしゃ、ハンナ=ハレーニナ。

 この温泉には湯治に来たのさね」


 ウガガウにアメをくれた婦人だ。


「その少年が悪い事なんてしないと思うねえ」


 僕を擁護してくれる婦人。


「昨日だって、ガラの悪い客に絡まれている子供を守っていたんだよ」


 そう、僕は昨日、ガラの悪い客からウガガウを守った。


「ガラの悪い客……?

 誰です、それは?」


 ヘルマンさんは僕とハンナさんに説明を求めてきた。

 僕らは昨日のもめ事の件について話した。

 しかし、


「何だって! 被害者と口論になっていた!?」


 ガラの悪い客が被害者だった。


「いや、僕は何も言ってません」


 言いそうにはなったけど。


「あいつをこう、キリっとにらみつけて。

 かっこよかったよ!」


「ほう。被害者を、かっこよく、にらみつけていた……」


 ハンナさんは僕を褒めている。

 しかし、それによって、ヘルマンさんはますます僕への疑いを深めた。


「ハンナさん、あなたは魔法は使えますか?」


「使えないよ。使ってみたいもんだねえ」




 次は杖をついた若い女性。

 目の見えないルキアさんだ。


「わたしはルキア=リュッタースです」


「どうぞ座ったままで構いませんよ」


 よろよろと立ち上がろうとするルキアさんをヘルマンさんは制止した。


「わたしは今は帝都に住んでますが、このジューデンに住んでいた事があるんです。

 温泉が懐かしくて、たまに来るんです」


 静かに淡々と話すルキアさん。


「昨日、被害者の方にぶつかられました。

 怖い人だな、と思いました。


 その時、リンクスさんには助けて頂いて。

 リンクスさんはやさしい人だと思います」


 僕の人となりを褒めてくれているようだ。


「魔法使いだって聞いて。


 だから鍵開けの魔法も使えるかなって、聞いてみたんです」


「ほう、鍵開けの魔法を」


 うなずいて聞いているヘルマンさん。


「あなたは魔法は使えないんですね」


「ええ、もちろんです」


 使えないから僕に使用を促したんだろう。


 うなずくヘルマンさん。

 目の見えないルキアさんは怪しくないだろう。



「これはクレーヴェ公爵様」


 次は、きらびやかな貴族の礼服を身に付けた、白髪の初老の紳士。

 恰幅のいい男性だ。


「わたしが彼と待ち合わせをしておりました」


「そうでしたか。クレーヴェ様のお知り合いでしたか」


 ヘルマンさんはこの人には何だか腰が低い。


「公爵であらせられるクレーヴェ様がこのようなへんぴな町においでと言うのが不思議でしたが」


 公爵と言えば最高の爵位。

 帝国成立以前の小国の王やその子息達からなる豪族達。

 それぞれの領地を基盤に持つ、実力者の集まりだ。


「ヘックラー殿から宝石を買い取る約束でした。


 タンザナイトのネックレスです」


「宝石にご興味が?」


「そうではないが、ヘックラー殿から買い取りを頼まれていたのです。

 昨日、宝石を見せて頂き、こちらで鑑定しました。

 今日、代金を支払う予定だったのです」


「ではその宝石は?」


「ヘックラー殿が金庫で保管なさっているはずです」


「そのような報告はあったかな?」


 ヘルマンさんが部下の騎士に耳打ちすると、その騎士の人は席を外した。

ヘックラーの部屋を見に行ったのだろう。


 すぐに部下の人は駆けて戻って来た。


「何と!」


 報告を受けたヘルマンさんは狼狽している。


「現場には溶かされた鉄製の小箱がありましたが、中身は(から)でした。


 そして、ヘックラー殿の部屋から宝石のネックレスは見つかっておりません。

 つまり……」


 一同がヘルマンさんの言葉に注目する。


「ヘックラー殿はこの宝石を狙った者に殺された可能性がある」


 強盗殺人という事か。


「しかし、溶かされたと言うのが奇妙だ」


「魔法でしょうね」


 僕は推理した。


「解呪魔法対策された金庫を開けるなら、炎の魔法を使うしかありません」


「リンクス殿は炎の魔法は?」


「使えます。


 ファイヤーボールは使えませんけど、パイロの魔法なら使えます」


「あなたにはあの箱を破壊する事ができた、という事ですな」


「う……」


 ますます僕は疑惑を深めてしまったようだ。


「ま、魔法を使えるのが僕だけとは限りません」


「他に魔法を使える人間はいない」


 ヘルマンさんは僕の方を見て言った。


「で、でも僕には動機がありません」


「お前は昨日、被害者と口論していたそうじゃないか」


「そ、それは……。

 でもあんな事で殺したりしませんよ」


「宝石がなくなっている。

 それが欲しいくなったんだろう!」


 ヘルマンさんはとにかく僕が犯人と思っている。


「魔法が使えないのは自己申告だし、本当は使える人がいるかも」


「何だって?」


「僕のライブラリでは証拠にならないなら、第三者のライブラリ使いを探して下さい」


 これはいいアイデアと思ったのだが、


「必要ない。お前が犯人だ」


 と、つっぱねられた。


「宝石を見つけるまでは捕縛は保留する。


 ありかを言うなら、減刑に応じるぞ」


 そんな事を言われてもありかなんか分からない。


 しかし、このままでは本当に犯人にされてしまう。

 大変な事になってしまった。

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