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第42話 密室殺人事件

 次の日の朝、あまり明るくないな、と思ったら、窓の外は曇っていた。

 僕はまず空腹が気になった。


 知らない土地のご飯が楽しみだ。

 王国より食べ物はおいしくないと言われているけど、肉料理なんかはかなりおいしい。

 僕は幼少期は帝国に住んでいたので、その記憶がおぼろ気にあるのだ。


 しかし、食堂に向かおうと思ったら、ある部屋の前で旅館の従業員が集まっていた。


 人だかりの少し手前に、壁に寄りかかったルキアさん。

 杖を持った彼女は目が見えない。

 食堂に近づけないでいるのだろう。


「何があったんです?」


「なかなか起きて来ないお客さんがいるみたいなんです。

 知り合いの人が、約束の時間になっても現れないとかで、宿の人を呼んで。

 騒ぎになってるみたいです」


 従業員に交じって、豪華な礼服の老紳士が。

 昨日見かけた、公爵と呼ばれていた人物だ。


 約束とはこの人とだろう。


「部屋には内側から鍵がかけられているみたいで、開けられないんです」


 そりゃあ鍵くらいはかけるか。


「リンクスさん、魔法使いですよね。

鍵開けの魔法は使えませんか?」


「アンロックですね。使えます」


 何しろ僕は習得魔法だけは多いのだ。

 人だかりに近づいて行く僕。

 ここは僕の出番だと思った。


「よかったらアンロックの魔法で開けましょうか?」


「おお、魔法使いの方ですか」


 従業員の人に話し、部屋の前へ。


 僕は両手の拳を握りしめた。


 まずは左手を開き、前に突き出す。


「マジックバリ……!」


 そして、次に右手を広げ、突き出す!


「アンロック!」


 自分に魔法の障壁をかけつつ、目の前の扉に開錠の魔法をかける。

 魔法の罠のかけられた扉なら、極めて有効な連続魔法だ。

 今回はあくまでしりとりにするためだけど。


 扉からカチッと音が鳴ると、ノブが自動で動き、扉が外に動いていく。


「おお、開いたぞ!」


 従業員達から歓声が上がる。


「ヘックラーさん!」


 老紳士が入って行き、その後で従業員の人達も中へ。


「な、何だこれは!」


「大変だ。騎士団に連絡するんだ!」


 悲鳴とどよめきが聞こえて来る。


 僕も急いで部屋の中へ。


 宿泊客はベッドの上にちゃんといた。

 ただし、シーツを流した血で真っ赤に染めて。


 詳しい状況の分析はジューデンの町の騎士団に任せる事になって、殺害現場は誰も触らない事になった。


 どんどん宿泊客や従業員が集まって来る。


「なにがあったんです? リンクス!」


「リンクス、どうかしたのかー?」


 カエデもウガガウも。


 そして、目の見えないルキアさんや、ウガガウにアメをくれた老婦人も。

 気が付いたのは、昨日ウガガウにぶつかって怒鳴られた、小太りの中年男性はいなかった事だ。


「ヘックラーさん、なぜこんな事に……」


 そして、愕然としている老紳士。


 被害者をよく見てみる。

 どうやらあの時の中年男性が被害者だった。

 彼の名前がヘックラーさんと言うようだ。


「はい、皆さん。失礼、道を開けて下さい」


 男性の声が聞こえてくる。

 一人の礼服を着た中年男性と、鎧を付けた騎士団の人達が入って来た。


 男性の眼光の鋭さが目に付いた。

 射貫くような目で僕を含めた全員を一瞥している。


「わたしはこの街の騎士団長のヘルマンです。

 下がってください」


 部屋から出される僕ら。

 でも、自室に帰る気にもなれない。

 ヘルマンさん達の状況確認を見守る。


「この状況は一体……。

 どんな殺され方をしたと言うんだ?」


 特徴的なのはベッドに身体がめり込んでいた事だった。

 そして、ベッドの脚が折れていた。


 掛け布団によって、具体的に身体がどんなダメージを受けているのかは、分からない。

 しかし、上方からの圧力によって殺害されたように見える。


 でも、僕は心当たりがあった。


「これはグラビティの魔法ですね。

 重力波で殺されてます」


 よく見るとシーツのへこみ具合から円形に力を加えられている事が分かる。

 何かで抑えつけたのではなく、魔法を用いたのだろう。


「お詳しいですね」


 ヘルマンさんが近づいて来た。


「グラビティの魔法は得意なんです。

 よく使います。


 だから間違いありません。

 グラビティの魔法です」


「……グラビティの魔法が得意、ね。

 失礼ですがあなたは?」


「リンクス=リーグルです。

 魔法使いなんです」


「なるほど。それで詳しいんですね。


 しかし、この密室はどうやって。

 内側から鍵を掛けられていたのに」


 遺体の方へ戻ろうとするヘルマンさん。


 確かに謎だ。

 誰かが侵入したなら鍵は開いているはず。


 これは密室殺人だ。


「ロックの魔法でも使えなければ、こんな事はできない。」


「アンロックを使った魔法使いはあなたなんですよね?」


 僕がつぶやくと、ヘルマンさんはこっちに来た。


「はい、鍵が開かないって騒いでたんで」


「……ところであなたはそのロックの魔法は使えますか?」


「はい。使えます。

 僕は使える魔法の種類だけは多いんです」


 ここで僕はヘルマンさんに腕をつかまれた。


「お前を拘束する!」


「えっ!?」


「話をじっくり聞かせてもらおうか」


「え? なんでですか?」


「何言ってる!


 鍵が開け閉めできて、グラビティが得意魔法だと?!


 そんな奴がいるか!

 お前が犯人だろう!」


「ええーーーっ!」


 こうして僕は殺人事件の容疑者にされてしまったのだった。

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