第40話 Cランク冒険者の戦い(後編)
馬車を襲うゾンビトロールを撃破した僕達。
しかし、森から新たな影が。
黒い闇に浮かぶ骸骨。
リッチだ。
リッチは高い魔力を誇る強力な魔物だ。
勇者に倒された魔王、ティフォン。
その四天王の内、最初に倒された一体、ゾンビマスターロメロはこのリッチだった。
リッチはこちらに電撃を発射して攻撃してきた。
ライトニングの魔法だ。
実体を持たないのに、強力な魔法攻撃を繰り出す難敵だ。
「モミジ!」
「分かってまさあ」
モミジは目を閉じた。
「粋だねえ」
すると、ふんぞり返っていたのが前傾姿勢になる。
そして、目を開けると周囲をキョロキョロしている。
カエデの人格に戻ったのだ。
「カエデ! 魔封剣だ!」
「はい!」
僕がリッチを指差すと、カエデはすべてを察した。
ポントーを抜くと、僕の方にかざす。
僕はすかさず両手の拳を握る。
「ディバインレインシュレーター!」
そして、カエデに向かって両手を広げる。
しりとり魔法の二つの光がカエデのポントーの刀身に吸い込まれる。
「えっと、インシュレーターって何です?」
その状態でカエデは動きを止めた。
「絶縁体の属性になる。
電撃が効かなくなる魔法だ」
あまり使わない魔法だが、いい機会なので使ってみたのだ。
「じゃあ……、聖光絶縁剣!」
魔法の輝きが刀身全体を包む。
魔法の力を宿した魔封剣の完成だ。
「カエデ! 危ないぞ!」
リッチはカエデを危険と判断して、ライトニングの魔法攻撃。
魔封剣を作る際の隙を狙った攻撃だが、カエデはとっさに回避。
素早い動きで一発、二発とかわすが、三発目がかわし入れない。
電撃がカエデに迫る。
「大丈夫!その剣なら防げる!」
「くっ!」
ポントーを前にかざすカエデ。
すると電撃は刀身で弾かれるようにかき消えた。
「本当! すごい!」
インシュレーターの魔法の力だ。
そして、
「だったら、ここで決める!」
そのまま、突進したカエデは、リッチを逆袈裟に切り裂いた。
恐ろしい断末魔の雄叫びを上げ、雲散霧消するリッチ。
「ご苦労様、カエデ」
ポントーに魔法の力を宿す魔封剣はモミジには使えない。
生身の敵を相手にすると躊躇してしまうカエデだが、死霊リッチにはその剣技を惜しみなく振るったのだった。
「さあ、戻ろう」
と、言ったところでウガガウが立ったまま、ぼーっとしているのを見つける。
「レベル上がってないぞー」
「ああ、最近ウガちゃんにステータスウィンドウの使い方を教えてるんです」
よく見るとウガガウは目をパチパチさせている。
ステータスウィンドウは、能力を数値化し、習得スキル、習得魔法を言語化して表示する便利なものだ。
ただし、本人にしか見えない。
そして、まばたきでウィンドウの切り替えをする。
ちなみに古代文明を研究してる、僕の父親は、ステータスウィンドウの事を「網膜投影型ディスプレイ」と呼ぶ。
古代文明の科学の産物だと言う話だが、僕の父親だけが言っている事だ。
「読み書きステータスウィンドウ」と言う言葉もあり、みんな子供の内に使い方を身に付ける。
しかし、野生児のウガガウはその訓練をしてこなかった。
読み書きの訓練は苦戦中だが、ステータスウィンドウは感覚的なものなので、覚えつつあるみたいだ。
「色が上手く変えられないぞ」
ステータスウィンドウは枠や文字板の色を変えられる。
ちなみに僕は灰色の枠と、透明度のある青い板だ。
色のカスタマイズは、慣れれば無意識にできるが、コツをつかむまでが大変だ。
「緑色ばっかだぞ」
森で育ったウガガウの頭の中には緑系の色が多くインプットされているのだろう。
でも他の色も見た事があるし、使えるはずだ。
「あとで一緒に勉強しようね、ウガちゃん」
「分かったぞ、カエデ」
大斧を拾って歩き出すウガガウ。
僕らは無事に魔物の群れを退けた。
「よいチームワークですね」
馬車に戻るとエーメさんが感心してくれた。
「それにリンクス氏の魔法です。
かなり特徴的ですね」
食い入るように戦闘を観察していたエーメさんだったが、やはりしりとりとり魔法は気になったみたいだ。
そう思って、
「ああ、あれはしりとり魔法と言って……」
と、言おうとしたが、
「それは国王より聞いてます」
と遮られる。
「それよりトランキライザーの魔法です」
僕がウガガウにかけたチルアウトランキライザーの話だったようだ。
この魔法に食い付いて来る人は珍しい。
「科学物質に関する魔法。
それは失われた古代文明に由来する、古代魔法なのです」
そうなんだ。
魔法が何に由来しているかなんて、考えた事がなかった。
でも、そう言えばトランキライザーの魔法を使う人は他に知らないなあ。
「僕のお父さんは古代文明を研究しているんです」
でも父には魔法使いの才能はない。
トランキライザーも使わない。
と言うより、父が魔法を使うのは見た事がない。
「魔法の才を持つあなたに、古代文明の知識を与えていた事が、原因かも知れません」
「エーメさんも古代文明に詳しいんですか?」
「詳しいというほどではありません。
ただ遺跡の話は最近よく聞くのですよ」
「最近? 古代文明の話をですか?」
「おっと余計な話をしました」
エーメさんは眼鏡を直して言った。
僕としても別に突き詰めたい話ではない。
「さあ、今日泊る旅館はもうすぐです。」
僕達は一つの町の旅館に泊まる予定になっていた。
しかし、そのジューデンの町で、僕達は事件に遭遇する事になる。




