第38話 外務大臣エーメ
「お前の父親は、東の大陸への侵攻に反対して国を追われた、レイナード=リーグル博士だ」
国王ラウール三世の指摘は事実だった。
「リーグルと言う苗字は、小耳に挟んだ事がある。
南の孤島の、シャオンス村まで逃げていたとはな」
僕は四才まで帝都に住んでいた。
その時の事はほとんど覚えていない。
だから実際は土地勘はない。
「父親は帝国建国までの戦争は必要悪と我慢していました。
でも、他の大陸まで攻める事になってからは、皇帝を批判するようになりました。
そして、追放されました」
大人の世界で何が起こっていたのか、子供の僕には分からなかった。
「結局、その戦争によって帝国はさらなる発展を遂げました。
父親は笑い者になっていたみたいです」
「今は独立戦争が起こっている。
博士の見立ても間違ってはいない」
「そうですね」
政治や戦争に関して、何が正しくて何が間違いとは、一概には言えない。
「父はよく『帝国主義と経済が結び付けば、そう簡単に切り返しはできない』と言っていました。
実際に、今の帝国はその状況になっています」
「うむ。
やはりお前の父親は面白そうな人物だな。
帝国で学問を積んだ博士には興味がある」
てっきり僕はスパイ活動等でも疑われていると思った。
王様は父の考えもよく分かってくれているみたいだ。
「いずれはレイナード博士をこの王都に招いて、話をしてみたいものよ」
「あ。父は光明教とも折り合いが悪いからマズイです」
以前、父は「勇者の剣が痛まないのはナノマシンコーティングされているからだ」という学説を発表した。
そして「神の奇跡を疑うのか!」と言われて処刑されかけた。
王都にはセントレール大聖堂がある。
光明教の総本山とも言うべき場所だ。
父は来たがらないだろう。
「そうか。なかなか難しいものだな」
苦笑する王様。
と、ここで部屋をノックする音がした。
「入るがよい」
王様の声と共に、僕を通してくれた騎士が現れ、その後ろから一人の人物が現れた。
黒い短髪の男性。
王様と近い年齢に見える。おそらく30代前半。
眼鏡を掛けている。
豪奢な礼服に身を包んでいる。
「初めまして、外務大臣のエーメです」
丁重にお辞儀をされたが、顔はニコリともしていない。
「不愛想な奴だが、仕事はできる奴だ。
このエーメが使節だ。
お前達には彼の護衛を務めてもらいたい。
エーメよ。
彼がリンクス=リーグル。
ルナテラスお墨付きの、若き冒険者だ」
「そうですか」
かすかに表情が動いた。
「よろしくお願いいたします」
やはり無表情。
眼鏡の位置をクイっと直しているが考えは読めない。
何だか怖い。
とにかくこの人を帝都ツェンタームまで連れて行くのが依頼だ。
この後、僕とエーメさんは、カエデとウガガウに合流。
旅の準備を整え、翌日帝都に向けて出発した。
馬車に揺られて帝都、ツェンタームを目指す。
石畳の街道はあるのだが、両国の関係がよくないせいか、整備はよくない。
馬車はゆっくり進む。
かくして、僕らは国境へ。
国境には壁などはないが、物見櫓には見張りがいる。
王国と帝国、それぞれの見張りの所で、エーメさんが王様の直筆の書状を渡し、通してもらう。
そこから先は帝国領だ。
平野の多いセントレールと違い、帝国領は湿地や森が多かった。
帝国は生産力で王国に劣っている。
「でもやっぱり馬車は早いですね」
「楽ちんだぞ」
カエデとウガガウは馬車は初めてのようだ。
二人とも目を白黒させながら乗っている。
僕も必要がなければ乗らないけどね。
しばらく進むと、森の方からズシンズシンと大きな足音が。
外を見てみると、四体もの巨大な姿がこちらに近付いて来ていた。
森の中から現れたのは、巨大な鬼だった。
背丈も人間の二倍あるが、太っている。
人間一人分はありそうなこん棒を片手で軽々と持っている。
「トロールだ!」
妖精の一種であるらしいが、かわいいとはお世辞にも言いがたい。
明らかに馬車に向かって来ている。
機敏ではないが、馬車には追いつかれそうだ。
襲いかかって来るなら迎え撃つしかない。
そのための護衛だ。
「カエデ、ウガガウ。出るよ!」
「はい!」
「分かったぞ」
こうして早速、僕らの戦いは始まったのだった。




