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第34話 想いよ届け(前編)

「はーい、お待ち下さい」


 ノックをすると、ドタドタ走る音が。

 少しして現れたのは黒のポニーテールのカエデだった。


 手にフリルの付いた青いドレスを持っている。

 本人はいつもの民族衣装の羽織もの。

 ドレスのサイズの小ささから言ってもカエデが着るのではなさそうだ。


「あ、リンクス!


 ちょうどよかった。ウガガウちゃんの普段着を買って来たんですよ」


 部屋の中に通されると、ドレスやらスカートやらリボンやらが散乱している。

 そして、中にはすでに赤いドレスを着て、棒立ちしているウガガウが。


「ほら、かわいいでしょ!」


 と、カエデは楽しそうに言うが、本人はすごく迷惑そうな顔をしている。


「これ、動きづらいぞ」


 やっぱり不満そうだ。


「ウガガウちゃん、被り物を取ったら結構顔立ちが端正って言うか、

 気品あると思うんですよ」


 そうなのかも知れないけど、それよりウガガウが眉間に皺を寄せている事の方が気になる。

 あと、ルナテラスさんはいないようだ。


「このドレスに合わせたリボンも着ければ……」


 そう言うとカエデは赤いリボンをウガガウの頭に乗せた。

 かなり大きなリボンだ。

 顎の下で結ぶ長い帯が付いている。


「こんなの邪魔だぞー!」


 帯を結ぼうとしたらついにウガガウは暴れ出した。


「この服もくすぐったいぞ!

 脱ぐぞ!」


「だ、だめよ! ウガガウちゃん!」


 スカートをたくし上げるウガガウ。

 僕は慌てて後ろを向く。


「あのさ、実はルナテラスさんに相談があるんだけど、居場所知ってる?」


 後ろを向いたまま尋ねる。


「二階のレストランバーです。お酒が飲みたいって言ってました」


 ここにいないのはかえって好都合だ。


「ありがとう。じゃあ二階に行ってみるよ」


 ウガガウが暴れている物音がしていたが、女の子の着替え中なら退出するのが正しいだろう。


「そうですか。ここで待ってても……


 あ。ウガガウちゃん、指輪してるんだね

 結構すごい模様が付いてる」


「生まれた時から持ってた奴だぞ」


「テレジアって書いてあるけど、誰?」


「知らないぞ。

 それよりごわごわしたのはもう着ないぞ!」


「えー、かわいいのに」


 二人の会話は続いていたが、僕は部屋を出た。

 カエデとウガガウ、意外と上手くやってるみたいだ。


 さて、僕はレストランバーに向かいながら、相談と告白のどっちをするべきか悩んでいた。


 先に告白したら、フラれた後の相談が気まずい。

 しかし、魔王の事を相談したら、もう告白する空気ではない気もする。


 そんな事を考えている間に、レストランバーに到着した。


 レストランバーはテラスが付いていて、いい雰囲気。

 飲めるお酒も一級品が揃っているようだ。


 テラスのテーブルに、一人でワインを飲むルナテラスさんがいた。


 赤いドレスは肩がはだけていて、セクシーながら、上品さを損なわないセンスのいいデザインだ。

 しかし、これもきっと普段から着ているものなのかも知れない。


 こちらを向いているその姿を見て、やはり告白をまずしたいと思った。


 どんどん近づいていく僕。

 しかし、ルナテラスさんは気付かない。


 ここで僕は違和感を覚えた。

 物思いにふけっているようだけど、そんなに気付かないものか。


 いよいよ目の前へ。

 それでも僕に気付かない。


 やはりおかしい。

 レナテラスさんの顔をのぞき込んだ。


 すると、


 ルナテラスさんは涙を流していた。

 それはもう、とめどなく涙を流していた。


 顔が赤いのも酔っているのか、泣きはらしているのか分からない。

 多分両方だろう。


「ど、どうしたんですか?」


「あ……、リンクス君」


 慌てて涙をふくルナテラスさん。


 いつも明るいルナテラスさんの、こんな姿は見た事がない。

 一体、何があったんだろう。


「リンクス君こそ、こんなところにどうしたの?」


 涙を拭きながら、笑顔を作るルナテラスさん。


「それは……、その……」


 何て答えればいいんだろう。

 しかし、


「勇者達はもう旅立ったの?」


 ルナテラスさんは僕の答えを待たずに尋ねてきた。


「いえ、明日出発です。

 今はお城で壮行会だそうです」


「そう。そうだったね」


 王城の灯りを一時見たが、すぐにうつむくルナテラスさん。


「危険な戦いね。

 魔王を倒すなんて」


「エレインさんならきっとやり遂げますよ」


 唐突に勇者一行の話をするなあ。

 そう思っていたら、


「エレイン……!」


 しかし、ルナテラスさんは再び涙を流し始めた。


「こんな事になるなら彼のそばを離れるべきじゃなかった。

 彼にもしもの事があったら……、わたし……、わたし……」


 彼?

 彼って何だ?

 エレインさんの事なのか?!


 ルナテラスさんは両手で顔を抑えて号泣してしまう。


「彼は、どんどん危険な戦いに自らを駆り立てていった。

 わたしの声なんて届かなかった」


 やはりルナテラスさんはエレインさんと冒険をしていた時期があるようだ。


「彼はいつだって無事に戻って来た。

 けど、わたしは心配でならなかった」


 後に知勇兼備のスキルを得るエレインさんは勇敢さと知力を兼ね備えている。

 引き際は的確に見極めているのだが、やはり凡人には無茶に見えてしまうのだ。


 僕もエレインさんが飛行するギャオスからダイブした時は肝を冷やした。

 心配な気持ちはよく分かる。


「ある日、ついて行けないって言ってしまったの。

 心配している身にもなってって。

 わたしか冒険かどちらかを選んでって。


 でも、まさか彼が勇者になるなんて!」


 一緒に冒険をしていたというか、二人は付き合っていたんだろう。


 告白をしに来たはずが、衝撃の告白をされてしまった!

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