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第33話 不吉な予感

 

 王都セントスに戻った僕達は、王都でも一番の高級宿屋に泊れる事になった。

 五階建てで、一階には商店があり、二階にはテラス付きのおしゃれなレストランバーまで。


 ベッドもフカフカだ。

 僕は一人部屋だが、ルナテラスさんとカエデとウガガウは一緒の部屋だ。

 これはウガガウは一人にして置くべきではない判断と、カエデが不安がったためだった。


 早朝に戻った僕達は宿へ。


 勇者一行は明日にも魔王の城へ旅立つ。

 今夜は王城で壮行会をやるらしい。

 忙しい話だ。


 女性陣はウガガウの服を買いに行くとの事。

 さすがにずっと毛皮という訳にもいかないだろう。


 僕はどうしようかとベッドに寝転んでいたら、部屋をノックする音が。


 ドアを開けたらそこにいたのは、白い長髪と切れ長の目の男性だった。

 緑色のローブを纏った線の細い人物は、勇者一行の魔法使い、マリスさんだ。


「昨日はお疲れ様でした」


 ファフニル率いるドラゴン軍団との戦いでは、一緒に後衛を務めた。


「時間がありません。

 今のうちにあなたには話しておきます」


 落ち着いて柔和な印象の人物だが、今日は性急な感じだ。

 表情も真剣そのもの。

 勝利を目前にした状況とはそぐわないと感じた。


「わたし達はおそらく生きて帰れません」


 マリスさんの言葉に僕は驚愕した。


「わたし達の力は魔王ティフォンには及ばないのです」


 そんな事を断言されても。


「ファフニルにだって勝てたじゃないですか。きっと勝てますよ」


 エレインさんの強さは圧倒的だったし、ガレスさんとマリスさんの力も目の当たりにしている。

 お世辞なんかじゃなく、そう確信している。


 しかし、マリスさんは大きく首を振った。

 そんな楽観は論外だと言わんばかりだ。


「魔王とは力が支配すると言われる魔界で王となる者。

 例外なく個人の力もずば抜けています。

 災害クラスの力を持ち合わせて、初めて魔王を名乗れるとも」


 何だかスケールの大きな話になって来た。


「ティフォンに関して言うなら、視線を合わせたものの命を一瞬で奪う事ができると言われています。

 彼が先頭に立って戦わないのは、支配するべき人間を殺し過ぎないためなのです」


「そ、そんなの相手にどうやって戦うんですか?」


「勇者の鎧と盾には呪いを打ち消す力があると言います」


 だからどうしても手に入れる必要があったのか。

 勇者の盾がファフニルの炎を打ち消すのは見たが、呪いにも効果があるようだ。


「なら安心じゃないですか」


「それが違うのです」


 マリスさんは難しい顔のままだ。


「実際に呪いを打ち消せるかどうかは相手との力の差によります」


「エレインさんの力量では魔王に敵わないって事ですか?」


「わたしは不安要素はあると思っています」


 これは奥歯にものの詰まったような言い方だ。


「『思う』なんて言わないで下さい」


 マリスさんは百手先を読めるはずなのだ。


「『神算鬼謀』のスキルがエレインさんは死ぬって言ってるんですか?」


「その読みを変えるためにわたし達がついて行くのです。


 安心して下さい。勝てない訳ではないのです。

 最良の読みでティフォンと刺し違える事はできます」


 相打ちにならできるって事か。


「わたしとガレスが身代わりになって隙を作る。

 その上で彼も犠牲を払うならばあるいは……」


 そんな……!

 安心なんてできない。


「何か方法は……」


「呪いとの戦いは精神の持ち様です。

 エレインの精神力に期待するばかりです」


「だったら、まだ魔王と対決するタイミングじゃないんじゃないですか?」


 精神の持ち様の問題だって言うのなら、修行でもしてから魔王に挑めばいいじゃないか。


「ここで時間を空ければティフォンは魔界に戻って新たな四天王を連れて来るかも知れない。

 逆に視線の力で人間を大量に殺してでも人間界の制圧に乗り出すかも。

 明日まで待つ事すら遅い可能性があります」


「そんな……!

 だからって!」


 死ぬ公算の大きい戦いを挑まなければならないなんて。


「僕がついて行って、結果は変わりませんか?」


 と、言ってみたが、


「ティフォンの呪いの力に対しては、誰がついて行っても変わりありません。

 無駄に命を落とすだけです」


「エレインは勇者に選ばれた。

 わたし達もそうです。それがわたし達の役目です」


 物怖じはしていない。

 ただ、知略に優れているだけの人ではない。

 やはりこの人も勇者なんだ、と思った。


「もしわたし達が敗れたら、その後はあなたに託します。

 わたしはあなたに大きな可能性を感じています。

 ファフニルとの戦いでそれを確信しました」



「そんな事を言われても光栄だなんて思いませんよ。

 生きて帰ってきて下さい」


 それだけ言うのが精いっぱいだった。


 マリスさんの帰った後、僕はショックのあまり何も考えられず、ベッドに転がった。


 せっかくみんなで頑張ったのに、話が違う。

 何かできる事はないのか。


 考えていたらうとうとしてきた。

 まだ疲れは残ってる。

 そのまま僕は眠りについた。


 目が覚めたら、外からズシンズシンと大きな音がした。


 慌てて外に出ると、人がたくさん倒れていた。

 外傷はないが、冷たくなっていた。


 街中の人が殺されていた。


 僕は音のする方を目指した。

 そして、見覚えのある死体を発見する。


 ルナテラスさんとカエデとウガガウもすでに冷たくなっていた。


 同じ方向を向いて、並んで亡くなっている。

 三人とも同時に、一瞬で絶命したようだ。


 そして、足音が近付いて来る。

 建物の陰から巨大な姿が現れる。


 それは巨人だった。

 白い髭が長く伸び、王冠をかぶっている。

 青白い肌は筋肉質で、見るからに強そうだ。


 一目でそれが魔王だと分かった。


 魔王は何かを投げつけてきた。

 それは勇者一行の死体だった。


「エレインさん!ガレスさん!マリスさん!」


 駆け寄る僕はエレインさんの死体と目が合った。


 すると、エレインさんの首がこちらを向き、


「お前にできる事は何もない」


 と声を発した。


 あまりの事に後ずさりしてしまう。

 よろけて躓いたのはルナテラスさんの死体だった。


 倒れた僕はルナテラスさんと目が合う。


 その瞬間、彼女も言葉を発する。


「ランクが何だろうとお前の中身は変わらない」


 そして、辺りが暗くなった。

 見上げると、魔王が目の前に迫っていた。


 魔王の目が真っ黒に変わっていく。

 瞳も何も区別がつかなくなったそれらは、まるで深い穴のようだ。


 僕は恐怖していながら、その光景に釘付けになる。


 そして、魔王が言葉を発した。


「お前は無力だ」


 闇が迫ってくる。

 逃れる事のできない巨大な闇が。


「うわあああああっ!」


 僕はベッドから飛び起きた。

 静まり返った宿屋の一室。

 どうやら夢を見ていたようだ。


「まったく……」


 何て不吉な夢を見てしまったのだろう。

 おまけに夕方になっていた。


 とっくり寝過ごしてしまった。

 勇者一行の壮行会が始まる頃だろうか。


 明日には彼らは魔王の城に旅立つ。


 ……本当に僕は無力なのか。

 夢で見たような事態になってから後悔しても遅いのではないか。


 僕は今日のマリスさんの話について、ルナテラスさんに相談しようと思った。

 何かいいアイデアを出してくれるかも知れない。


 一方で、ルナテラスさんに告白もしたいと思った。

 気持ちを伝える機会はもうないかも知れない。


 とにかく会いに行こう。

 僕はルナテラスさん達の部屋に向かった。

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