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第30話 勇者の帰還

「勇者……、エレイン」


 ルナテラスさんのつぶやく声がする。

 目の前にいるのが勇者、エレイン=エクター、その人だった。


 20代半ばくらいだろうか。

 長い金髪が風になびいている。

 落ち着いた表情だった。

 ドラゴン軍団を前にしても恐れている風は全くない。


 そして、手にはロングソードが握られていた。

 黄金の柄には豪華な意匠がほどこされている。

 これが勇者の剣だろう。


 青い鎧と盾を身に付けていた。

 縁には黄金の美しい意匠。

 勇者の鎧と盾に違いない。


「遅れてすまなかった。

 あとはわたしに任せて欲しい」


 僕とルナテラスさんに勇者はそう言った。


「そのくらいの役目は、果たさなければな」


 残る一体ずつのゴールドドラゴンとシルバードラゴンに向かって行く。


「かかれっ!」


 ファフニルの怒声と共にゴールドドラゴンとシルバードラゴンが炎と吹雪を放って来た。


 対して勇者エレインは、そのブレス攻撃に突っ込んで行った。


 少なくともそのようにしか見えなかった。


 炎すれすれの位置を突っ切り、ゴールドドラゴンに接近して行き、その首をはねる。


 シルバードラゴンに対しても同様だった。

 吹雪に当たっているのではないかと思うような位置を接近し、そのまま巨体を袈裟斬りにして、一撃で倒してしまった。


「あれが『知勇兼備』よ。

 普通の人間には見極められない危険を見極め、そこに飛び込んで行く勇気をも持つ」


 ルナテラスさんが座り込んだまま、説明する。


 つまり僕にはすれすれに見えたが、勇者は安全を確信していた。

 その上でそこに斬り込んで、相手の隙を突いた。


 そういうユニークスキルが、歴代勇者の所持していた『知勇兼備』だという事か。


 それにドラゴンを一撃なんてバーサーカーのウガガウや、ガレスさんですらできない事だ。

 勇者の剣もすごいし、本人の剣技もすごいのだろう。


「おい、ファフニル」


 ファフニルに向かって行く勇者エレイン。


「お前が魔王に仕える理由は何だ?」


 語りかけながら、接近していく。


「今さらなにを言っている?」


 ファフニルは空中で答える。


「銀狼エカテリーナは平和主義の魔王達にも不満を持っていた。

 人間に干渉しない事で、結果的に人間界の魔物を守ろうとしないからだ。

 だから、銀狼はティフォンを頼った。


 それはいい」


 ファフニルにも素早く仕掛けるかと思っていたが、目の前まで近づいたら、立ち止まって話し続ける。


「だが彼女も、ティフォンが森の魔物を手駒にしたかっただけなのを分かって手を引いたぞ。


 お前は何で魔王に仕えているんだ?」


「ファフニル様が、強きものが全てを手に入れるべきと言われたからだ。

 人間界も魔族が治めるべきだと」


「魔王の考えはどうでもいいんだ。


 自分の言葉でしゃべれよ。

 わたしとお前の勝負なんだからな」


 僕は勇者と言えば、魔王軍と問答無用で戦う存在だと思っていた。

 でも実際に目にした勇者エレインは、ファフニルともまずは話合いをしている。

 そういうものなんだろうか。


「勇者のくせに、ごちゃごちゃうるさい奴め!」


 怒鳴るファフニル。

 やっぱりエレインさんが変わっているみたいだ。


「くだらん話を。

 俺は俺の強さを磨いて、ここまでのし上がった。

 お前を倒して、さらに上を目指す」


「争いごとを起してまでか?」


「それこそ武人の誉れというものよ」


「そうか。分かったよ。

 かかってこい」


 ため息の後、エレインさんは剣を抜いた。


 ついに最強の四天王と勇者の戦いが始まった。


 ファフニルは口から炎を吐いた。

 やはりエレインさんは炎をギリギリの位置で避け、接近。

 ファフニルの腕に一太刀斬りつけた。


 ファフニルはそれに怯む事なく、巨大な槍で攻撃。


 しかし、エレインさんはその攻撃も難なくかわす。

 やはりギリギリの位置ではあるが、きっとこれも「知勇兼備」だろう。

 かわした後はカウンターの攻撃。

 ファフニルの肩当てが吹っ飛んだ。


「ぐうう……。

 我がここまで……。


 ならばこれでどうだ!」


 ファフニルは槍を前方で、横一文字に構え、炎を吐いた。

 そして、槍を回転させると炎が槍に纏わりついていく。


「これぞ奥義、怒号槍圏!」


 炎を纏った槍が完成した。


「ぬううん!」


 突進して、連続攻撃を仕掛けて来るファフニル。

 エレインさんも今度は紙一重で斬りこむ事ができない。


 ファフニルは炎を武器のように扱ってるに等しい。

 ギリギリを狙うのも至難の業だろう。


「どうだ、手も足も出まい!

 このドラゴンマスター、ファフニルの力、思い知ったか」


 あの巨大な槍に炎を纏わせ操るなんて、人間にはとても真似できない。

 ドラゴニュートのファフニルならではの奥義だ。


 しかし、エレインさんは涼しい顔をしていた。


「ああ、思い知った。じっくりと観察したよ。


 ……これなら何とかなりそうだ」


 そしてそっけなく、事も無げに言った。


「何だと!」


 ファフニルが激昂する声がする。


「ならば何とかして見せるがいい!」


 ファフニルの鋭い突き。


 エレインさんはそれを横にかわす。


「馬鹿め!」


 ファフニルは横薙ぎの攻撃に切り替えた。

 炎がエレインさんに接触する。


 しかし、


 炎はエレインさんの盾に当たるとかき消えた。

 そして、そのままエレインさんは、盾でファフニルを槍ごと吹っ飛ばす。


「炎が消されただとっ!」


「この勇者の盾は、神聖なる加護を受けている。

 魔法や、お前達の炎や吹雪をかき消す効果がある」


 それは勇者の盾の力なのだろうが、ファフニルの巨体と巨大な槍を弾き飛ばしたのはエレインさんの力だ。

 僕は勇者の強さを肌で感じた。


「そしてこの勇者の剣はドラゴンスレイヤーでもある」


「ぬおおおおおっ?!」


 続けてのエレインさんの攻撃は、ファフニルを鎧ごと袈裟斬りに切り裂いた。

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