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第3話 冒険者ギルドにて

 僕は冒険者ギルドにやって来た。

 パーティ離脱の報告のためだ。

 足取りは重い。


「おはようございます!

 元気なさそうですね、リンクス殿!」


 明るく声を掛けてきた女性は、ギルドの受付をしているイネスさん。

 黒い縁の大きな眼鏡と赤毛のおかっぱがトレードマーク。


 僕の2歳上の20歳。

 僕らがこの街にやって来た時にこのギルドに就職したから同期と言っていい。


 一年目は荒くれ者も多い冒険者相手にタジタジでよく泣かされていた。

 辞めたい、と言っていた事もある。


 今は何か吹っ切れたようで、堂々としていて貫禄がある。

 僕とは大違いだ。


「ランクがFから上がらないから、またベルナールさんにどやされてましたか?」


 こんな事をニコニコしながら言ってくる。

 僕は事情を説明した。


「なるほど、パーティから除名を。」

 承りました。処理いたしますよ!」


 すっかり気落ちしてしまっている僕。

 うらはらにハキハキと承諾するイネスさん。


「仲間からはもう田舎に帰れって」


「ふむ。そうですか」


「イネスさんもそう思ってるよね」


 思わず弱音を吐いてしまう。


 イネスさんは一瞬、真面目な顔で、大きく目を見開いて神妙な表情に。

 しかし、その後、


「あっはっはっはっは!

 何をおっしゃいます! リンクス殿」


 豪快に笑い出す。


「田舎に帰るですって!

 あっはっはっはっは!」


 彼女はいつも明るい。

 に、しても、大笑いする場面ではないと思う。


「魔王軍が久しぶりに人間界に侵攻しているんですよ?

 おまけに、帝国軍が戦の準備をしている噂も、まことしやかに囁かれています。


 駒は多い方がいい。

 捨て駒も立派な、重要な任務ですぞ!」


「ええっ!」


 ニコニコしながらとんでもない事を言う。


 ちなみに魔王軍とは魔王ティフォンの軍勢の事。

 強大で野心家の魔王で、100年ぶりに人間界への侵略活動を行っている。

 王国の西側はほとんど侵略され、領地にされてしまっている。


 北の王都セントスを狙って侵攻しているので、南側のこの都市に直接攻撃して来る訳ではない。

 しかし、まれに魔界の強力な魔物がこの辺りにも現れる事がある。


 そして、帝国軍とは東のノルドステン帝国

 以前からセントレール王国とは折り合いが悪かった。


 最近、魔王軍は王国では倒す事が出来ないと言い、軍備を増強。

 王国には属国になれと、降伏勧告をしている。


 国王はこれを拒否しているが、いつ戦争になるか分からないと言われている。


 魔王が迫っているのに人間同士で争うなんて愚かな事だと思う。

 しかし、帝国の人間から考えれば、だからこそさっさと降伏しろと言う理窟なのだろう。


 戦争なんて事になれば、冗談抜きに捨て駒として扱われるかも知れない。


 ちぐはぐな能力を与えられ、何の才覚を示す事なく、捨て駒として戦場の露と消える。

 そんな未来も、現実となる日が近いのかも知れなかった。


「あっはっは!

 何をそんな死刑を宣告されたみたいな顔をしてるんです?」


 そんなような心地だったからだ。


「せっかくいい話を持ってきたってのに!」


 いい話?

 捨て駒になれ、ぐらいしか言われていない。


「魔王軍の侵攻は王都狙いから徐々に王国全域に広がってます。

 ギルドの方針としては登録冒険者の質を上げたいのです。

 生存率を上げるためにもね」


 大陸全図を指し示しながら説明するイネスさん。

 魔王城から伸びる矢印は放射状に広がっている。


 この通りに侵攻が進んでいるなら、もはや魔王軍は王都のみを狙ってはいない。

 大陸全土に侵攻を進めている。


「王都セントスにいる冒険者の内、何名かをトレーナーとして各地に派遣する事になったんです」


「そんな事して王都は大丈夫なんですか?」


「勇者が現れたって話、聞いてませんか?」


 そうだった。


 しかし、試練の洞窟から勇者の剣を持ち帰った若者が魔王軍四天王の一人を倒したって話はちょっとしたニュースだったのだ。

 魔王が現れれば勇者が現れる、なんて昔話は誰も信じていなかったし、僕も忘れてたけど。


「四天王の一角が崩れた今がチャンスなのです」



 ちなみに、考古学者をしている僕の父親は勇者の剣も古代文明の産物だと言っている。


 古代文明の科学の技術、ナノマシンコーティングによって劣化する事がないのだと。

 しかし、一般的には劣化しないのは神のご加護である事が定説だ。


 以前、「神のご加護を疑うのか!?」と光明教から処刑されそうになった時は、その説を撤回した。

 でも、教団が帰ったら「それでも、ナノマシンコーティングされている」とつぶやいていて呆れたものだ。



「とにかくこの街でもFランク冒険者のトレーニングが行われます。

 それに参加されてはいかがです?」


 イネスさんは立ち上がると棚から資料を持ってきた。


「リンクス殿は確かに伸び悩んでいますが素質はあります」


「うーん」


 ステータスウィンドウは視覚的に実力を見せつけてくる。

 素質の方向性まで分かる便利なものだ。


 自分のちぐはぐな素質についても明確にしてくれている。


「リンクス殿は根は真面目で、努力もしています。

 きっといつか芽が出ますよ。

 だから今回も声を掛けているんですよ!」


 もちろん今まで努力を重ねてきたつもりだ。

 しかし結果は四年間Fランクで、仲間からも愛想を尽かされた現実がある。


「今回のトレーナーは『ライブラリ』の魔法が使える方で、能力診断もできるんですよ!」


「四年目でトレーニングかあ……」


 全く恰好の付かない話だ。

 それでも、僕はこのトレーニングに参加する事を選んだ。


 イネスさんの期待に答えたい気持ちもある。

 しかし何より、最後のスキルが開示されるまでは、あきらめないことを決めていたからだ。


 逆に言うと、このスキルでもMPが増えないなら、今度こそ冒険者をやめるつもりだった。

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