第29話 強襲 四天王ファフニル
マリスさんが下がっている間、僕はルナテラスさんのサポートに回った。
彼女は陣形の中央でみんなに指示をしている。
攻撃と回復を同時に行っている僕にとっても、この位置がいい。
騎士団や魔道士団も、当然のようにルナテラスさんの指示に従って動く。
王都でもみんなに信頼されているんだろう。
優しくて、強くて、頼られていて、その上、美しい。
本当に完璧な人だ。
ドラゴン達も及び腰になって来た。
こちらが優勢。
あともう少しで勝てる。
そう思った時だった。
上空から迫るものが何なのか、僕はすぐには認識できなかった。
ドラゴン達より一回り小さい何かが、猛スピードで接近して来ていた。
それが人型をしていて、僕を目掛けて急降下している事に気付いた時には、すでに回避できないほどに接近されていた。
「危ないっ!」
僕より先に察知していたルナテラスさんの鞭の攻撃によって、それは空中で急停止した。
空中に制止している巨大な姿。
竜の翼を持って、人型をしていた。
鱗は緑色で、赤い全身鎧を身に付けている。
巨大な槍を片手で軽々と持っていた。
「我は魔王軍四天王、ドラゴンマスター、ファフニル」
低い声が響く。
これが最強の魔王軍四天王。
という事は、これが竜人族、ドラゴニュートなんだろう。
「魔法使いよ。
貴様を難敵と認め、始末しに来た。
ありがたく思え」
僕を狙っている?
何で僕なんかを。
全然ありがたくなんかはないけど。
「ファフニルが現れたぞ!」
「敵の指揮官だ。逃がすな!」
戦場の中央に突然現れた、敵の親玉はすぐに注目を集めた。
騎士団と魔道士団が陣形を整え、ファフニルに挑む。
「逃がすなだと?」
ファフニルは地面に降りた。
そして、
「それは我のセリフだ!」
槍を構えて突進して来た。
まず一人の騎士を槍で薙ぎ払う。
その後、騎士団の長槍の突きを自分の槍で弾き飛ばす。
槍兵の後ろから、さらに剣とメイスで殴りかかって来た騎士などは、素手で蹴散らしていた。
ドラゴンの鱗を持つファフニルは、生半可な攻撃など素手で十分なのだ。
その後ろには魔道士団が控えていた。
しかし、その攻撃は、ファフニルの炎で打ち消された。
どころか強力な炎で魔道士団のほうが負傷をしている。
「ヒーリングラビティ!」
僕は重力波でファフニルを牽制しながら、負傷者の治療に向かう。
「やはり奇妙な魔法を使う奴よ。
ここで殺しておかねば」
どうやら上空で、僕がしりとり魔法を使う様子を観察していたようだ。
さっきの戦闘を見る限り、でたらめに強そうだし、どうしたものか。
一人では無理だ。
何とか時間を稼いで、ガレスさんやマリスさんと合流して……、
そう思っていた矢先だった。
目の前の地面が盛り上がる。
そして、地中から轟音と共に新たにドラゴン達が現れた。
金と銀の鱗。
ゴールドドラゴンとシルバードラゴンが二体ずつ。
ファフニルが魔界から連れて来たという上位種のドラゴンだ。
「もう済んだ話だがな」
ファフニルはすでにゴールドドラゴンとシルバードラゴンを呼んでいた。
僕に仕掛けて来る前から呼んであったのだろう。
それが地中を進んでいて、絶好のタイミングで姿を現した。
「これで終わりだ」
ゴールドドラゴンとシルバードラゴン一体ずつが鎌首をもたげる。
ブレス攻撃の合図だ。
これも地中にいる時から準備させていたのだろう。
何もかも用意周到だ。
まさに歴戦の将だ。
これは回避できない。
やられる。
そう思った。
「リンクス君!」
ルナテラスさんが僕の前に立つ。
守ってくれようとする気持ちは嬉しいけど、これでは二人ともやられるだけだ。
離れて!
そう思った時だった。
風を切る音と、風圧。
すると、頭を持ち上げ、ブレス攻撃の予備動作に入ったと思った二頭の動きが止まる。
次の瞬間、轟音が相次いで起こった。
ドラゴン達の首が落とされた音と、胴体がバランスを失って崩れ落ちる音。
そして、僕達とドラゴン達の間に立つ姿があった。
長い金髪が風になびいている。
手にはロングソードが握られていた。
青い鎧と盾を身に付けていた。
縁には黄金の美しい意匠がある。
やせ型ながら、腕や足を見る限り筋肉質で逞しい。
「貴様はっ!」
ファフニルの狼狽する声。
「遅くなった。済まない」
その人はこちらを振り向いてほほ笑んだ。
「後はわたしに任せて欲しい」
そう言うと残りのドラゴン達とファフニルに向かって行く。
「ああ……」
ルナテラスさんもその姿に釘付けになっていた。
「勇者……、エレイン」
これが僕が初めて見る勇者の姿だった。




