第28話 決戦 ドラゴン軍団 (後編)
進軍が開始された。
王国の騎士団と魔道士団、そして僕達冒険者は平野部を西に向かう。
すると、空を埋め尽くすばかりのドラゴン軍団が現れる。
大きな翼を持った爬虫類で、長い首と二本の角。
話に聞いていたが、堂々たる姿だ。
しかし、僕らはこれから、その大群と戦うのだ。
赤、白、青、緑と色鮮やかなドラゴン達が空から迫って来る。
「魔道士団と弓兵は攻撃を!」
マリスさんの号令を合図に魔道士と弓兵の攻撃が始まった。
僕も一緒に、炎と石つぶてのパイロックブラストで攻撃する。
大量の弓矢と魔法がドラゴン軍団目掛けて飛んで行く。
僕達の攻撃はほぼ命中したが、落下するドラゴンはいない。
続けて二撃目といきたいが、そうはいかない。
今度はドラゴン達が鎌首を持ち上げる。
空から炎と吹雪と雷と毒の息が飛んで来た。
何発かは騎士団や冒険者に命中する。
その後はいよいよ接近戦だ。
しかし、鱗に覆われたドラゴンの身体は頑丈で、生半可な攻撃ではびくともしない。
「さすがに固い。粋だねえ」
モミジのポントー術も致命傷にはならない。
「ウッガーーー!」
ウガガウの攻撃も、鱗を切り裂いてはいるが、ドラゴン達の巨体はびくともしない。
他の冒険者や騎士団の攻撃も同様だった。
「効かない訳じゃねえ。
ひるまず攻撃を続けろ」
ただ一人、大斧の一撃でドラゴンを転倒させたのは、赤い鎧の巨漢の戦士、ガレスさんだった。
さすがは勇者一行の戦士だ。
回復魔法を使える者達が救助に向かう。
僕もヒーリングラビティで回復に。
上手くグラビティがドラゴンに当たるポジショニングでヒーリングを行う。
「ヒーリングラビティ!」
「旦那、ナイスアシスト!
粋だねえ」
グラビティで怯んだ敵をモミジがポントーで攻撃。
「ヒーリングラビティ!」
「ウッガーーーガウーッ!」
ウガガウも大斧で攻撃。
一回一回の威力は小さいが、少しずつでもダメージを与えている。
「坊主。こっちも頼む」
ガレスさんだった。
「金城鉄壁」のスキルを持つガレスさんもドラゴンのブレス攻撃には弱いようだ。
炎で火傷を負っているのをヒーリングラビティで回復させる。
「グリーンドラゴンの毒も喰らっちまった。
解毒も頼む」
と言われたが、
「アンティポイズンは最後が『ン』だから使えないんです」
ここでしりとりペナルティでむせている場合じゃあない。
幸いここにはマリスさんを始め、他にも優秀な魔法使いがいる。
解毒は彼らに任せたい。
「代わりにこれを!
ライブラリジェネレイト!」
ライブラリの魔法で、僕の目の前にガレスさんのステータスウィンドウが表示される。
レベルは60で、攻撃力や耐久力に特化したパラメータである事が分かったが、それはどうでもいい。
重要なのは身体の回復力を高める、リジェネレイトの魔法だ。
これで毒の体調悪化による、体力低下を相殺できるはず。
僕はその後もヒーリングラヴィティで傷付いた人達を治療しながら、手近なドラゴンに重力波で攻撃する。
それでも、死者はすでに出ている。
ブレス攻撃にしても格闘戦にしても、ドラゴンの攻撃は、一撃で絶命に至る事もあるほど強力だ。
僕はヒーリングの間を縫って、ディフェンストレングスの魔法もかけて、少しでもみんなの生存率が上がるよう努めた。
もっと余裕があれば、パイロックブラストの炎でホワイトドラゴンを攻撃したり、ナイトメアイスエッジでレッドドラゴンを攻撃したり。
そんなこんなで一進一退の攻防は続いたが、
「リンクス君、わたしもMPがそろそろ尽きます」
マリスさんが肩で息をしている。
マリスさんは強力な魔法攻撃で、攻撃の要として活躍していた。
加えて「神算鬼謀」の能力で、戦況を読んで采配を振るっている。
「分かりました。少し休んで下さい」
「あなたはすごいですね」
ローブの袖で汗を拭いながら言うマリスさん。
「わたしもMPには自信がありましたが、敵いませんね」
僕の場合は消費MPがゼロなだけだ。
そして、ゼロにしないと使えない訳でもある。
「これがしりとり魔法のとりえですから」
僕はやれる事をやるしかない。
「おかげで光明が見えて来ました」
『神算鬼謀』のマリスさんに言われるなら嬉しい。
この人が光明が見えるというなら、本当に勝ち筋が見えて来たという事だ。
マリスさんは後ろに下がった。
ルナテラスさんがマリスさんの代わりに指示を出す。
さらに自身も弓による援護射撃。
カエデとウガガウも息の合った連携を見せていた。
僕がヒーリングラビティで動きを止めたドラゴンに、同時攻撃を浴びせ、ついに一体を撃破した。
周囲の騎士団や冒険者も奮闘し、じわじわと戦線を押し上げている。
「いい感じよ。リンクス君」
ルナテラスさんにウィンクされると照れてしまう。
それに最強の四天王率いるドラゴン軍団相手に、結果を出せている事は素直に嬉しい。
それも万年Fランクだったこの僕が。
このまま何とか勝利を収めて、王都を守り抜きたい。
◇◆◇
ちょうどこの頃、ドラゴンの群れのさらに上空から戦場を見下ろす姿があった。
竜の翼と角と牙、そして鱗に覆われていながら、人型の姿をしている。
鱗は緑色で、赤い全身鎧を身に付けている。
兜は角や牙の邪魔にならぬように、鎧は翼の邪魔にならぬように作られている。
巨体に見合う巨大な槍。
人間ならば持ち上げる事すらできないであろう、その槍を彼は片手で軽々と握っている。
竜神族、ドラゴニュート。
魔王軍四天王、ドラゴンマスター、ファフニルである。
その目は戦場の、ある魔法使いを見据えていた。
茶色の髪とローブ、少年のようにも見える。
杖は持たず、両手から魔法を放つ特徴的な動作で魔法を行使している。
「さっきから攻撃にも回復にも戦場中を駆け回っている。
あいつが敵軍の要なのではないのか?
あいつは一体何者だ?」
歴戦の将、ファフニルは敵の体力と魔素の限界を予測し、それにドラゴン軍団の耐久力を加味して戦術を練っていた。
予測ではとっくに敵は総崩れになっているはずだった。
「あの魔法使い、魔法を連発しているが、魔素切れは起こさないのか?」
三百年月の光を浴びた化け狐、フーヤオならばいざ知らず、ただの人間があれだけ魔法を使い続けられるとは思えなかった。
「ユニークスキル……、という奴か」
勇者一行も持っている特殊能力。
常識で測れぬ力を発揮するという。
「だとすれば早めに潰さなければな」
地上へ急降下を開始するファフニル。
最強の四天王が、僕に狙いを定め、迫っていた。




