第27話 決戦 ドラゴン軍団(前編)
王都に近づくと城壁の外にたくさんの冒険者や、王国の騎士団、魔道師団が集まっていた。
「城壁の中ではないんですか?」
僕はルナテラスさんに聞いてみた。
「ドラゴンは空を飛ぶからね」
王都の住民は、すでに街の西側からは避難しているようだ。
実際は城壁の内側にも、弓兵や魔道士は配備されているらしい。
「久しぶりです。ルナテラス、リンクス君」
一人は緑色のローブを纏った線の細い魔法使いの男性が現れた。
勇者一行の魔法使い、マリスさんだ。
ユニークスキル、「神算鬼謀」を持っていて、百手先の未来を読む事ができる。
「小僧も活躍してるらしいな」
さらには赤い全身鎧で武装した屈強な男性。
背中には大きな斧。
同じく勇者一行の戦士、ガレスさんだ。
ユニークスキル、「金城鉄壁」で圧倒的な防御力を誇る。
「お久しぶりです」
二人とはかつて、港街マイリスに現れた四天王ゴーレムマスター、メルティと戦った時、知り合った。
「ドラゴンマスターファフニルって、そんなに強敵なんですか?」
「ええ、彼は事実上の魔王の副官です。
メルティとは一線を画します」
「槍の達人の上に、統率力もありやがる」
槍の達人……。
本人もドラゴンかと思ったけど、違うのか?
「彼は竜人族、ドラゴニュートです」
ドラゴニュート。
竜と人間の中間の存在。
ドラゴンが神であった事のなごりとされるが、今はドラゴニュートという一つの種族だ。
硬い皮膚を持ち、空を飛び、炎の息を吐き出す。
最強の種族と言ってもいい。
どれほど危険な敵なのかは伝わって来た。
「それに加えた話ですが、」
まだ何かあるみたいだ。
「魔界から彼が何を連れて来たかです」
ワイバーンを失ったファフニルが連れて来た戦力の話だった。
「西のノルエスト山脈の奥深く、魔王城の近くのファフニルと共にいるはずですが、そこまで危険過ぎて、偵察できてません。
これが分からないとわたしの『神算鬼謀』は効果を発揮しません」
「偵察ね。
空でも飛べればいいけど」
レンジャーのルナテラスさんの得意技ではあるが、今回は厳しい。
「だったら空飛んで行くぞ」
ウガガウだった。
「ギャオーーーン」
大声で雄叫びを上げた。
すると、
北の空から黒い影が迫って来たと思ったら、一頭のワイバーンが降りて来た。
ウガガウが頭をなでると、小さく縮こまる。
「もしかしてこの前の……」
「ギャオスだぞ」
原初の森でフーヤオに操られていたのを、手懐けたワイバーンだった。
「行くぞ。ルナテラス」
ギャオスに跨がるウガガウ。
「わたしも乗せてくれるの?」
「そのくらい余裕だって」
これで空からの偵察が実現した。
ウガガウの世話は大変そうだなんて思ってたけど、実はすごい技能の持ち主なのかも。
「敵も空を飛べるから、近づきすぎないで。
高い位置から偵察しましょう」
飛び去っていくギャオス。
本当に二人を乗せても余裕みたいだ(二人とも重くはなさそうだけど)。
しばらくすると二人は戻って来た。
「竜に乗るなんて素敵!
ありがとう、ギャオス」
髪を直しながら、ギャオスに話しかけるルナテラスさん。
至って楽しそうで、高い所は大丈夫みたいだ。
そう言えば木に登っていたっけ。
「偵察は上手くいきましたか?」
「ええ、バッチリよ。
高度をとったから、少し遠いけどね。
リンクス君、マリス。マッピングの魔法を使って」
僕はマッピングラビティの魔法を使った。
ステータスウィンドウに周囲の地形が表示される。
「マップに敵の配置を書き込んだから、同期するよ」
目を合わせたルナテラスさんが瞬きをすると、マップにモンスターの配置と名前が表示される。
マッピングの魔法に書き込みできるのはマッピングの魔法のレベルが高い証拠だ。
「同期する」とはステータスウィンドウの情報全般を、相手のウィンドウからも閲覧できるようにする行為を指す。
ライブラリの魔法が使えれば誰でも容易にできる事だ。
ちなみに古代文明を研究している僕の父によると、この同期は、電気信号の同期に由来しているらしい。
科学文明によって作られたものをナノマシンが模倣しているそうだ。
だから「同期」というワードが魔法文明が科学に由来する証拠であるらしいが、それはどうでもいい。
そんな事よりルナテラスさんと目を合わせるとドキドキしてしまう事の方が問題だ。
マリスさんとも同期したルナテラスさんは状況説明を始めた。
西のノルエスト山脈の前の森にドラゴンの軍団がいる。
「これは前からいた敵ね」
炎を吐くレッドドラゴン。
吹雪を吐くホワイトドラゴン。
雷を吐くブルードラゴン。
毒霧を吐くグリーンドラゴン。
どうもそれぞれが10体前後はいるようだ。
増強前の戦力らしいが、すでに十分脅威だ。
これが王都に攻めて来るだけでも厄介な話だ。
「そして、これが恐らく魔界から新たに連れて来た敵」
マップに書かれていた敵の名称は、
「ゴールドドラゴン」
「シルバードラゴン」
となっていた。
山脈の奥深く。
恐らく魔王城の手前辺りに、その名前がある。
「それぞれ数体はいるみたい」
この二種類は以前は確認できなかったらしい。
「ところでゴールドとシルバーの特徴って何ですか?」
「わたしもよくは知らないんだ」
「ゴールドは炎、シルバーは吹雪を操ります」
マリスさんは知っているようだ。
「ですが、それより厄介なのは、上位種であるこの二体の身体は魔法が通用しないのです」
「魔法が?!」
「ええ、鱗が魔法を阻止するのです。
この二体は冷気や炎は弱点になりません」
それは魔法使いの僕にとって大問題だ。
「これらが相手の時はわたしやリンクス君はサポートに徹するしかありません」
本当に厄介な敵だ。
他のみんなの活躍に期待するしかない。
マリスさん、ガレスさん、ルナテラスさんは聖騎士団、魔道士団とも情報を共有。
会議の結果、陣形を整え、こちらから攻める事になった。
「みんな、準備はいい?」
「はい!」
僕は会議から戻って来たルナテラスさんに元気よく返事をした。
そして、
「いよいよ決戦ですかい、粋だねえ」
カエデはディフェンストレングスの魔法でテンションを上げ、別人格、モミジに。
ふてぶてしい表情で戦場を見渡している。
「オレもやるぞー!」
大斧を軽々と持ち上げるウガガウ。
その瞳は赤く染まっている。
バーサーカー化しつつ、チルアウトランキライザーの魔法で理性を保っている。
会議中に補助魔法をかけておいたのだ。
その後、二人は前へ。
僕は後方に。
いよいよドラゴン軍団との戦いが始まったのだった。




