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第23話 帰り道での出来事

 

 次の日、僕達は港街マイリスに戻るため、荷物を纏めた。


 ちなみに王都セントスへの銀狼との同盟締結の伝達は、早朝の内にルナテラスさんが済ませていた。

 鳥に手紙を結び付けて、送ったらしい。


 鳥の活動範囲を把握し、手なずけて、使役する。

 レンジャーの高等スキル。

 さすがルナテラスさんだ。


 旅立つ準備ができた。

 ワイバーンのギャオスもやって来た。

 さらに、森の狼達が総出でお見送り。


 僕はこの時点で違和感を覚えていた。

 この見送りはちょっと大袈裟過ぎやしないか。


 僕らは丁重にエカテリーナさんに挨拶を述べた。

 その後、ウガガウはエカテリーナさんに抱き付いた。


「じゃあな、母ちゃん」


「身体に気を付けるんですよ」


 エカテリーナさんに抱き付くウガガウ。


「あれ、なんでウガガウも旅に出るみたいになってるんですか?」


「あ、言ってなかったっけ?

 ウガガウちゃんは冒険者になるんだよ」


 ルナテラスさんはさらっと言った。


「聞いてませんよ!」


「エカテリーナさんは、この機会にウガガウちゃんに人間の世界を知ってもらいたいって」


「いずれはウガガウは、人間の世界で生きなければなりません」


 エカテリーナさんはウガガウの腕の間から話しかけて来た。


「冒険者なら人間の社会に飛び込むより、あの子に向いていると思うのです」


 普通の人間なら、社会勉強がいきなり冒険者というのはハードルが高い。

 しかし、彼女はバーサーカーだ。

 あながち間違いではないのかも知れない。


「家はどうするんですか?」


「わたしの宿屋の部屋に一緒に住んでもらおうと思ってる。

 いずれは独立させたいけどね」


 ウガガウとの同居という事は、生活に関して教える事が山ほどあって大変そうだ。


 そんなこんなで、僕、ルナテラスさん、カエデさんに、ウガガウを加えた四人は港街マイリスに向かう事になった。


 さて、その帰り道、というか昨日の戦闘以降ずっとだけど、カエデさんは落ち込んでいた。


 フーヤオ戦においてカエデさんはモミジの人格に変わる事なく、狐火を撃破した。

 しかしながら、フーヤオ本人への攻撃の時に、動きが止まってしまった。


 彼女の中の戦いへの恐怖は、まだ克服されていないのだろう。


「やっぱり……、生身はダメ……」


 この言葉の意味は分からない。

 けど、最初はただ恐がりで、緊張しやすいだけなのかと思っていたが、具体的に戦闘に関する恐怖感があるのかも知れない。


「狐火はカエデさんが自力でやっつけた訳だし、すごく助かったよ」


 何とか元気付けようとしてみる。


「同情してくれるのは嬉しいです」


 カエデさんの表情は冴えないままだ。


「でも、最近思うんです。

 今のリンクスさんはすごく冒険者として優秀だなって。


 ルナテラスさんの紹介だからってわたしなんかと一緒にいない方が……」


「そんな事ない」


 はっとこっちを見るカエデさん。

 つい話を遮ってしまった。


 脳裏にパーティ追放の時の事のベルナールの言葉がよぎっていた。


「Fランクのお前よりまともな冒険者と組めば、俺達はもっと大きな仕事ができる。

 もっと上を狙える」


 あの時の事はFランクを脱した今でも夢に見る。


「ごめんね。

 でもそういう事じゃないよ」


 これははっきり言っておこう。


「僕はルナテラスさんに言われただけで、パーティは組まない。

 それに、つてがないからって、誰とでもパーティを組む訳じゃない。


 確かにモミジさんの強さは魅力だけど、それだけじゃない」


「だったら何で……」


「モミジさんの強さは、日々の鍛練なくしては成立しない。

 あの強さは、君が鍛練を怠っていないからだ。

 違うかい?」


「でも今のわたし自身は……」


「僕は4年かかった。

 だから2年目の君を待つくらい、どうって事はない。


 嫌な事を続ける事はないよ。

 でも、僕は迷惑なんて思ってない。


 僕は本心から君とパーティを組みたいって思ってる」


「リンクスさん……」


「だからカエデ。

 今日から僕の事はリンクスと呼んで欲しい」


 これも、いつ切り出そうかと思ってた。


 戸惑うカエデ。

 真っ赤な顔で涙ぐんでいる。


「じゃあ……、わたし、わたし……!」


 僕とカエデが仲間として打ち解けた瞬間だ、と思ったが……


「粋だねえ、リンクスの旦那」


 一変して不敵な笑みを浮かべているカエデ、いやモミジ。


「何でこのタイミングで出て来るんですか?!」


 この入れ替わりはさすがに、デリカシーがないと思う。


「そのくらいカエデもテンションが上がったって事でさあ」


 モミジはあごに手を当て、しみじみと言った。


「コイツ、面白いぞ」


 ウガガウもモミジに興味深々だ。


「でも、あっしはやはり、リンクスの旦那と呼ばせてもらいやすがね」


 もうそれは自由にしてもらうしかない。


「これからもカエデをよろしく頼みやす」


 改まって一礼するモミジ。


「こちらこそ。

 モミジもこれからもよろしくね」


 モミジはたださわやかに笑って、言った。


「あっしは必要がなければ、お役御免でいいんですよ」


 会話を聞いていたルナテラスさんが僕に近づいて来る。

 そして、


「魔王が倒されて平和になったら、カエデちゃんの故郷に行きましょう」


 そっと僕に言ってきた。


「もちろん、彼女が望むのならだけど」


 僕はビックリした。

 さすがにそこまで言うとは思わなかった。


 ウガガウに加えて、カエデさんの事まで。

 ルナテラスさんは本当に面倒がいい。

 だけど、さすがにやり過ぎじゃないか。

 他のFランク講習受講者のケアもやっているみたいだし。


「ルナテラスさんは、どうしてそんなに優しいんですか?」


 思わず聞いてしまう。

 一瞬の間があった。


「わたしは誰かを見放して、後悔したくないんだ」


 そう言った。

 そして、遠くを見るような目になった。

 この人の過去にも、きっと何かあったのだろう。


「僕もできる限りお手伝いします」


 それが何なのか分からないが、寄り添って力になりたい思った。


「あ! そうだ!」


「な、何ですか?!」


 ルナテラスさんがさらに僕に近づいてきた。

 かすかないい香りが漂って来る。


「な、何ですか?!」


「ちょっとライブラリしてみましょう」


 見つめて来たのでこちらも瞳を合わせる。


 相手のステータスウィンドウを閲覧するライブラリ。

 レンジャーのルナテラスさんが得意とする魔法だ。


 不意の事でどぎまぎしてしまう。

 引き込まれるようなブラウンの瞳と鮮やかな唇。

 なぜだか息が止まるような思いがした。


 能力診断の時だって見つめられたが、こんな気持ちにはならなかったのに。


「ごめんね」


 ルナテラスさんは一度目をそらすと、目にかかっていた前髪をかきあげた。

 そのしぐさで一層、いい香りがしてきた。

 なんだか呼吸が苦しい。


「オッケー。顔を上げて」


 ライブラリの魔法を受ける時は瞳を合わせる。

 分かっているのに、顔を上げるのをためらってしまう。


 恐る恐る顔を上げる。


 王都暮らしの都会のお姉さん。

 美人でスタイルもファッションセンスもいい。

 そんな人は王都にはたくさんいるのだろう。


 その程度にしか思っていなかった。


 しかし、今、至近距離で顔を合わせているルナテラスさんは……、


 何だか特別に美しく、誰よりも美しく見えてしまう。

 何で今までそう思わなかったのだろう。


「ほら、やっぱり!

 リンクス君、ランクが上がってる!」


「Dランク

 その分野のプロフェッショナル。

 通常の依頼ならば、そつなくこなせる能力がある」


 言われるままに自分のステータスウィンドウを見るが、あまり頭に入って来ない。


「カエデちゃんもだよ!

 やったじゃない!」


 もうカエデと瞳を合わせてるルナテラスさん。

 でも、今でもあの人の香りを間近に感じる。


「オレは! オレはー!?」


「ウガガウちゃんはまず登録からね」


 みんなの会話を遠くに感じる。

 まだドキドキしている。


 ……………


 僕はどうやらルナテラスさんに恋をしてしまったようだった。


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